82.順番に説明して差し上げるわ
「国主であるわしが頭を下げても、か?」
ワシだか、タカだか知らないけど。大仰な言い方をすればいいってものじゃないわ。
「ええ。だって価値がないんですもの」
広げた扇で口元を隠す。危ない、大笑いしてしまうところだったわ。国主である王が頭を下げた、そのことに価値を見出すのは自国の貴族だけよ。王をやり込めた、貸しを作ったと喜ぶでしょう。
でもね、他国の王族である私は違うわ。ミモザ国王が頭を下げるなら、民衆や他国の賓客の前でなければ意味がない。何より、自国に利益がないの。頭を下げさせて許してしまったら、何も奪えないじゃない。
王族が交渉に当たるなら、貸し借りは早い段階で清算するのが正解よ。私の望みを聞き出して、それを叶えるなら王族の対応として間違っていなかった。謝罪ひとつで清算できるほど、今回の貸しは軽くないのよ。
「お分かりではないようね。順番に説明して差し上げるわ」
我が国の領土に侵入して畑を作った件は、すでに協定を結んでいる。だがその際に工作した事は、大問題だわ。国境を接して交易を行う以上、両国の民が夫婦や親子になることは想定済みだった。しかし、ミモザの獣人はシュトルンツから嫁いだ女性を人質に、元騎士団長を脅したのよ。これは許されざる行為だわ。
一つ目の指摘に、国王は青ざめた。これは国王も絡んでいるのだから、当然ね。辺境伯は王族との距離が近い。血筋的な意味ではなく、政略で信用できる忠臣を配置する。距離が離れた領地を与え、小競り合いを含む戦いに関する権利を預けるのだもの。信用できない臣下を配置するはずがなかった。
ここで国王が絡んだと断言できるの。食糧事情が厳しいなら、豊かな他国の領土の端を借りればいい。タダで……そんな都合のいい話が通るわけないじゃない。ミモザとの国境を守る東方騎士団にバレる。少しでも発覚を遅らせて既成事実を作るために、内部事情を知る者を間諜に仕立て上げた。
新しく送り込むより怪しまれない上、利用できる地位を持つ者の中から、弱みを握れる相手を選ぶだけでいい。私だって同じ手法を選ぶわ。だから簡単に予想がついた。
ここまで語った時点で、項垂れた国王は立ち尽くしていた。反論の余地もないでしょう? こんな小娘に負けるなんて、と悔しがる気力さえ奪ってやるわ。
「先日結んだ協定は破棄させていただくわね。あら、そのお顔は何? ご不満かしら。私を誘拐して利用しようとしたくせに」
「っ、なぜ」
「知っているか、でしょう? 気づかないわけがないわ。同じ駒を使い回せば、バレる確率が高まるのはお分かり? 元騎士団長は処分したわ。駒を失ったのだもの、駒を動かした手も切り落とさなくちゃ……不公平でしょう」
我が国の民を駒として使った罪、あなた一人で背負えるといいわね。もちろん、国王の生首なんて要らないから、使える代償をいただくわ。
「エレオノール王女は私がいただきます。まさか、お断りになるなんてバカな決断はなさいませんように。すでに私は軍を動かしておりますの」
微笑んで、こてりと首を傾げてみせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます