277.偶然にしては出来すぎているわ
人族が狡猾なのは事実だけど、もうひとつ共通点があったわ。私、エルフリーデ、クリスティーネ――三人とも転生者なのよ。前世の知識があるから、輪をかけて策略に強いのかも知れなかった。
前世の人生に、今生のやり直しがプラスされるんだもの。精神年齢は倍近いのよ。うまく立ち回れるでしょうね。物語の先を知って、足掻くだけの余裕があったのも大きい。その点、エレオノールは出遅れていたもの。
……偶然かしら。転生者である私達は、全員人族に転生したのね。獣人も魔族もエルフもいる世界なのに? 二人なら偶然で片付くけれど、三人となれば確率がおかしいわ。いくら人族が多い世界でも、一人くらい人種が違うはず。
「いてっ」
リュシアンを慰めようとした精霊が何か失敗したみたいね。大きな声をあげた彼に考えを遮られた。考えても仕方ないわ。どうやって転生したのかも不明なのに、神様だか大いなる意思だか知らない思惑なんて、想像するだけ無駄よ。
沈み込みそうだった思考を振り切り、私はお茶を飲み干した。やや温くなったハーブティーは、底に溜まった蜂蜜の甘さが喉に残った。
「ブリュンヒルト殿下、お申し付けの作業が終わりました」
「ご苦労様。これから女王陛下のところで、衣装合わせがあるの。悪いけれど、休憩させてあげる暇がないわ」
「構いません」
入室したテオドールを連れ、私は廊下へ出た。手を組むことなく、先に立って歩く私の後ろにテオドールが付き従う。いつもの光景よ。でも、今後は少し変わるでしょうね。
昇降魔法陣に乗ったところで、私は手を差し伸べた。すっと下から支えるように受ける金髪金瞳の美形は、幸せそうに唇を寄せる。
「すべてご希望通りに仕上げました。褒美をいただけませんか」
「あら、自ら強請るなんて……躾直さないとダメかしらね」
触れるだけのキスが数回繰り返される。手の甲に顔を寄せるテオドールは、見るからに幸福そうだった。こういう厄介な性癖だけど、嫌いじゃないわ。むしろ、今の私には心地良い。
「躾直して頂けるなら、是非に」
昇降魔法陣が止まる。女王陛下の私室がある階で降りて、私はエスコートを求めた。さっと応じるテオドールと並んで歩きながら、僅かに寄りかかる。
「式を終えたら、五日間……それでどう?」
「存外の褒美に、今から興奮が抑えきれません」
「そこは抑えて頂戴」
両親の前で、盛る犬のような婚約者と衣装合わせはごめんよ。ぴしゃんと切り捨てる言い方に、テオドールはうっとりと目を細めた。叱られたかっただけなの? 本当に面倒臭い……でも、こんな男を選んだ私が一番面倒なのかしら。
女王の執務室を通り過ぎ、奥の扉で足を止める。テオドールがノックすると、中から扉が開かれた。
「待っていたよ、ヒルト。テオドールも。衣装は届いている」
王配殿下である父エリーアスに促され、中に入った私は絶句した。
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