120.側近が過剰戦力で好戦的過ぎる
高笑いが夢と消えた私は、多少肩を落としていた。その様子を、それぞれに違う方向へ誤解される。カールお兄様は妹を失望させたかと焦り、リュシアンは次こそ確実に仕留めると拳を握った。生き餌を仕留めてはダメなのよ。
エレオノールが私を納得させる処罰を下すと意気込み、エルフリーデもカールお兄様の剣術やリュシアンの魔法を凌ぐ女傑になると覚悟を決めた。全員が見当違いの気合を入れる中、ある意味、テオドールだけが平常運転だったの。
「お嬢様、罰をお与えください」
「面倒だから嫌よ」
ぴしゃんと撥ね除ける。あ、失敗したわ。これも罰でご褒美になってしまう。無視したらよかったの? でも喜ぶわよね。変態の扱いは難しいわ。
王宮の外まで追いかけた私は、本来、危険な状況だった。婚約者のいない王太女を攫い、傷物にすれば王配の地位を得られる。そう考える貴族も少なからずいるし、他国の王族も同様だった。実際、拉致未遂事件は何度も起きている。
ミモザ国の拉致も、その意味で考えれば似てるわね。人質にするつもりだったのか、貞操も奪う気だったのか不明だけど。あの国王じゃ、そこまで知恵が回らないかも。エレオノールには悪いけど、トンビが鷹を生むって、本当にあるんだわ。
「悪いが一緒に来てもらおうか」
飛び出してきた十数人の傭兵崩れを見て、私は額を押さえた。私が王宮を出た情報が回るのが早いわね。どこから漏れているのかしら。ちらりと視線を向ければ、テオドールが頷いて指示を飛ばした。
情報漏洩の穴と、指示した貴族を特定させる。せっかくだから、ミモザの貴族だけじゃなくて、我が国の愚か者も粛清しましょう。扇を広げて、顔半分を隠した。合図を送るまでもなかった。
数人の側近を連れて、ふらふら外出した愚かな王太女に見えたでしょう? でもね、ここにいるのは一騎当千の強者よ。一部変態や変人が混じってるけど、傭兵崩れを装った騎士に負けるはずがないわ。
「我が妹に手を出すことは許さん!」
騎士らしい宣言と剣の構えから、敵に侮られてるのが分かる。この人、正規の構え方から蹴りを放つ変則タイプよ。カールお兄様が吠える間に、リュシアンは魔法を練っていた。簡単に使えて便利と呟きながら、氷の矢を作り始める。
この時点で過剰戦力なのに、精霊の剣の乙女と、暗殺者がいるのよ。絡んできた敵が気の毒になってしまった。だから煽るつもりじゃなく、本心だったの。
「手加減してあげなさいね」
「馬鹿にしやがって!!」
飛びかかった男に、カールお兄様が剣を横薙ぎに払った。顔の前で正面に構えていたはずよね? 腹に受けた剣が血を噴かないから、峰打ち? いえ、日本刀じゃないから、両刃のはず。
「ちっ、卑怯者が。下に鎧を着込みやがって」
カールお兄様、お言葉が乱れすぎて、襲撃者と区別できませんわ。溜め息をついた私の横を、エルフリーデが駆け抜けた。
「ならば、これでどうだ」
炎を纏わせた精霊の剣を突き立てる。鎧の隙間に入ったのか、悲鳴を上げた男が転がった。それを踏みつけにし、突き立てた剣を引き抜く。
「エルフリーデ、足が見えてるわ」
「あらやだ」
スリットの間から、白いおみ足が覗いてるわ。照れる彼女を守るように、カールお兄様が前に出た。自分の体で隠しながら、先頭の敵を鎧ごと叩き切る。
「よくも、エルフリーデの足を見たな!」
「勝手に見せたんだろうが!!」
もっともな反論をした男が、お兄様の次のターゲットね。エレオノールの手を掴み、しっかり握った。
「エレオノール、離れてはダメよ」
「私も戦えます」
私は平和主義の穏やかなお姫様なのに、どうして周囲はこう好戦的なのかしら?
「戦わないで。これ以上は過剰戦力よ」
振り返って言い聞かせた。そんな私の後ろでは、にやりと笑うハイエルフが魔法を放つ。
「俺が敵を逃すと思ったのか? はっはっは! これでも食らえ」
逃げ出した数人の男へ向け、氷の矢を放った。ああぁっ! そのセリフ、私が言いたかったのにぃ!
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