211.深夜の女子会ならぬ魔女会で企む
リュシアンの精霊と、テオドールの影。両方使えば、調べられない情報なんてないわね。驚くほど緻密な情報が集まってくる。
ハーゲンドルフ伯爵家は丸裸だった。昨日花瓶に飾った花の本数や色、伯爵夫人の飲んだ紅茶の種類に至るまで。あら、伯爵閣下は随分と精力的なのね。奥様に内緒で愛人を二人も囲っていたわ。息子は父親に似たのかしら。
隠し子も発覚したことだし、引っ掻きまわすネタは揃った。どこから手を付けたら効果的か、側近達と深夜の女子会を始める。これは男子禁制なので、執事といえどテオドールは入れない。リュシアンは「魔女の夜会」と呼んで近づこうとしなかった。賢いわね。
実際、
「悪役令嬢だったんですもの。魔女でも構いませんわ」
くすくすと笑うクリスティーネは楽しそうだ。水色の部屋着はレースが多くて可愛い。逆にエレオノールはシックな黒の部屋着だった。裾と袖がフリルだけど、それ以外はほとんど装飾がなかった。エルフリーデは胸元にレースを使った大人っぽい紺色を着用。
見た目の外見と好みって、なかなか合わないのよね。分かるわ。頷く私はピンクのひらひらだった。そう、レースもフリルもふんだんに使い、お姫様っぽさ満点よ。こういう服って似合わないから、外では着用しないの。
「ブリュンヒルト様はお可愛らしいですね」
「似合わないんだけど、好きなのよね」
「分かります!!」
力一杯同意したのはエレオノールだった。可愛い外見の彼女は、ふわふわした服が多い。しかし本人の好みは「大人の女性」を体現したマーメイドドレスや黒一色のドレスなんだとか。ピンクのウサ耳がついてる時点で、いろいろ諦めたと本人は苦笑いした。
「部屋着くらい、好きなものを着たいわよね」
ここで雑談は終わり。用意させた資料に目を向ければ、さっと全員が表情を引き締めた。この切り替えは重要よ。冊子に綴じた資料を読み終えた三人は、眉を寄せた。
内容はお茶会での報告を纏めたもの、それからハーゲンドルフ伯爵家の調査内容だった。公爵家がいない貴族派で家格が高く、侯爵家より自由が利く立場だ。それを利用して、己の欲を満たすなんて最低よね。
人の尊厳を踏み躙った男に、どんな罰が相応しいか。議論は白熱した。深夜の魔女会はなかなか結論が出ず、全員の眠気が限界に達して解散となる。が、深夜に自室まで戻るのは危険なので、お泊まり会へ変更された。
大きなベッドに並び、互いの温もりで暖を取る。肌寒い季節は一人寝だと寒いのよ。これからも、ちょくちょく一緒に寝ようかしら。一番小柄なエレオノールを腕の中に包み、私は意識を手放した。
数日後、夜会の準備の合間を縫って作った計画を最終確認し、私は決行の許可を出した。お母様へ提出した夜会の名目は、王宮で働く者らへの労い。並びに、各派閥が選出した婚約者候補のお披露目とした。
これならば、文官やその妻が参加してもおかしくない。実働部隊となる文官に恩を売るのは、大切なことよ。私の治世を支える手足になるんだもの。夫人達が後押ししてくれたら、文官達の反発も減るわ。
王太女の婚約者候補が出揃うとなれば、公爵から男爵まで。すべての貴族を呼びつける理由になる。もちろん遠くて参加できない地方の貴族もいるけれど、王都で権力争いをする愚か者を網に掛けるのにちょうど良かった。
辺境伯や領地を管理する貴族は、後で通達をすればいい。今回の夜会は大きな投網だった。参加者は粛清される者、それを目に焼き付け従う者、恐れて手出しを控える者よ。最低限、参加を促す貴族家の返答は受け取った。
「楽しい一夜になりそうよ」
証拠品の束を扇のように広げた私は、赤い唇で弧を描いた。
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