247.一つに拘る必要はなかったのね
夜会でパートナーを象徴する色を纏うのは、一種のルールだった。厳格に決まっているわけではないけれど、守らないと「仲が悪い」と噂されたりする。特に夫婦になってからは、厳しくチェックされる傾向があった。
これから婚約者を発表する場なら尚更、手を抜けないわ。大量の装飾品を前に、私は考え込んだ。
「ブローチ、指輪……ピアスは小さいわね」
向かい合えば胸元に目がいく。ブローチやネックレスが一般的だけれど、毎回同じ飾りを身に付けるなら考えものだわ。来賓によってドレスや飾りは変更されるから。ピアスはそこまで気にしなくていいけど、逆に言えば小さすぎた。気にならないほど小さい飾りでは、嫌味を言われそう。
婚約者の交代のチャンスありと判断されても面倒だわ。他の飾りと一緒に使えて、毎日身につけても問題ないもの。前世の影響で指輪に傾く。腕輪もありだけど……仕事の時に邪魔かしら。
「ブリュンヒルト殿下、私めは首輪が欲しいのですが」
「却下よ」
何を言ってるのかしらね。私が変な性癖を持っていると勘違いされたら、どうしてくれるのよ。まあ、似合うとは思う。首輪という響きもしっくりくるけど、アウトよ。
お父様とお母様は揃いのバングル。同じ物では芸がないし、何より首輪を要求するテオドールに私が合わせたら、おかしいことになるわ。貴族より晩餐会や夜会に参加する機会の多い王族は、選ぶアイテムの幅が少なかった。
「お兄様達はどうしたのかしら」
「一対の耳飾りを分けたと聞きました」
なるほど。二人とも騎士だから、戦いで邪魔にならない物を選んだのね。一対を左右で分けたら、明らかにお揃いだとわかる。そのアイディアを先に貰うべきだったわ。今更パクれない。
テオドールは影を統括し、自らも暗殺者の能力を生かして暗躍する。ならば光らない物がいいわ。夜闇で存在がバレるような反射する素材はダメ、隠せる場所ならいいかしら。やっぱり指輪? でもこの国で夜会や晩餐会は手袋を付ける。腕輪なら手袋の上でもいいけれど、指輪は難しいわ。
「ブリュンヒルト殿下、同じ場所につける必要はないのではありませんか?」
予想外の指摘に、私はぴたりと動きを止めた。お母様達がお揃いにしたから、自然とそういうものだと考えた。でも先入観よね。指輪と首飾りでも問題ないんだもの。
「それもそうね」
「私が思うに、ルールは緩いものです。数がひとつの決まりもございません。故に、同じデザインで同じ宝石を使い、セットで誂えてはいかがでしょう」
さらさらと、簡素なデザイン画を記し始めた。宝石の周囲を百合が囲み、揃いのデザインで耳飾りや首飾りを揃える。それを一揃いとして、交代で身につけようというのだ。まったくの盲点だった。
「いいわね」
「殿下のイメージなら、百合ではなく薔薇でも構いませんが」
「わかってるわ。お祖母様と被るのよね」
祖母は薔薇、母は牡丹だった。どちらも大輪の八重咲き。ならばシンプルな百合の方が映える。それにテオドールに薔薇や牡丹は派手すぎた。顔が整ってるのに薔薇とか……もう嫌味よね。
「百合でデザインさせて頂戴」
「かしこまりました」
ふふっ、場面によって付け替えが出来るし、揃えたり全く違う物を付けられるわ。バリエーションが広がるから、流行るかも知れないわ。
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こちら、新作です。完結しています。よろしければお楽しみくださいσ(*´∀`*)ニコッ☆
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
初の一万文字以内の短編です(*ノωノ)
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