ノーベル賞受賞者が乙女ゲームの世界に転生した。
鹿島 ギイチ
序章
プロローグ1
1
東京湾上空 飛行機内
「皆様、当機はまもなく東京国際空港に着陸いたします。シートベルトのご確認をお願いたします。」
というCAさんの声が聞こえてきた。
「ようやく、東京に帰ってきましたね。」
そう言うのは、右隣に座る今回の旅での俺の同行者の一人である男性だ。彼は、俺よりも一回り年上であるが同僚である。
「あ~、疲れましたよ。まさか一日でとんぼ返りするとは、思っていませんでしたよ。」
俺は、右隣に座る年上の同僚に文句を言った。今日朝早くに東京から飛行機に乗り鹿児島に行き、また飛行機を乗り継いで種子島に向かいそこでの用事を済ませたらすぐにまた、飛行機に乗り鹿児島へさらに東京へという弾丸ツアーであった。
「たしか、種子島の方で明日一日、ゆっくりとする予定でしたよね。話が違いますよ。」
「すみません、本来はそうだったのですが、こっちにすぐに帰ってこいと言うのが上からのお達しでして。」
予定が変わった理由を左隣りのもう一人の同行者が説明してきた。彼は、俺よりも二歳年下の大学院生だ。
「その代わりと、言ってはなんですけど一週間の休暇をくれるそうです。」
「なるほど、こっちで休暇を過ごして次に備えてくれってことね。了解したよ。」
俺は、上の人たちが気をまわしてくれたのだと思い、それ以上彼を追求しなかった。
この後も、他愛もない話を続けている内に飛行機は羽田空港に着陸した。飛行機から降りた俺たち三人は預けていた荷物を受け取りロビーに向かった。
ロビーに向かっている途中で年上の同僚がこう言ってきた。
「この後、どうです飲みに行きませんか?」
「すみません、今日は妹が迎いに来てくれているのでこのまま帰ります。また誘ってください。」
「自分も、すみません。母が迎いに来てくれますので、また今度で」
俺と大学院生の彼は飲みの誘いを断っていると。その時だ、年上の同僚のスマホが鳴ったのは。
「はい、もしもし。」
同僚が、電話に出るともの女性のものすごい声が響いてきた。
『あんた、羽田に着いたら連絡しなさいと言ったでしょう。いつまで、待たせるのよ。』
その怒声にアワアワしながら答える同僚。
「そんな大きな声出すなよ、今から連絡しようとしてたところだから。」
そう同僚が弁解をしようとしたら。
「嘘言わないの、誰かを誘って飲みに行ことしてたんでしょう。こっちは迎えに行く準備してるのだから早く電話をしてくるの、分かった?」
「分かった、分かった。次から気を付けるから、もう勘弁してくれ。」
同僚は、悪いと思っているのか電話の向こうの女性にペコペコと頭を下げながら謝り倒していた。そんな一悶着もありながら俺たちは空港の到着ロビー着きそこで、それぞれの迎え者が持つ場所に行くために解散となった。
「それでは、御二人ともまた一週間後にお会いしましょう。」
「えぇ、また一週間後に。」
「休暇、楽しんでください先生。」
そう言って俺たちは、解散し、俺は、妹が待っている方向へと歩き出した。キャリーケース牽きながらしばらく歩くと妹の姿が見えてきた。
「ただいま、咲奈。」
「お帰り、兄さん。」
彼女の名前は、【神出 咲奈】。歳は21。身贔屓もあるもののかなりの美人である。顔やスタイル、性格ついては言わずもがなであるが、彼女の特筆すべきことは、その頭脳明晰さである。そのレベルは、この歳で大学を飛び級卒業し大学院の博士課程を受けているという、ハイスペック理系女子である。
「兄さん、種子島で泊まってくるって言ってなかった?」
「俺も、そのつもりでいたんだけど上の連中が変な気の回し方をしてこっちで一週間休暇をとれってことに変更になったらしい。」
「ふ~ん、そうなんだ。私も、明日から休暇だから一緒に過ごせるね。」
