第39話 クルナ

「ベリアルさん~」


「おはよう。ユーリ」


 先に起きていた俺がリビングでくつろいでいると、2階からユーリが降りて来る。


 朝おはようのキスを交わして、のんびりと珈琲を飲んでいると、ユーリが真剣な表情で俺を見つめてくる。


「ん? どうしたんだ?」


「ベリアルさん。このままでいいんですか?」


「ん? このまま? どういう事だ?」


「…………ミーシャさんとクルナさんの事です」


 ユーリと結婚して以来、ミーシャさんとクルナさんとは会っていな――――――いと言いたかったが、そんなことはない。


 むしろ、今まで以上に頻繁に会っているというか、クルナさんはうちで住んでいるので、ほぼ毎日会っているし、ミーシャさんもほぼ毎日顔を出してくる。


「二人の事がどうかしたのか?」


「むぅ…………私はベリアルさんの妻です!」


「ん? 知っているぞ?」


「ですけど! 独り占めしたいとは思ってないんです!」


「ん? どういう事だ?」


「んも! ミーシャさんとクルナさんの好意に答えてはあげないんですか!?」


「あ~そういう事……か。ふ~む」


 別に考えていない訳ではない。


 ただ、まあ、あれだ。俺がいくらクズだとしても、正妻となったユーリに承諾もなく、あれよこれよと決めるつもりはない。隠れてならするけど。


「ユーリはそれでもいいのか?」


「当たり前じゃないですか! この『お守り』を分け合った時から、私はお二人も一緒になりたいと思っているんです」


「『お守り』? あのバザーで買ったやつか」


「そうなんですよ。これって『恋愛成就』のお守りなんです」


「『恋愛成就』!?」


 そんなお守りだったのか…………だからやけに三人が可愛く見えていたのか…………?


「これは妻としての命令です! ちゃんと二人とも話し合ってください!」


「わ、分かった」


「それと!」


「ん?」


「復讐の事は私にも相談してくださいね」


「…………ああ。最後の一人が残っているからな」


 勇者であり、俺の元仲間のクレイ。


 あいつは現在、魔王を倒すべく励む為に『暗黒の森』という狩場に出向いている。


 王都からは往復でも一か月くらいはかかる場所だ。


 王女の話だと、全く強くなれず、騎士団長にボコボコにされる毎日で、『暗黒の森』からも逃げてくるだろうと予測していた。


 帰ってくるとしたら、あと少し時間が残されているな。


「では私は仕事に行ってきますね?」


「ああ。行ってらっしゃい」


 家に止めてある『ジクレール辺境伯の紋章』が刻まれた馬車に乗り込み、魔法ギルドに出勤に向かう妻。


 さて、どうしたモノか…………。


 少し待っているとクルナさんが帰ってくる。


 最近少し困った表情で見つめるクルナさんだ。


「おかえり」


「た、ただいま!」


 明らかな空元気というか……。


「クルナさん。睡眠の後に少し話があるんだけどいいかな?」


「えっ? い、いいけど…………」


 少しだけ談笑したクルナさんは肩を落として自分の部屋に戻っていった。




 お昼過ぎ頃。


 睡眠を終えたクルナさんが降りて来る。


 最近特注で作った家から庭に出たところに作らせた『テラス』。


 テラスには日除けがあったり、食事を楽しめるようなテーブルや椅子も用意していて、のんびり出来るようにリラックスチェアを用意したり作っている。


「べ、ベリアルくん!」


「クルナさん。おはよう~」


「お、おはよう!」


 隣のチェアに腰を掛けるクルナさん。


 優しく香るクルナさんの香りが隣にいるだけで幸せを感じられる。


「クルナさん。一つ相談したい事があるんだけど、いいかな?」


「い、いいよ?」


 それにしても、クルナさんの顔に緊張感がひしひしと伝わってくる。


「俺とユーリが結婚したのは知っていると思うんだけど……」


 大きく頷く。


「それで一つ提案があるんだけど……」


 ちょっと目に涙を潤ませて頷く。




「えっと、もしよかったら、妻がいる身だけど、俺と結婚してくれないかな?」




「えっ?」


「もちろん俺の意見だけじゃなくて、妻ともちゃんと相談した上で決めた事なんだ。それにクルナさんと遊びで付き合ってきたわけじゃないから」


「わ、私なんかでいいの!?」


 その頬に大きな涙が落ちる。


「もちろん! クルナさんが知っているように、こんなクズだけど――――」


 と続きを言うまでに、大きな声で泣き始めたクルナさんが俺の胸に飛び込んできた。


「私…………出ていけと言われる……思って…………ずっと心配で……」


 それであんな不安そうな表情だったのか…………そんなつもりは全くなかったが、女性の気持ちを読むのはどうも苦手みたいだな俺は。


「でも私ってああいう仕事をやっているんだよ?」


「問題ない。クルナさんの仕事なんて、俺は立派な仕事だと思うし、クルナさんが頑張っていた理由くらい知っている」


「えっ!?」


「ごめん。実は調べてみたんだ。どうしてクルナさんがこんなに頑張っているのか」


「そう……だったんだ…………」


「気分を悪くしたらごめん」


「ううん。凄く嬉しい。私なんかの事を見てくれるなんて」


「私なんかじゃない。クルナさんは俺が惚れた女だからな」


「うん!」


 大きな涙が止まらないクルナさんだけど、満面の笑顔を浮かべて、とても美しいと思う。


「これからも末永くよろしくお願いします!」


「こちらこそ。こんな俺だけど、末永く幸せにするよ」


 この日、二人目の妻が出来た。


 お仕事は続けてもいいし、辞めてもいいと伝えると、ここまで支えてくださったお客様の予約の分まで仕事をこなすと、二週間先まで埋まっていた予定をこなすそうだ。


 クルナさんの気持ち的にも仕事をしっかり終えてから、結婚の予定だが、俺はもう妻にした気分だ。



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