第12話 クズとしての答え

「うふふ。今日もいっぱいやったね。ベリアルくん」


「ええ。ミレイアさんは今日も可愛かったよ」


 そういいながら、紙を搔き分けて耳を触る。


 あどけない表情をするミレイアさん。


「そういえば、以前話した事は考えてくれた?」


「えっと…………一応考えてはいるけど…………」


「俺はミレイアさんの料理を世界の人々に味わって貰いたいんだよ」


「うん…………」


 ここ一か月。


 俺がミレイアさんとこういう関係になって暫く経過した時、一つ切り出した話がある。




 ◆二週間前◆




「ミレイアさん。話したい事がある」


「うん?」


「そろそろ気づいているとは思うけど、俺は元々ミレイアさんが好きでここに来ている訳ではない」


「…………うん。知っているよ。こんなばばあを好きになる人なんて、いる訳がないもの」


「でも、一つ変わった事がある」


「変わった事……?」


「俺はこうして毎日ミレイアさんに会いに来るのが楽しいと思えるようになったんだよ。だから今だからこそ、口にしたんだ」


「そうか…………」


「そこで俺から一つ提案がある」


「いいよ? 言ってみて」


「ミレイアさんは自分が誰からも好かれていないし、求められていないというけれど、俺にはそう見えない。ミーシャさんだってバカではない。ここまで毎日ミレイアさんを見つめているのがその証拠だ」


「…………」


「そして、俺も生き生きしているミレイアさんが眩しくて、好きだよ」


「…………」


「だから頼みがある。ミレイアさんの腕ならきっと成功すると思うから――――」


 そして、俺は計画をミレイアさんに伝えた。


 彼女は少し考えさせて欲しいと少し嬉しそうに言ってくれた。




 ◆




「一つだけ。お願いがある」


「お願い?」


「…………貴方がこんなばばあに抱かれているのが、好きでやっている事じゃないのは知っている。でも…………」


「でも?」


「…………私、生まれて初めて人を好きになったよ。ずっと年下だけど、可愛くて、時には生意気な部分もあるけど……………………でも私を真剣に見てくれる所。本当に好きなの」


 決意を固めたように、俺と視線を合わせる。


「たまにでいいから、私とまた遊んでくれる?」


「……ああ。もちろんだ」


「うん。今日が最後じゃないなら、これからも頑張るから」


 最初はミレイアさんを痛い目に遭わせようとしていた。


 でもミレイアさんを見ているミーシャさんの幸せそうな笑顔が、次第に俺もいつの間にか彼女の手料理に幸せを感じるようになった。


 ミーシャさんの為だけではなく、ミレイアさんもこれまで受けた事がない愛情を、違う形で貰えるようになって欲しい。


 だから、俺はとある計画を進めた。




 ◇




「わあ~! ここがお母さんと私の新しいお店なんですね!」


 お店に入るや否やミーシャさんが嬉しそうに声をあげる。


 ここはこれから二人が営む料理店『ホーリーナイト』だ。


「もう少しで色んなモノが届くはずです。楽しみにしてくださいね」


「はい! ありがとう。ベリアルさん」


「はいはい。まずは掃除!」


 ミレイアさんから渡された雑巾で床や窓辺の掃除に掛かる。


 一等地というだけあり、水回りもしっかりしていて、もう使えるようになっているんだな。


 次々綺麗にしていると、業者が特注のテーブルや椅子を持ってきて、続いて調理器具も持ってきてくれた。


 すっかり夜近くまで掛かって準備が終わると、俺とミーシャさんは娼婦館に向かった。




「今日が最後ですね」


「はい…………今日まで良くしてくれた支配人や仲間には感謝してもしきれません」


「それもミーシャさんが頑張ったおかげですよ。今日は最後の仕事。張り切って頑張ってくださいね」


「はい!」


 『ホーリーナイト』が完成して、ミーシャさんは今日で娼婦館を卒業する。


 これは既に一週間前には支配人に伝えていて、快く承諾も貰っているのだ。


 俺はいつもの部屋で来る客達の性欲を今日も変えていった。




 ◇




「いらっしゃいませ」


 部屋に入ると、優しい香りが広がっていて、ベッドの上には綺麗なキャミソールワンピース姿のミーシャさんが微笑んでいた。


「待ってましたよ。やっと来てくれて嬉しいです」


 実はミーシャさんから最後の客の指定が入った。


 いわゆる逆指名というやつだね。まあ、本来ならそういうのはないんだけど、今日は特別にとの事で、ギアンさんに無理矢理連れてこられたのだ。


「え、えっと…………」


「ベリアルさん。ここに来てくれませんか?」


 ベッドのとんとんと叩くミーシャさん。


 俺は誘われるまま、ベッドに腰を掛けた。


「私、ずっと誰からも見向きもされなかったんです。あの時、怒ってくれて、飲み物をごちそうしてくださったベリアルさんがいなければ、今の幸せはないと思います。それでも、ここで頑張ってきた証として、最後の最後は――――私が好きな人をお客様として迎えたいと思いました。ご迷惑だったと思います……本当にごめんなさい」


「い、いや、そんなことはないです…………でも俺はミーシャさんの事――――」


「知っています。ベリアルさんが私をそういう目的で近づいたのではないのも知っています。だから…………最後のお客様はベリアルさんがいいです。私の最後のわがまま…………聞いてくれませんか?」


「ミーシャさん…………」


 違うんだ……。


 俺が最初にミーシャさんに感じたのはただの同情で…………ミレイアさんには後悔させようとばかり思ってただけで…………。




 でも俺も寂しかったのかも知れない。


 クレイ達に裏切られて、行き場もなくて、自分を求めてくれる人を探して、それがミーシャさんだと勝手に押し付けて、ミレイアさんにも同じ事をした。


 綺麗事を言うつもりはない。


 あの日から、俺は変わると決意した。


 この力を自分のために使って、自分の居場所は自分で手に取ってやる。


「分かりました。でも一つだけいいですか?」


「どうぞ?」


「俺とやりたい・・・・なら覚悟してください。俺は――――」


「はい。覚悟は出来ています。寧ろ、望むところです!」


 そうか…………分かったよ。ミーシャさん。


 これが最初で最後になるかも知れないけれど、もしかしたら同情以外にも恋心があったかも知れないけれど、今はそういうモノ全てを忘れて、一緒に溺れていこう。


 条件付き、特大3時間限定で、自分自身とミーシャさんの性欲値を300%に変更した。



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