281.お兄様達の婚約発表も楽しみね

 ドレスの裾を持つ公爵家所縁のご令嬢達は、二人とも淡いピンク色だった。ドレスの艶を抑えて、目立ちすぎないよう工夫する余裕がある。こういったところ、本当に素晴らしいわ。


 側近達は散々迷った結果、ドレスの色をラベンダーで統一した。リュシアンもクリーム色の民族衣装に、紫のスカーフを飾っている。私の瞳の色を使うことで、未来の女王陛下の側近であると示すことにしたんですって。ラベンダーのドレスに黄金の飾りを、宝石類はそれぞれの瞳や髪色に合わせていた。


「ローヴァイン男爵、ご機嫌いかが?」


 見覚えのある紳士の挨拶に、微笑んで軽く目を伏せる。爵位は低いが、その地位は立派なものよ。上が吹き飛んで見通しが良くなり過ぎた貴族派の、まとめ役だもの。本人は相談役だと逃げているけど。実質的な支配者であるのは間違いないわ。


「ローゼンミュラー王太女殿下、並びにワイエルシュトラウス殿下へ、結婚のお祝いを申し上げます」


「ありがとう」


 そつなく微笑んで返し、ついでに数人の貴族派の若者を紹介された。今後の貴族派を引っ張る期待の星みたいね。顔を覚えておくわ。扇を揺らして承諾を伝える。紹介を終えたら、すっと引くあたりが上手だった。


 テオドールを「ワイエルシュトラウス殿下」と呼んだのは、王族だけれどまだ肩書きがないから。結婚したことで、テオドールは王太女の夫になった。でも女王陛下であるお母様が退位なさるまで、王配はお父様の肩書きなの。


 勝手にテオドールの名を呼べない以上、侯爵としての家名に、王族となった敬意を添えて「ワイエルシュトラウス殿下」となる。常に女系で国を治める我が国ならではの慣習よ。他国の王族には、珍しく映るでしょうね。


「結婚おめでとう、ヒルト。いや、ここはローゼンミュラー王太女殿下と呼ぶべきか」


「やめて、カールお兄様。笑ってしまうわ」


 エルフリーデと腕を組んで現れたお兄様は、これから婚約披露とあって気合いが入っていた。彼女の瞳と同じ緑の宝石を、カフスやピンタイに使う。絹の手袋で覆われたエルフリーデの左手の薬指に、青い宝石の指輪が光った。


「ブリュンヒルト王太女殿下にご挨拶申し上げます。ご結婚、おめでとうございます」


「ありがとう。お兄様もエルフリーデも、婚約おめでとう。その指輪はお兄様がお選びになったの?」


 シンプルな一粒石を、黄金の花が半分ほど覆っている。豪華なサファイアの大粒を、わざと小さく見せていた。花模様の縁が、サファイアに乗り上げる形なのね。じっくり観察して首を傾げたら、カールお兄様が小鼻の脇をバツが悪そうに掻いた。


「それがな、選んだサファイアの指輪を渡したら、加工されてしまった」


「キャンディみたいな宝石を渡すからですわ」


 ツンとした物言いだけど、エルフリーデの頬は赤く染まっていた。それに口元も緩んでいるわよ。大き過ぎる宝石を割らず、上手に利用したのね。


「素敵よ」


「ローゼンベルガー王子殿下、ツヴァンツィガー侯爵令嬢。女王陛下がお呼びです」


 迎えに来た侍従に案内され、二人は腕を組んで人並みを抜けていく。婚約発表ね。


 すでに庭の方では、パーティーが盛り上がっている。重大発表を直接聞くのは、高位貴族中心になりそうだわ。婚約披露に立ち会うため、私達も玉座の方へ足を向けた。

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