158.皇族が王族より上?
「勝手に? この夜会に招待されたシュトルンツの王族に対し、なんたる無礼な物言いですか。軽い口を開く前に、よく考えなさい」
テオドールが色気増し増しの流し目でレオナを振り返る。彼らに半分ほど背を向けたテオドールの顔を見るなり、レオナは頬を染めた。作戦通りなのに腹立たしいわね。見た目のいい男がいれば、片っ端から言い寄るのが、異世界人のマナーなのかしら。
黒髪黒瞳、明らかに日本人よね。顔立ちも体型も間違いない。なのに、異世界転移するとバカばかり。転移の最中に、思考力を半分ほど捨てる儀式でもあるの? 違うなら、バカを選んで転移させてる可能性もあるわね。どちらにしろ、非常に迷惑だわ。
原因が日本の神様なのか、こちらの神様なのか知らないけど。きちんと面倒を見れないような野獣を、そこらに放置しないで頂きたいの。ずっしりと手に馴染む扇をぱちんと畳んだ。
「なんでぇ、そんな酷いこと言うんですかぁ……私はぁ、被害者なんですぅ」
語尾を伸ばす話し方、媚びてるつもりみたいだけど、バカっぽさが増すわよ。明らかにテオドールに対して秋波を送り始めた。第二皇子アウグストの表情が強張る。テオドールを睨みつけるのはお門違い。自分が選んだ雌犬の管理は、あなたの仕事だもの。
「や、やめるんだ!」
間に入ろうとした皇帝陛下を睨み、動きを止める。びくりと肩を揺らした彼は理解したようね。第二皇子は諦めてもらうわ。もちろん、私に余計なちょっかいを出した第一皇子も消えると思うけど。テオドールが生かしておかない気がするの。
「レオナ、だったかしら? 下位の者が上位者に声をかけるなんて、非常識よ。己の立場を弁えなさい」
王族として一般的な知識を口にする。悔しそうに反論すると思ったら、予想外の反応だった。きょとんとした顔で私を見つめ、心底不思議そうに口を開く。
「なんで? あなたは他国の王族かもしれないけど、私はこの国の皇妃になるのよ。
…………完全なバカ、なのね。皇族は王族より上? どこからその思想が来たの。ヨーロッパの階級を「皇族、王族、貴族」と覚えているのかも。あり得ないけど、それぐらいしか思いつかない。国力の差や力関係を無視した発言に、誰もが絶句した。
予想外すぎて、私としたことが固まってしまう。見開いた目に映るレオナが、宇宙人に思えた。思考回路が完全に別次元だわ。いえ、異世界なのだけど……そうじゃなくて。
混乱する私に、彼女は勝ち誇ったように笑った。
「ほら、何も言えないじゃない! 次期皇妃の私の方が偉いのよ」
「レ、レオナ?」
引き攣った顔の第二皇子は、まだマシみたいね。少なくとも国力差を理解していた。でも止められない時点で同罪よね。
ざわつく貴族はあまりの事態に卒倒する者が現れ、皇帝陛下は膝から崩れ落ちた。この世界は皇帝か国王か、呼び名の違いだけ。国の規模や影響力で立場は変化する。本気で信じてるところが、ある意味凄いわ。誰も訂正してあげなかったの? 異世界人特有の、都合が悪いことは聞こえない病かも知れない。
私と腕を組むテオドールが、代わりに反論に出た。
「我がシュトルンツは、このルピナス帝国の5倍以上の領土を誇る大国です。皇族が上などと愚かな発言を取り消していただきたい。大使として正式に抗議いたします。もし撤回されない場合、ルピナス帝国は地図から消えることになるでしょう」
ありがとう、正しい対応よ。お陰で我に返ったわ。貼り付けた淑女の笑みが崩れていないか、確認した私は追加する。扇を広げ、口元を隠した。
「ルピナス帝国、素敵な響きだけれど……いつまで耳に出来るかしらね」
暗に滅ぼすと匂わせた。エンペラーであっても、クイーンに倒されることがあるのよ。無知なお嬢さん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます