14.『ざまぁ』は悪役令嬢の王道ですわ

 騎士達は今後も使えるかもしれない。それがひとつの理由だけれど、もうひとつ意味があるわ。アリッサムの王族の地位を底辺まで貶めること。


 今後、我が国に統合されるしか未来のない国に、中途半端な王族が残っていると邪魔なの。その説明に、エルフリーデはすぐに応じた。


「ならば王太子は解放した方が良いかも知れません」


「元婚約者に情が残っているのかしら」


「いいえ、逆です。ここから歩いて戻る頃、王座に誰が座っているか。ブリュンヒルト様なら想像出来ると思いますわ」


「そういうことね」


 必死で歩いて王城に辿り着いたとしても、王太子は親族に処分されるだろう。私達の手を汚すより、よほど効果的な使い方だわ。王座を狙う従兄弟がいたはず。


 側近に得たいと願った武力の持ち主は、王太子妃教育をすべて身に付けたエリートだった。応用も完璧ね。


「ではそのように」


 護衛なしで戻れない可能性もあるけど、それも運命ね。鎖を解いて手錠を外し、王太子のみ放逐した。この真意を知れば、羨む騎士達は青褪めるはず。


 豪華な夜会の衣装を纏った弱い男が、盗賊に襲われたら? 王侯貴族の振る舞いを恨む農民に殺害されるかも知れない。豪華な宝石を奪うため、兵士に殴られる可能性もあるわね。王太子を名乗ったところで、誰が信じてくれるの?


 王太子エックハルトはここでお終いね。ちらりと視線を向けたのは茂みの中、音もなく影の一人が追いかけ始めた。助けるためではなく、末路を見届けるために。


「エルフリーデは、こういうの平気なのね」


「ええ、小国ですが王妃になるべく育てられましたので。それに『ざまぁ』は悪役令嬢の王道ですわ」


「ではお茶を飲んでから、出発にしましょうか」


 侍女が用意したお茶を無駄にできないわ。馬車の前に用意されたテーブルや椅子を使い、僅かな休息を取る。地面がしっかりして揺れないだけで、こんなに寛げるなんてね。少し離れた別の馬車の前で、侯爵夫妻も休んでいた。


「この石畳は夕方までには終わるわ。国境を越えれば、我が国自慢の舗装路よ」


 アスファルトやコンクリートではないが、かなり立派な舗装路が敷かれている。蜘蛛の魔物から得た粘液を利用して、砂を固めた道だ。お祖母様の代で始めた舗装だけれど、これがまた優秀だった。


 毎日馬車が走ってもひび割れひとつない。それでいて砂を利用しているので、水捌けも良かった。平らに施工してから蜘蛛の粘液をかけるため、コンクリート並みの揺れない舗装が可能だった。大使館の敷地内でも使用している舗装路だ。


「魔物の利用ですか?」


 危険ではないかと尋ねるエルフリーデに、にっこり笑って首を横に振る。


「蜘蛛の魔物は種類がたくさんあるのよ。お祖母様が見つけた赤と白の女郎蜘蛛は、大人しくて穀物や木の実を食べる草食系よ。粘液で巣も作るのに、糸は吐かないし動物も襲わない。蚕みたいな感じね」


 人の役に立つから世話をする。家畜のように大切に扱い、彼らの繁殖を邪魔しなければ、大量の粘液を与えてくれた。


「ブリュンヒルト様のチートではないのですね」


「私のチートはこれからよ」


 笑い合って馬車に戻る。侍女や侍従がさっと片付けに入り、程なく馬車はまた石畳を揺られ始めた。

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