プロローグ2


 東京都豊島区目白 とある高層マンション 朝


 チュンチュンと、スズメの鳴き声が聞こえる。俺は、もう朝だなと思うと鳴りそうになっている目覚まし時計を停めてベットから勢いよく跳ね起き、窓のカーテンを開け放った。シャァという爽快な音が聞こえ眼に太陽の光が窓を通して入ってくる。俺は、太陽光を浴びながら体を伸ばしそれが終わると、トイレを済ませ、洗面所で口をゆすぎ、髭をそり、顔を洗い、髪を整えるといったいつものルーティンを終え、パジャマからスラックスとワイシャツに着替え朝食を作るためにキッチンへと向かった。


 キッチンに着くと、コップに冷蔵庫で冷やしておいた水とポットで沸かしていたお湯を同量注いでぬるま湯を作りそれを飲み、自分のエプロンを腰に巻き手を洗いながら今日の朝食のメニューを考える。


「今日の朝は、何しようか? ウーン。 あっそうだ、昨日買ってきたサバのほぐし身があったな、これを焼いて炒り卵と昨日の茹でたほうれん草とで三色丼にしよう。後は、お味噌汁と野菜のサラダで決まりだな。」


 朝食のメニューが決まり、出汁を取ったりなどの作業してメインである三色丼が出来上がったときにキッチンの扉が開いた。


「おはよう、兄さん。」


 妹の咲奈が、眠そうな顔で挨拶をしながらキッチンへと入ってきた。


「おはよう、咲奈。 なんか眠そうだな。」


 そう言って俺は、あらかじめ用意していたぬるま湯とコーヒーを咲奈が座っている食卓に置いた。


「ありがとう、兄さん。 うん、ちょっとね。」


 咲奈は、そう言ってぬるま湯を飲み、コーヒーをチビチビと飲みながら話し出した。


「今日ね、レポートの提出があるんだけど。 書いてたレポートがどうしても気に入らなかったから、御夕飯の後ずっと直してて、で終わったのがいつもの寝る時間を過ぎていたから。だから、あんまり眠れてないの。」


 と、理由を説明してきた。それを聞きながらも俺は、手早く朝食が食べられる様に盛りつけた三色丼とお味噌汁、サラダをお盆に乗せ咲奈の前に置いた。


「ウワー、おいしそう。いただきます。」


 咲奈が食べ始めるのを確認した俺も、自分の分のお盆を持って食卓に着いた。


「いただきます。」


 俺は、幸せそうな顔で朝食を食べる咲奈を横目に見つつ自分の分を食べ始めた。即興で考えたメニューだったが、なかなかイケるな~と思いながら食べ進めていった。


「「ごちそうさまでした。」」


 同じぐらいのタイミングで二人とも食べ終えて、食器の洗い物と片づけを行い、それぞれの身支度をするためキッチンを後にした。

 俺は、自室に戻り今日使うであろう資料と必要な機材と書類をライダーバックに詰め、スーツに着替え部屋を出た。

 部屋を出ると、ちょうど咲奈も準備が終わり自室から出てくるところだった。


「忘れ物ないか?」


「うん、ばっちり。そういう兄さんこそは。」


「俺も、ばっちりだ。」


 と言う、いつもの兄妹の掛け合いをして玄関で靴を履き家の扉を施錠してマンションの駐車場に止めている、俺の愛車に二人で乗り込み目的地に向かって出発した。

 車で走行中、カーナビのワンセグからこんなニュースを読み上げる声が聞こえてきた。


『次のニュースです。一週間前に種子島宇宙センターから打ち上げられたH-3Aに搭載された人工衛星[ちがえし]が本日より運用が開始されます。この人工衛星[ちがえし]は、世界初の次元観測を行うためにつられた衛星で、この内部には宇宙空間で長期間使用できる新型の量子コンピューターと次元の揺らめきを観測する特殊なレンズを持ったカメラが搭載されており、静止軌道上から地球を観測し目には見るこのできない次元を画像化するという衛星です。』