と言って、俺の腕に自分の腕を絡ませ来た。我が妹のたった一つの非常に残念なところは、この重度ともいえる[ブラザー・コンプレックス]所謂ブラコンである。妹のブラコンは筋金入りで、例えば俺が高校三年生時まで一緒に風呂に入ったり、俺が自室でくつろいでいたらものすごいラフな格好でくっついてきたり、大学進学時には俺が一人暮らしをしているマンションに越して着たり、挙句の果てには、俺に彼女ができた時にはものすごく彼女を毛嫌いし、デートについてくる始末という具合である。さらに言えば、妹には浮いた話が一つもない。中高大とその美しさと頭の良さ、性格良さで告白してくる男子はものすごい数だったと記憶しているが、何故か全員が玉砕をしまくっているのである。一回だけ妹に訳を聞くと「私が彼氏に選ぶのは兄さんととっても似ている人、すべてが兄さんに似てなくちゃダメ」と兄にとってはうれしい言葉だが、男にとっては残酷な最後通牒である言葉が返ってきた。
そんな妹に腕を引かれながら空港の駐車場に止めている車に向かって歩いていく。
「あっ、兄さん。兄さんが留守の間に〈例のアレ〉が届いたよ。届いた物は兄さんに机の上に置いといたからね。後で一緒にやろう。」
と言う妹からの報告が来た。
「〈アレ〉、今日届いたのか。これは貫徹しなきゃな。ハハハ、楽しみだぜ。」
と言いながら俺たち兄妹は、車に乗り家に向かって羽田空港を出発した。
三十分後 東京都豊島区目白 とある高層マンション
「ただいま~」
「ただいま~。お帰りなさい、兄さん」
羽田を出てからは、ひどい渋滞もなくスイスイと俺たち兄妹の住む目白の自宅に帰ってくることができた。この俺たちの住むマンションは両親が所有している不動産の一つである。俺がT大に合格し一人暮らしを始めるにあたって最上階の管理をするという条件でタダで住まわせてもらっている。大学時代から現在の職場からも近く非常に恵まれた環境で勉強や仕事に打ち込めるのは非常にありがたいことである。
「じゃあ、兄さん荷物を片付けたらお風呂に入ってね。その後でわたしが入るから。」
そう言うと、妹は自室に引っ込んでいった。
「了解、さて荷物を片付けて〈例のアレ〉を確認したら風呂に入って準備するか。」
俺は、手早く荷物を片付け〈例のアレ〉を確認して風呂に入り自室の私用デスクトップを起動し妹が来るのを待っていた。
「お待たせ兄さん、始めようか。」
「そうだな、始めよう。」
俺たちは、机の上に置かれている配達用の段ボールに入っている〈例のアレ〉を取り出した。
「オ~、これが最新作か。これでシリーズ十作目にして最終作か。」
「うん、今回も面白いストーリーになりそうだね。」
「早速、プレイしていこう。」
「何時間でクリア出るだろね」
俺を箱の中身を取り出し、ケースに入っているディスクを取り出して私用デスクトップにセットしディスクの中身をインストールしていく。インストールが終わりモニターにアイコンが出て、それをクリックすると。
〔大陸に咲く栄光の華〕
というタイトルが出てきた。そう、〈例のアレ〉とはゲームだったのである。しかもこれはただのゲームではない、シリーズ一作目から話題を呼びシリーズ十作目の今作で終わりを迎える〔咲く花〕もしくは〔咲く華〕シリーズと呼ばれる乙女ゲームなのである。
俺たち兄妹の一つの顔が、ゲームをプレイし感想と攻略法、プレイ動画を公開し人々にその情報を発信する、兄妹ゲームプレイヤーオタク≪ハルカミ≫というネットの世界ではかなりの有名人である。俺たち兄妹が、ゲームオタクになった理由は、両親が不在の時に何の間にナシ始めたゲームにはまったこと始まりである。その初めてのゲームをプレイしていくうちにゲームの面白さ、楽しさ、奥深さを知り好奇心を刺激されそこからジャンルを問わずゲームしていくようになったのである。
そんな中、インターネットでゲームのプレイ動画の配信や攻略法の公開などのコンテンツがはじまり、俺たち兄妹は今までプレイし来たゲームをもっと多くの人に知ってもらおうと思い≪ハルカミ≫を結成して映像配信やSNSなどで配信しているのである。
それから、数時間後。
「よし、トゥルーエンドクリア。終わった~~。」
