249.合わせるのは衣装だけじゃないの
観られなかった最終話については、後日機会を設けて話すことを決めた。きょとんとした顔のリュシアンと、気味悪い笑みでこちらを見つめるテオドール。両極端ね。別に変な話じゃないんだけど、なぜ私がこの男に言い訳する立場なのかしら。溜め息をついて妥協した。
「あなたにも後で教えるわ」
途端にテオドールの機嫌が上昇する。分かりやすい犬の調教シーンに、エレオノールがうっとり微笑んだ。
「素敵」
……私は側近選びに失敗したわけじゃないわよね?
「エレオノールの衣装は決まったの?」
「はい。この外見を活かすため、出来るだけ淡い色で攻めるつもりです。前回がピンクでしたので、ミントですね。ラベンダーはワイエルシュトラウス侯爵と被ります」
ラングロワ侯爵として爵位を得たエレオノールは、同じ侯爵のテオドールと被るわけにいかない。彼のシャツがラベンダーなのは、私と衣装合わせをした際に同席した秘書官が知っていて当たり前だった。
彼女にとって、己の新たな爵位で夜会に出るのは初めてだもの。前回は、まだ爵位が与えられていなかった。私の秘書官と言う立場で同行したので、断罪の騒動でも「ラングロワ侯爵」と名乗らなかったわ。そういう小さな積み重ねが、彼女への信頼となる。
「次は私かしら。ラベンダーと黒を避けて……オレンジ色にしますわ。お飾りはエメラルドです」
クリスティーネはあっさりと手持ちのドレスから選ぶ。ルピナス帝国の有力貴族だった実家は裕福で、周囲の選択を聞いてからでも選べるほどドレスがあるみたいね。黒髪とオレンジは良く似合うわ。
「え? 山吹色系だと、私のサフランイエローと被るかも知れませんわ」
心配そうにエルフリーデが呟いた。青に変更でもいいかな、と悩んでいる。どちらもカールお兄様の色ね。山吹色と言う表現、転生者じゃないと通じないわよ。ふふっと笑う。
「だったら、私が譲るわ。サフランイエローなら、茶髪にも緑の瞳にも似合うじゃない。青だと冷たい感じになりそうだし」
クリスティーネは前言撤回し、少し考えてから全員違う色になるよう選び直した。
「まだ婚約者もいないし、深緑がいいわ。金の刺繍が綺麗なのよ」
黒髪に青い瞳なので、クリスティーネは淡い色より深い色の方が似合う。白も素敵だと思うけどね。カールお兄様の瞳と被らないよう、青いドレスは選ばない。あれこれ悩んだ結果の選択だった。次は深紅を勧めましょう。それぞれの色が出そろい、メモしたエレオノールが微笑む。
「では皆様にお揃いのイヤーカフをご用意しましたので、必ず身に着けていただくようお願いします」
私の側近である証であり、執務室への通行証を兼ねている。用意させたのは、象徴となる百合を透かし彫りした黄金のイヤーカフだった。サイズや形状は僅かに違うものの、すべて同じデザインよ。
「苦労したんだから、無くすなよ」
ムッとした口調で念を押すのは、リュシアンだ。職人達は手一杯なので、テオドールの図案を基にリュシアンが加工した。精霊に作らせると威張ってたけど、後で聞いたら自分の手で彫る方が簡単だったそうよ。それぞれに手を伸ばし、左耳に装着していく。
「……カールお兄様の分、作り忘れたわ」
すっかり忘れてた。青褪める私に、リュシアンが溜め息を吐いた。
「二日は掛かるからな」
それでも最短で夜会に間に合わせると言い切ったハイエルフに、私は丁寧にお礼を告げた。
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