 そんなことを、読み上げる日本の朝の顔であるアナウンサーであった。


「ようやくだね、兄さん。ここまで長かったからね。」


「あぁ~、だけどまだまだだ。観測ができたらの話だ。」


「もお~、兄さんらしくないよそんな弱気を言うのは。」


「そうか? それもそうだな。ハハハ。」


そんな風に、おどけて見せながら俺は目的地に車を走らせていた。



二十分後 東京都文京区本郷 T大キャンパス内


俺たち兄妹は、T大教職員専用駐車場に車を止めた。


「はい、到着。忘れ物無いように気をつけろよ。」


「兄さん、いつもありがとうね。それじゃ行ってきます。」


「はいよ。行ってらっしゃい。」


 ここで俺たち兄妹は分かれる、咲奈は理学研究部の方へそして俺は、T大と国が創設した[国立理論・実践物理学素粒子国際研究センター]へと向かうのである。

 この[国際研究センター]が俺の所属する研究所である。ここでは、理論と実践に分かれていた素粒子物理学を統合して、素粒子物理学の実践証明という規模も予算もかかりすぎるテーマを行っているのである。


 そんな職場に向かっていると、向こうの方から女子大生のグループが歩いてきていた。彼女たちは、俺に気が付くと。


「「「先生、おはようございます。」」」


「「「「教授、おはようございます。」」」」


「おはようございます。皆さん」


俺は、丁寧に挨拶を返した。


挨拶も終わって歩き出そうとすると、一人の女子大生が駆け寄ってきて質問を投げかけてきた。


「教授、すみません。少し解らないことがあるので、質問させてください。」


「いいですよ。どんなことでしょうか?」


俺は、彼女が疑問に思っていたことを聞きそれを解決する為のミニ授業を行った。それにより彼女は疑問を解消しお礼を言って去っていった。


「教授、ありがとうございました。」


「いえいえ、どういたしまして。また解らないことがあれば聞きに来てください。それでは。」


 俺も、そういって別れ研究センターに向かって再び歩を進めだした。数分間並木道を進んでいくと研究センターの門が見えてきた。この研究センターは、その高度な研究テーマから厳重なセキュリティ管理がなされている。そのレベルは、DAPPA(アメリカ国防高等研究所)と同じレベルである。


 研究センターの門が近づいてきた、俺はスーツの内ポケットから特殊なIDパスを取り出し門の壁に埋め込まれている、機械かざした。


『ニンショウシマシタ。』


と伝える機械音が聞こえて門が人が通れる幅だけ開く。俺がそこを通り抜けると、門が自動的に閉まった。

そのまま敷地の中を歩いていくと、次のチェックポイントが近づいてきた。それは、研究センターの建物の入り口にある光彩・指紋・静脈・声紋を駆使したセキュリティである。

俺は、その装置に手と頭を置いて声を出した。


「神出 正弥」


すると機械音がしてドアが開いた。


『ニンショウシマシタ。ドウゾオハイリクダサイ。プロフェッサー。』


そうして開いたドアから入る。しかしセキュリティは、まだあるのである。それが金属探知機とX線検査装置そしてカードマンさんである。


「おはようございます、教授。荷物と貴重品をおわず借り致します。」


「おはようございます、七川さん。お願いします。」


 俺は、ガードマンの七川さんに荷物と貴重品を預け金属探知機を通る。その間に七川さんがX線検査装置に荷物と貴重品を通しチェックをする。チェックが無事に済めばゲートの先に行けるのである。


「はい、問題はありません。どうぞお通りください。」


「いつも、ご苦労様です。」


七川さんからのOKをもらいお礼を言ってその場を後にゲートで先ほどの特殊なIDを使いセーフティーバーを開け中に入る。そのまま廊下を進み階段を三階まで登りまた少し廊下を進むと、私の部屋が見えてくる。