俺たち二人は、交互にプレイをしながら最終エンディングを迎えたのであった。
「今回は、シリーズ一番のボリュームだったね。クリアするのは骨が折れるよ。」
咲奈が、感想を述べている。
「何が一番キツイって、これまでの九作品に出てきたヒロインがお互いに敵同士で十作目に出てくるヒロインが他のヒロインたちとの間を取り持ちながら大陸を平和にしていくってのが大変。」
咲奈も今作のボリュームと難易度にはプレイしている時から疲弊しきっていた。
「確かに、今回は今までの総決算だって言ってたけど二つの大陸を平和にしていくていうのは無謀にもほどかあるだろ。だけどそれをしなければ、トゥルーにならないのてのがすごいな。」
俺も、この最新作のボリュームの大きさには舌を巻いた。今日から一週間休暇でよっかたと思う。これを、平日にプレイしようというのは余りにも大変と言わざるを得ない。
ただ、この〔咲く花〕もしくは〔咲く華〕シリーズは、通常の乙女ゲームではない。
通常の乙女ゲームでは、ヒロインは非常に天真爛漫、悪く言えば教養がないキャラクタ-である。それが王子や貴族の子息には、新鮮に映り保護欲を掻き立てられ彼女と親しくなっていく、そしてそれを知った王子の婚約者や貴族の子息の婚約者・恋人が彼女をいじめるといった筋書きである。
しかしこのシリーズは、そう言った通常の乙女ゲームとは一線を画している。
それは、ヒロイン成長システムである。ゲームの最初期のヒロインは非常に天真爛漫な上世間知らずである。しかしその状態では学校に入ることすらできないのである。ヒロインは、学園に入るため必要な教養を身に付けるため家庭教師を雇わなければならない、しかしヒロインの実家には教師を雇うお金がないのである。ヒロインは、教師を雇うお金を稼ぎながら教養を身に付けていく。そして一定の教養が身に付いたら学園から入学許可書が届くのである。ようやく、学園に入学することができる。これで王子様や貴族の御曹司たちにちやほやされるというわけではない。ヒロインが学んだ教養は必要最低下のものであり、とても王子たちの目に適うものではないのである。王子たちの目に適うためにはそれぞれの婚約者・恋人が持つ気品さと特技さらに頭の良さ必要。これらを身に付けることによりそれぞれの婚約者・恋人と対等に渡り合うことができるのである。これがこのシリーズの大きな特徴の一つである。
このヒロイン成長システムよって、シリーズ一作目は異様なヒットを飛ばしゲーム業界を震撼させた。
ヒットした要因は、今までの乙女ゲームにあったご都合主義の設定を廃し、ヒロインをプレイヤー自身の分身と思えるようになったことであると分析されている。
「さて感想と、プレイ動画アップをやって少し寝てから、攻略法を掲載しよう。」
俺は、動画配信と感想サイトに書き込みをして、少し眠ることした。
「じゃあ、私も少し寝るね。あっそうだ。起きたら何が食べたい?」
と咲奈が聞いてきた。
「ウ~ン、何がいっかな? 咲奈の作る料理はどれもおいしいからな迷うな~。」
俺は、あれでもないこれでもないと悩み睡魔が限界に近づいたとき。
「じゃあ、カレーでお願いします。」
と俺がリクエストすると。
「エ~、またカレーなの兄さん。よく飽きなわいね~。」
咲奈が呆れた感じで言ってきた。
「頼むよ、咲奈ちゃんお願いします。」
俺は、潤んだ目で咲奈を見つめて懇願のお願いをしていた。
「分かったから、そんな潤んだ目で見ないでちゃんと作るから。」
咲奈は、俺のお願い攻撃に弱いのでしぶしぶ引き下がってくれたみたいだった。
その後、俺たち兄妹はもう一度それぞれ風呂に入りそれぞれの自室で眠りにつき午後十二時には再び起きて、俺は攻略法の掲載をし咲奈はカレーの仕込みをして、出来上がったカレーを二人で仲良く食べてこれからの一週間何をしようかと話し合うのだった。
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