13.罪人は相応の扱いをしなくちゃね
馬車の列はいつも同じ順番で配置される。先頭を騎馬隊、侍女達の乗った馬車、王侯貴族用の馬車、荷物や侍従達は後ろだった。最後尾をまた騎馬隊が守り、長くなった列の間を埋める形で親衛隊や護衛の騎士が左右に随行する。
王侯貴族より前を侍女の馬車が走るのは、馬車が停まれば、高貴な身分の方々の世話をする彼女らが、真っ先に準備に入るためだった。後ろの侍従達は荷物の管理を行い、また同行する騎士らの世話を担当する。理由があり決められた順番だが、今回は最後尾の騎士達の後ろに
罪人だ。当然騎乗が許されるわけもなく、荷馬車すら使用させない。自力でここまで歩かされてきた男達は、半数はズタボロだった。
「歩かせたのですか?」
驚いた顔をするエルフリーデに、淡々と説明した。
「もちろんよ。国の法に従い、規定通り扱ってるわ」
シュトルンツ国は、大陸一の領土と人口を誇る国だ。数代前の女王が小国を併合し、民族は様々に混じり合った。同一民族である周辺諸国との、一番の違いがここなのだ。
多民族国家はどうしても慣習や常識の違いが出やすい。それらのトラブルを未然に防ぐため、各民族に配慮した法整備がなされた。商習慣や賞罰の差、罪の重さに至るまで。50年近くかけて先祖が作り上げた仕組みは、現在のシュトルンツ国の基礎となっている。
差別や他民族の虐殺がないのは、それだけ罰則が厳しいから。その国の法律が及ぶ大使館で騒動を起こせば……罰が厳しいのは当然だろう。
馬車の速度は、それほど速くない。だが長距離を同じ速さで走る馬と、特権階級で胡座をかいた人間が同じであるはずはなく。遅れた者が引き摺られ、それに巻き込まれた者も手錠や鎖が食い込んで被害を受けた。仲間同士で憎み合うのも仕方ない状況になる。
「これが容疑者なら違うのよ。荷馬車に乗せる指示がでるわ。だって無罪だったら困るもの。でもね、今回は現行犯だったから……規定通り我が国まで歩いてもらうわ。途中で擦り切れて無くなるかもしれないけどね」
ふふっと笑った私は、きっと残酷な女に見えるでしょう。人を人とも思わない、女王陛下である母のように、人に恐れられる。それが孤高の王座に座す者の覚悟であり、責任だった。私はそう教わってきたし、その考えが間違っているとも思わない。
王太子はまだ埃まみれでも歩いてきたようだが、国王はかなり轢き擦られたのだろう。ブーツは擦れて足も血塗れだった。かつての部下に水を寄越せと叫んで、蹴飛ばされている。大使館襲撃に駆り出された騎士は、まだ体力に余裕がありそうだ。彼は水を奪おうとした国王を、勢いよく殴った。
手首の手錠は国王と繋がっており、どうやら太った国王の重さを手錠で受けたらしい。苛立ちと怒りが爆発した様子だった。醜い仲間割れを始めた囚人達を睥睨し、私は扇で口元を隠す。その影からちらりとエルフリーデの様子を窺った。
「思ったより、人道的なんですのね」
私の想像を裏切る発言の後、彼女は片方の眉を上げて暗記した文章を読み上げた。
「国家反逆罪と見做される犯罪者は足の腱を切った上で、牢や刑場まで引き摺っていく――違いますか?」
「合ってるわ。よく勉強してるのね」
正直、驚いた。悪役令嬢は優秀という概念だったけど、私が思う以上に即戦力じゃない。わざわざ馬車で石畳を揺られて、痛むお尻を我慢した甲斐があったわね。
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