SS① 王国史上最強騎士団長と王国一の美女
魔王が倒されて数か月後。
世界に平和が訪れ、世の中は空前のベビーブームが訪れようとしていた。
その原因となったのが、王都に設立された『救世主サタナエル』が祀られている神殿である。
この神殿は『魔王マモン』と死闘を繰り広げて亡くなった救世主であるサタナエルを讃えるために建設された。
そんな神殿だった事もあり、世界の全ての人々が魔王を倒した偉業を讃えるため、この神殿を必ず訪れて祈りを捧げる中、一つの噂が出回るのようになった。
『救世主サタナエル』の神殿に行けば――――――不能が改善する。
そんな噂が真実なのかは分からないが、密かに
そして――――――その結果は着々と積み重なっていき、いつしか『聖なる救世主サタナエル』は別名『性なる救性主サタナエル』とも言わるとかなんとか。
◇
「ギアンさん。おめでとう」
「ああ。ありがとう」
最近人気過ぎて全く休みが取れない娼婦館だったのだが、支配人さんにまとめて休みを取る『休館日』を作ったらどうかと相談を持ち掛けたら、稼ぎも相まって満場一致で決まったそうで、うちの娼婦館は一週間のうち、5日働き、2日休みとなっている。
今日はその休みで、ギアンさんと飲みに来ているのだ。
「それにしても、説得大変でしたね」
「そうだな…………どうにも自分の身体を気にしているようでな」
「身体…………ですか。そればかりは仕方ない事ですね」
「ああ。でもベリアルのアドバイスのおかげで何とか許して貰えたよ」
「それは本当によかった」
実はギアンさんがずっとうちの娼婦館で働いている理由は、とある女性に一目惚れしたからである。
まあ、彼女は王国の1か2を争うほどの美女なので惚れるのも分かるが、ギアンさんと彼女は意外にも幼馴染らしくて、幼い頃から仲が良かったらしい。
「あいつは幼い頃に妊娠出来ない身体と知ってから、色々諦めるようになったんだ」
「女性に取って妊娠は大事な事でしょうからね」
成人する女性達には必ず『避妊魔法』というのが、無料で受けられるようになっている。
この魔法は一度受ける事で、自分で好きなタイミングでこの魔法が解除したり、再度掛ける事が出来る。
元々戦争が多発していた頃、当たり前のように強制されることも多かったそうで、望まない出産に悲しむ人が多くいたそうだ。
そんな中、彼女達を救ったのが伝説の魔導士『アマイモン』であり、彼が『避妊魔法』を開発したおかげで、多くの女性は望まない妊娠を避ける事が出来ているのだ。
「あれは忘れもしない…………『避妊魔法』の適正
「…………」
『避妊魔法』の適正外――――それはつまり、避妊する必要がないという事。
彼女は、生まれながら妊娠出来ない身体という事だ。
「ギアンさんも凄いですね。そんな彼女を守るためにずっと娼婦館で用心棒をして…………あれがなければ、今頃、王国の騎士団長にもなれるのに」
「それは買いかぶりだな」
いや、決して買いかぶりではない。
衛兵長であるゲラルドや、騎士団長のスカーレットから聞いた話、もしかしたら王国最強はギアンさんかも知れないとの事だ。
だが当のギアンさんは
俺の結婚がきっかけで、ギアンさんは自分の中の気持ちに正直になろうと決めたそうで、昔から悩みであった性欲があまりない事も、俺の力で何とでもなるので、彼女とは既によろしい関係ではある。
ただ、何度か挑戦したプロポーズははぐらかされ、何とか伝えた時は全て断られたそうだ。
それでも諦めないギアンさんの一途な想いは本物だと思う。
元々言葉を伝えるのが苦手なギアンさんには色々伝授して、最後の最後「もしお前と結婚出来なかったとしても、俺は一生隣にいる。俺の全てをお前に捧げると誓ったんだ。
10歳というのは、彼女が妊娠出来ない身体だと知った日だ。
「あいつから『それベリアルくんが考えたセリフでしょう』と言われた」
「あはは。そりゃバレてますよね~でもずっと前からバレてると思いますし」
「だな。俺は喋るのが苦手なが、俺の本心を言葉にして貰ったと言ったら、承諾してくれた」
嬉しそうに話すギアンを見て、二人を応援し続けてきた甲斐があって良かったと思う。
それからまた数日が経過し、彼女の引退が決まった。
うちの店のナンバーワンである彼女の予定は遥か先まで埋まっていて、彼女もお客様を大切にしているので、予定としては三か月後である。
それと同時にギアンさんも用心棒卒業が決まった。
これは俺が支配人さんと話し合った結果で、彼らがお金に困るような生活は送ってないのだけれど、ギアンさん程の逸材をより多くの人を助けるべきだと説得した。
ギアンさんも俺の頼みならと承諾し、三か月後の結婚の後、王国の騎士として就職が決まった。
いずれ、騎士団長になるんだろうなと思う。
三か月後。
教会にベルの音が鳴り響いて、珍しく緊張で顔が真っ白になっているギアンさんが入っていく。
神父さんの前に立ったギアンさんは、緊張したまま後ろを向く。
そして、俺の手に導かれて、美しい花嫁が登場する。
俺の嫁でもある第二王女ことオリビアも、姉に似て凄い美人なのだが、こちらの花嫁さんもとても美しい。
王都の美女の中でも最高峰と言われるのが納得だ。
花嫁さんを導きながら、ウェディングロードをゆっくり歩く。
「緊張してますか?」
「当たり前よ……私なんかが結婚出来るなんて…………」
「ふふっ。ギアンさんも相当緊張しているみたいですからね」
「本当ね。ギアンがあんな表情をするなんて、初めてみたよ」
「それくらい今日が嬉しくて大切な日なんです」
「そうね…………」
「セリスさん。そんなに悲しまないでください。絶対に二人は幸せになれますから」
「ふふっ。私はとても幸せよ?」
「でもまだ憂いはあるんでしょう?」
「…………」
「ギアンさんの子供が欲しいんでしょう?」
「…………うん。私と結婚しても子供には恵まれないから」
そう話すセリスさんの顔は少しだけ悲しみに染まっていく。
セリスさんが幼い頃に味わった絶望は、俺には計り知れない。
俺は男だから分からないが、女性として好きな人の子供を身ごもるというのは、とてつもなく素晴らしい事なのかも知れない。
まだうちの妻達にも『避妊魔法』の解除はして貰ってない。
そろそろ…………いや、既に遅かったな。俺も色々勉強になるよ。
妻達には悪い事をしたなと思う。
神父さんの前にたどり着いた二人は幸せな笑みを浮かべる。
「二人とも」
「「うん?」」
神父さんとの事前打ち合わせ通りに事を運ばせる。
「二人とも俺の手を握ってください」
俺が両手を前に出すと、二人が不思議そうな表情をお互いに俺の手を握る。
「これは俺からの結婚プレゼントです。二人の結婚に幸せがありますように――――スキル『性痕』」
二人の手のひらに赤い魔法陣のようなモノが刻まれる。
「セリスさん。ギアンさん。この『性痕』はお互いを大切に想う気持ちが実を結ぶ祝福です。これからは
最初は俺が何を言っているのか理解出来なかったようだけど、段々その意味を知ったセリスさんの目には大きな涙が浮かび上がり、その場で泣き崩れた。
彼女を支えるギアンさんの目にも大きな涙が浮かび、二人は何度も俺に感謝の言葉を繰り返す。
王国一の美女と、のちに王国史上最強騎士団長となる男の結婚式は、泣き面で誓いの結婚式だったと伝わっている。
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