[Professor Masaya Kamide]と書かれているプレートがある部屋に着いた。部屋に入ると俺よりも五歳くらい年上の女性が座っていた。彼女は、俺の専任秘書の山崎 さゆりさんである。


「さゆりさん、おはようございます。」


「おはようございます、神出教授。」


簡単な挨拶を終えて、席に着き必要なものをライダーバックから出して机に置いたらさゆりさんがやってきた。


「教授、今日のご予定をお伝えいたします。この後の十時から理学一号館での授業あります。それが終わりましたら、昼食を挟みまして、十三時より次元観測室での観測を開始するとなっております。」


 今日の予定を伝えながら、コーヒーを持ってきてくれた。


「どうぞ、熱いのでお気を付けください。」


「ありがとう、さゆりさん。コーヒー、いただきます。」


 コーヒーを飲みながら、十時に始まる講義の準備をしいてるとドアがノックされ誰かが入ってきました。


「正弥、居るか。」


 そう声をかけてきたのは同じ研究センターの同僚でT大理論物理学准教授の橋谷 輝夫でした。年齢は私と同じ二十五歳で、愛称はテルである。この歳で准教授になった秀才である。


「どうした、テル。何か問題が起きたのか?」


そう尋ねると。


「いやいや、そうじゃないよ。今日、俺も一号館で講義だから一緒に行かないかって誘いだよ。」


「あぁ、そうなのか。だったら一緒に行こう、こっちもあと少しで準備が整うから。」


「おう、じゃあ部屋の外で待ってるな。」


 そう言ってテルは、部屋を出ていきまた。


 テルを待たせっぱなしにしているのは悪いので、急いで講義準備を終わらせました。部屋を出る前にさゆりさんに連絡事項を伝えました。


「じゃあ、さゆりさん、行ってきます。電話は観測室からの最優先で私に廻してください。それ以外の電話は後で折り返すのでまとめて報告してください。」


「はい、解りました。お気をつけて。」


そう言って部屋を出てテルと合流して理学部一号館に向かった。

 テルと一緒に連れだって一号館に向かっている間、テルといろんな話をした。次のCERNでの衝突実験、スーパーカミオカンデのニュートリノの観測結果、そして今日から観測を開始しする次元についても話した。そんな風にしゃべっている間に一号館に着いたのでテルと一緒に中に入りそこで別々の教室に向かうため別れた。


 そして、学生たちに俺の専門である理論・実践物理学の講義を一時間半行った。その講義をしている時に学生から質問が飛んだ。


「神出先生、質問があるんですけどよろしいですか?」


 俺の講義は、学生からの質問が主体となる講義である。そのような講義を行う理由は、これは物理学という学問は自ら主体性を持って学ばなければならないものだと俺は考えているからである。理論・実践問わずその根底には数学の複雑な計算が必要となってくる。これは途方もなく長い計算であり根気ものを言うのである。そのため学生たちにはこの根気を培ってほしいためあえて俺からの講義は行わず学生からの質問に答えるという講義にしているのである。


「先生が、物理学を始めたきっかけって何ですか?」


 そんな質問を受けて俺は、ふと昔のことを思い出していた。

 それは、俺が小学校一年生で妹がまだ保育園の年少組頃だ。その頃の俺たち兄妹の両親は非常に多忙でなかなか子供たちとの時間が取れないことを非常に悔やんでいた。その頃の両親は、若くして二人で起業した会社が安定的な業績を出せるようになってきた頃であった。ここで両親は、大きな賭けに出ることにした。それが新たな事業の立ち上げであった。最終的にはこの賭けは成功し両親の会社の業績を飛躍的に高めることとなるが、この成功の裏で犠牲なったのは家族の時間であった。このころの俺は、両親たちがとても大変だというのは子供ながらに分かっていた。しかし妹は、まだ三歳で両親甘えたい盛りであった、そのためよく泣いていたのを覚えいる。そんな子供たちを、心配した両親がある日俺たちに本やゲームなどを買ってきてくれた。俺たち兄妹は、この両親からのプレゼントを気に入り毎日読んだり遊んだりした。そして年月がたち中学生になった俺がとある疑問を感じたのは、それは本やゲームの中の世界は別に存在するのではないかという疑問であった。そのような疑問を感じた理由は、ある時ニュースでやっていた神の公式が発見されたというものであった。その公式を使えば、パラレルワールドも五次元以降の次元も存在すると理論的には証明できるが、見ることも聞くこともできないというものであった。俺は、それはおかしいと考えた。本やゲームの中の世界、それに似た世界が別の次元や位相存在しそれがなんだかの影響によってこちらに伝えられていると考えたのである。そのことがきっかけで物理学を学び始めたのである。


