第9話 質問と回答


 僕たちが、エルポレス山の登山口から登り始めて、三十分くらいが経とうとしていた。今まで通った山道は、整った道であり、手入れもされていて、非常に歩きやすい道であった。


「此処の山道は、綺麗に整えられてるね。」


 僕は、先頭に立ちながら後ろについてくる二人に話しかけた。


「そうですな、ここは他の山の登山道よりも綺麗に整備されてあります。」


「何か、理由があるの。」


 僕が、質問をするとオルティシアが答えてくれた。


「殿下、この山が我が国の聖地になっているのです。」


「この山が?」


「はい、その訳も登っていけば分かります。」


「ヘェ~、楽しみだな~。」


 僕は、この話を聞きまた元気が湧いてきた。もっとこの山について知りたいという気持ちによって、少し歩むペースが落ちていた足が再び力を増して動き出していた。

そして、しばらく上りの道を歩いていると、前方に岩の壁が見えてきた。


「殿下、その崖を登られた先が最初の休憩ポイントです。」


「あの崖って僕でも登れるの?」


「はい、登ることが出来ます。」


 セドイスが、そう言って来たので、崖の近くに行ってみると、確かに急な崖ではあるが、いろいろな所に摑まる場所、足を置くところなどあり、登ることが出来るようになっていた。

僕は、二人に崖の下から教えてもらいながら、一歩ずつ着実に登って行き、わずか十分で登ることが出来た。

そして、二人も崖を上がってきて、僕と合流し、少し行ったところにある休憩ポイントへ向かった。


「殿下、休憩ポイントに着きましたら、朝食にいたしましょう。」


「うん、そうしよう。」


「朝日を浴びながらの朝食は、格別ですよ。殿下。」


 そんな事を言いながら僕たちは、休憩ポイントの岩場に着き、手頃な岩に腰を下ろして、背負って来た、カバンから山小屋のご主人から貰ったお弁当を取り出して、開けた。


「何が、入っているのかな?」


開けてみると、綺麗に並べられたサンドイッチが入っていた。一つを取って食べてみると、味付け肉と野菜が入っており、とても好みの味であっという間に食べてしまった。他にも、スクランブルエッグと野菜とチーズのサンドイッチ、ブルーベリイジャムのサンドイッチなどが入っており、大満足であった。

さらに、朝食を食べている時に、太陽が昇ってきて、周りを照らし出していくと、まだそこまでの山の高さではないが、目の前に、開けた世界が広がっていた。


「あ~、これが僕たちの国、僕たちの住む世界。」


「殿下、如何ですか?」


「僕は、またまだ幼いけど、この景色を守れるようになる。」


「はっ、殿下の決意、必ず達成いたしましょう。」


「我々二人も、共についてまえります。」


「ありがとう、二人とも。」


 僕は、二人に礼を言った。そして、朝食のごみを片付けて、再び頂上に向けて歩き出したのである。

 休憩ポイントを出発して歩いていると、少し緩やかな登り坂が見えてきた。その上り坂の先の方に目を凝らすと、トンネルのようなものが見えていた。


「この先って、トンネルになってるの。」


「はい、登ることが出来ない崖になっていたために掘られたものです。」


 その説明を聞きながら歩いていくと、何故か、そのトンネルが、塞がっていたのであった。しかも、その塞いでいる扉みたいなものに張り紙がしてあった。

そこには、こう書かれていた。


【問 トンネルを開けることが、できるのはどれか? それをトンネルに差し込みなさい。】


 その張り紙を読み終えると、トンネルを塞いでいる扉のすぐそばに、何かが出現した。

出現したものを、確認すると、トンカチ、棒と石、縄、であった。


「何だこれ、どういうこと?」


 僕が、疑問に思っていると、オルティシアが意味深な事を言って来た。


「殿下、お気を付けください。最後の試練が始まりました。」


「最後の試験? 何それ?」


「大変言いにくいのですが、大賢者様のいたずらです。」


「はっ?」


 僕は、オルティシアの言葉に思わず間抜けな声が出てしまった。

大賢者リウムと言えば、我が国の建国に大きく貢献し、初代陛下の友であり師、その信頼から初代宰相を務め、今から二百年前には王国を救った救国の英雄である。

そんな人が、こんな子供じみた悪戯を仕掛け、さらにそれを最後の試練と言うとは、とても思えないのだが、オルティシアによるとこれが大賢者の悪癖だとの事である。


「どうやら最後の試練は、始まってしまっていますので、突破する必要があります。殿下には、申し訳ないのですが、お付き合いの程、何卒お願い申し上げます。」


 僕は、オルティシアが非常に気まずい顔をしていたのが、気になったが、とにかく今回の旅の目的地は、大賢者リウムの家であり、旅の目的は、大賢者との話だと思い、最後の試練に挑むことにした。


