転生した場所が牢屋の中で第二の人生詰んだと思っていたら隣の牢屋にカワボの幼馴染も投獄されてて救われました

穂村大樹(ほむら だいじゅ)

第1話 「転生1日目」

 下校中の俺、蓮井はすい祐利ゆうりの目には猛スピードで迫ってくるトラックが写っていた。

 ボーッとしながら歩いていた俺は赤信号なのに交差点へと侵入してしまったらしい。


 もし時間を巻き戻せるのなら数秒前に戻りたい、なんて贅沢は言わない。

 むしろ、こんな運命になるのも当たり前だよなと人生の最後を受け入れてさえいた。


 最後に聞こえてきた耳をつん裂くような乾いたブレーキ音と共に、俺の頭の中には幼馴染である東條とうじょう明日香あすかの顔が思い浮かんでいた。




 ◇◆




「イッテテ……」


 何やら硬い感触で目を覚ます。ベッドから床にでも転がり落ちたのだろうか。

 いや、自分の部屋の床よりもゴツゴツしているこの感触、間違いなく地面だ。


 俺、何やってたんだっけな……。


 そうだ、下校中にボーッとしてて赤信号の交差点に侵入したところでトラックが猛スピードで迫ってきて……。


 俺、死んだんだな。


 その答えに辿り着くまでに要した時間は僅か数秒だったが、同時にその答えが間違いであることにも数秒で気付いた。


 俺が目を覚ましたのは四方を硬い岩盤に覆われて扉だけが鉄格子となっている六畳程の空間で、ここが牢屋の中であることは明白だった。


 天国について詳しくはないが、流石に牢屋は存在しないはず。

 地獄であれば牢屋も存在するのかもしれないが、死後の世界に牢屋があるとは考えづらい。


 そう、俺は死んだのではなく、転生したのだ。


 確証はないが、牢屋の中にいるという状況から考えるに死んだというより転生したと考える方が正しいだろう。


 転生したと考えられる理由がもう一つ。


 イッテテ、と声を出した時の声が自分の声とは異なっていたのだ。

 転生して別人になったから声が変わっているのだろう。


 鏡が無いので顔は見えないが、恐らく顔も変わっているとみられる。


 想像もしていなかった展開に、死んだという衝撃の事実を通り越して一瞬喜んでしまいそうになった自分がいたが、死んだという事実を無かったことにはできるわけではない。


 死んだという事実を抱えながら、この世界で生きていかなければならないのか……。


 それにしたって転生した場所が牢屋の中ってのは酷すぎないか?


 異世界転生といえば街中や広い草原、神様がいる空間とかに転移されて、とんでもスキルとかステータスを手に入れて無双するのがお決まりってもんだろう。


 牢屋の中に転生したってことは犯罪者にでも転生してしまったのだろうか。

 いや、勇者として魔王城に突撃して敗北し、そのまま投獄されてしまった可能性もゼロではない。


 どちらにせよ最初から状況詰みすぎだろこれ。


 地下にでも造られているのか窓は無く、脱出できるとしたら鉄格子側にあるこの扉をなんとかしてこじ開けるしかなさそうだが、こじ開ける道具も知識もない。


 こんな状況でどうやって脱出しろって言うんだよ……。

 絶望した俺は地面に手をついてうなだれた。


 --ウジウジ悩んでいても仕方がない。転生したのならきっと何かしら特殊な能力が付与されてるな違いないし。

 どうせ牢屋の中に居たって何もできないのだから、何かしらイベントが発生するまで待つことにしよう。


 そう考えて俺は床にあぐらをかいて座禅を始めた。

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