75.挽回のチャンスに二度目はないの
青ざめた国王は震えるばかり、王妃に至っては卒倒して運び出された。ミモザ国って力を尊ぶ獣人の国だったのに、設定ミスだわ。もっと原作を尊重しなさいよ。
原作ファンとしては不満があるけど、私がこれから物語を打ち壊すのだし……設定ミスは逆に都合が良かった。
「何なの、もう! 誰がメスよ! 邪魔しないで」
叫んだ予言の巫女の醜い顔に、支配階級特有の美しい微笑みを向ける。王族や貴族は金にあかせて美女を娶るため、必然的に子どもは顔立ちが整った。品種改良と同じ、整った顔の遺伝子は優性として受け継がれ、その子がまた美形の貴族と結婚する。繰り返される歴史の中、王侯貴族は美しい容姿を当たり前のように手に入れた。
急拵えの予言の巫女に、優雅さも容姿も負けるはずがないの。日本人の異世界転移なら、姿は胴長短足で平たい顔のまま。エレオノールのピンクのドレスと被る、薄桃色のドレス姿を鼻で笑った。
品質はいいけど、着ているモデルが酷すぎるわ。元日本人としては辛いけど、転移した日本人にドレスが似合うとしたらハーフかモデルくらいよ。それにサイズが合っていない。おそらくエレオノールのドレスを勝手に着たんじゃないかしら。
おろおろする国王は、国力の差が著しいシュトルンツの次期後継者に何も言えなくなっていた。エレオノールはドレスのスカートが皺になる程強く握り、項垂れる。もう未来が分かってしまったのね。将棋やチェスの名手が数百手先を読むのと同じ、本当に賢いわ。
「メス、そんな上等な呼び名は似合わないわね」
巻き込まれるのを恐れた貴族は距離を置き、私の周囲は舞台のようだった。天井から降り注ぐスポットライトのような照明、広間の中央で360度見渡せる大きなステージだ。先ほどの下手くそ芝居を手直しするのに丁度良かった。
「何なのよっ! あんたなんか、いなかったのに。許さないんだから!!」
物語に登場しなかったと罵るけれど、残念ながらいるの。婚約破棄騒動の後で、端役だけど登場したわ。もちろん、主役を食うつもりだから覚悟なさい。
「許す? 先ほどもエレオノール王女殿下に対して、許しますと口にしたけれど……地位も後ろ盾もない小娘が、王族を許そうだなんて。どれだけ思い上がっているのかしらね」
ぴしゃんと言い渡す。虐めたかどうか、問われたら多分エレオノールは有罪だわ。だから話を逸らした。すっと近づいたカールお兄様とエルフリーデが目配せを寄越す。護衛は任せるわ。
物語を知るエルフリーデは気付いたはず。予言の巫女の正体と、今後の展開を察した。私は口撃の手を緩める気はない。守りは任せたわ。
「先日のお茶会でも私を指差し、誰と尋ねたわね。あの場で一番地位の高い私に、一番低い立場のあなたが……あまりに無礼すぎて笑ってしまったわ。あの時庇った第一王女殿下の意を汲んで引いたけれど、二度目はないの」
目を見開いて睨む巫女を畳んだ扇で指し示し、私は国王と視線を合わせた。
「予言の巫女を処分してくださいな。無理ならシュトルンツで裁きます」
それは事実上の死刑宣告だった。
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