 改めて問題が、書かれている紙を読んでいく。問うているのは、このトンネルを塞ぐ扉の開け方で、出現した三つの道具の内、どれかで開けることが出来るというものであった。


「ウ~ン、どれかな?」


「この頑丈な扉を開けるのは、人では重くて無理ですな。」


「我々、三人の力を合わせたとしても無理ですね。」


 答えにつまり、扉をじっと見ていると何かが在るのに気付いた。


「扉の下の部分に穴が開いてる。」


「えっ、ちょっと失礼いたします。」


 セドイスが、地面にしゃがみ込んで草をかき分けると、その穴は、確かにあった。


「確かに、穴が開いています。もしや、この穴に何かを差し込むのでしょうか?」


 僕は、改めて問題をよく見て、ある事に気づいた。


「問題の最後の所に差し込んでって書いているよ。」


「でしたら、答えは簡単でございます、殿下。」


「えっ、どいう事?」


「思い出していただきたいのです、三日前のことを。」


 僕は、オルティシアに言われて三日前のことを思い出していた。


 王都を出発して四日が経っていた、昨日の雨がうそのように今日は、晴れ渡っている。今日は、昨日のような強行軍をしなくていいなと思いながら、オルティシアと共に馬の背に揺られていた。

 しばらくしてふと前を見ると、数人の男性が何かをしているのが見えた。何か気になり、セドイスに状況の確認をお願いした。

セドイスは、男性たちに確認に向かい、話を聞くとすぐに戻ってきた。


「どうしたの、あの人達。」


「はっ、どうも荷車がぬかるみに嵌ってしまい動かせないとの事です。」


「それは、大変だ。助けないと。」


「「はっ。」」


 二人の返事を聞き、僕たちは急いで、男性たちの元に向かった。


 男性たちの元に到着すると、僕たちは、彼らの元に駆け寄った。


「お手伝いします。」


「あっ、助かります。」


 そう言うと、セドイスが後ろから他の人たちと荷車を押し、オルティシアが前に行き荷車の持ち手を持ち引っ張ったが、全くびくともしない。


「動かないな、そうだ。」


 セドイスが、何を閃いたらしく、他の男性たちに相談をしだした。


「長くて太い棒を持っていないか、それと少し大きめの石が近くにないかい?」


「木は、荷台にあるよ、石は……」


「おい、そこにあるぞ。」


 セドイスは、指さされた所にある石を拾ってきて、荷台に積んでいる木を取り出すと、石を荷台の車輪の少し後ろに置き、木の棒を車輪とぬかるみの間に入れ、石の上に木の棒を支えるように置いた。


「オルティシア卿、せ~ので前に引っ張ってくれ。」


「分かったわ。」


「せ~の」


 と言って、セドイスが棒のもう一方の端を下に降ろし、オルティシアが荷車を引っ張ると、いとも簡単にぬかるみから車輪が外れ、荷車が、動き出したのである。

二人は、ものすごく感謝されて、そのお礼に、彼らのリーダーの家で一泊止めてもらえることになったのである。



 そのことを、思い出し、オルティシアに言うと「そうです。」と言って頷いてくれた。


「なら簡単だ。答えは、木の棒と石」


「では、早速試しましょう。」


 その時の様に木の棒と石をセットし、木の棒を下に降ろすと、頑丈な扉が浮き上がり、前に倒れてきた。扉が倒れると、トンネルがぽっかりと開いていた。僕たちは、トンネルに入り歩いて行った。


 しばらくトンネルを歩き続けていくと、前の方から光が見えだしてきた。もうそろそろトンネルの出口が近づいてきたのを感じて、歩みが少し速くなった。


 ようやく、トンネルの出口にたどり着いて、出口から出た時、そこには予想もしない光景が広がっていた。


 僕は、圧倒されていた。そこには、大小様々な建物が建ち、道が作られていて、その真ん中には、白いお城が建っているのである。

ここは、何処なんだろうと思っていると、僕を呼ぶ声が聞こえてきた。


「エギル殿下、ようこそいらっしゃいました。私の領地であるエルポレス山へ。そして、お帰りなさいませ。旧都エルボニアに。」


 その声がする方を見ると、そこには王城で見た肖像画と瓜二つの人物が立っていた。彼女こそが、大賢者ガーベリウム・フォン・ノグランシアその人であった。

僕が近づいていくと、彼女はしゃがみ込み礼をしてきた。


「お初に御意を得ます、第1王子殿下。ノルド王家が臣一人、ガーベリウム・フォン・ノグランシアでございます。」


「丁寧なごあいさつ痛み入ります。ノルド王家第1王子、エギル・フォン=パラン=ノルドです。ですが、貴方は私の臣ではありません、どうかお顔を上げてください。」


「では、お言葉に甘えて。」


 彼女は、立ち上がり、僕の顔をしげしげと見つめてきた。そしてにんまりと笑みを浮かべるとケタケタと笑い出したのであった。





 僕は、この時の初めて実物の大賢者をまじかに見て感じた、この人とは、長い付き合いになるだろうと思った。そして、実際そうなった。

 それは、先生も同じであった様で、また厄介な人物に私は、仕えることになるんだと思ったらしい。だが、再び面白そうな事に関われるとワクワクしていたらしい、そのため思わず笑ってしまったというのを、後で先生に聞いた。

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