 そうなことを回想しながら、学生に答えた。


「本やマンガ、ライトノベル、そしてゲームがきっかけで学び始めたんだ。」


 それを聞いて学生は、ポカンとしていたがなるほどなといって席に着いた。その時、講義終了のチャイムが鳴った。


「それじゃ、講義は御仕舞い、来週のレポート提出忘れるなよ。」


と言って片づけをして講義室を後にした。その後、学生食堂でご飯を食べて研究センターに戻ってきた。それから、少し仮眠をして十二時五十五分になったので研究センター地下四階にある次元観測室に向かった。


 次元観測室に着くと、これから始まる世紀の実験観測に向けてあわただしく準備が進められていた。実験の要を担う人工衛星[ちがえし]は静止軌道上にスタンバイしている。後は、こちらの準備か整えば実験を開始できる。そのため、俺はみんなの気持ちを一つにするために言葉をマイクに向かって発した。


『皆、手を止めずに聞いてくれ。これからいよいよ実験を開始する。ここまで一年以上もの間長い長い闘いをしてきた。それがようやく報われる時が来た。皆、本当にありがとう。だがこれからも闘いは続く、今まで以上に苦しい闘いかもしれない、しかし私だけでは闘えない。どうか皆、もう一度私に力を貸してくれ。そしてみんなで次元の煌めきを見よう。』


 そう言葉を締めて頭を深々と下げた時。

「「「「「「「「「「「「「「「はい―――――――」」」」」」」」」」」」」」」


そう皆が言う声が聞こえてきた。

 そしてすべての準備が整った。


「これより、次元観測の実験を行う。」


「全員、ゴーグルを着用せよ。」


俺の開始の合図とともに安全のためゴーグルの着用が行われた。


「[ちがえし]プローブ射出します。」


「プローブ、所定の軌道に投入されました。」


「よし、プローブ着火。」


「着火。」


 そうすると画面に映るプローブ激しい光を放っていた。


「プローブ着火終了まで5・4・3・2・1・0 着火終了。 燃え尽きました。」


 そして長い沈黙の後。


「成功です。」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ヨッシャ―――――――――――――――」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 観測室が、歓喜に包まれた。俺はそれを見ながら呆然としていた、だがその時、俺を立たせた人がいた。


「おめでとう、神出君。やはり君はすごいな。」


 そお、俺を立たせたのは俺の恩師であり、この研究センターの所長でもある、海藤 涼助T大名誉教授だった。

「はい、ありがとうございます。先生。」


 俺や、他の教授たちさらにスタッフたちが盛り上がっている中、[ちがえし]からある画像が送られてきた。


「[ちがえし]から画像が送られてきました。」


 スタッフ一人が報告してきた。


「メインスクリーンに出してくれ。」


 俺は、そうように指示を出しその画像がメインスクリーンに映し出された。その画像に写っていた現象に我々は度肝を抜かれた。


「これが、次元の煌めき。」


「なんて美しさだ。言葉では表せない。」


ただただ、それを皆呆然と見つめていた。その画像に写っていたものは、新たな人類の未来であり、可能性であった。








『速報です。スウェーデン科学アカデミーが、今年のノーベル物理学賞の受賞者を発表しました。今年の受賞者は、[国立理論・実践物理学素粒子国際研究センター]教授 神出 正弥さんに決まりました。』

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