第9話 やる気の出ない勇者と起たない大家(三人称視点)

 ◆勇者の場合◆


「クレイ! ぼさっとするな!」


「は、はいっ!」


 クレイは目の前の女騎士に何度も打たれ、その場に跪く。


「勇者と聞いていたが、こんなもんか。ここに来てもう一週間も経つというのに」


「…………」


 どうにもやる気が出ないクレイは、いくら訓練を受けても心の底から強くなりたい感情が湧き出ずにいた。


 そして、必ずそう思った時に思い出す男がいる。


 ――――――ベリアルである。


 心の底から怒りが混みあがってくると、ほんの少しだけやる気が出るので、訓練にも少し身が入る。


 ただ怒りに支配された動きでは、到底まともな戦いになるはずもなく、また女騎士に打ちのめさせる次第であった。




「それにしても勇者様って思ってたより、ハズレじゃない?」


「間違いないな。スカーレット様が一週間も稽古を付けてくださってるのに、全く進歩がないからな」


「なんつうか、覇気がないというか。最初はそうでもなかったって聞くけどな」


「へぇーあれで最初がやる気あったのか。まあ、どうせ毎晩姫様もよろしくやってるんだろうよ」


「だろうな。はぁいいな~俺もあんなスキルがあれば、あんな可愛い王女様を抱けるっつうのによ」


「かかかっ。お前には一生無理だー。それはそうとあの噂聞いたか?」


「噂?」


「おう。ゲラルドさんが言ってたんだけどよ。『水晶の館』が最近凄いらしい」


「まじ? あの店は元々高くてあまりいけないからな」


「そうそう。でも噂によると一回で十分過ぎるくらい体験できるらしいぜ。あのゲラルドさんが言うんだから」


「まじかよ! あの堅物先輩がやられるなんて、滅多にないぞ」


「そうそう。あのゲラルドさんが毎日通ってるらしいからよ」


「すげぇ! 今度給料日に俺も行ってこよう」


「俺も行くわ」


 兵士達は、ボロボロにやられる勇者を眺めながら、最近凄いと噂される娼婦館の話で盛り上がった。




 ◆とあるクズ大家の場合◆


「はぁ…………あんた。今日も駄目じゃない!」


「す、すまない…………」


 今日起たない自分のイチモツを見ながら、溜息が出る。


 仲良しという訳ではないが、性欲だけが取り柄で結婚した妻も段々とイライラを貯めている。


 自分から性欲を取ったら一体何が残るのかと明け暮れる大家であった。


「一瞬は起つのに…………どうして直前で折れるんだ…………俺の身体に何が起きてるんだ!?」


 それが最近の男の悩みであった。




 十日後。


「おっ。ギレさんじゃないか。最近顔色良くないね?」


「ん? あ、ああ…………」


「土地転がしのギレさんが浮かない表情なんて珍しいね?」


「あ、ああ…………それがよ…………」


 大家は彼の最近の悩みを打ち明ける。


「なんだーそんな事か。あれじゃねぇ? 奥さんに飽きてるとか」


「俺が?」


「人にはそういう時期というのもあるわけよ。そこでギレさんよ。良い情報を教えてあげよう」


「ん? 良い情報?」


「ああ。街外れの『水晶の館』って知ってるよな?」


「あ~そりゃ知ってるよ」


「あそこが最近凄いらしい」


「凄い?」


「なんでも、今までいけなくなった老人ですら、一瞬でイチコロらしいぞ」


「は? まじで?」


「そうなんだよ。俺も近々行こうかなと思ってよ。嫁にはそろそろ飽きてきたから、ここで一発抜いておかないとね」


「おお! 良い事を教えて貰えた。早速行ってみるよ」


「おうよ。楽しんでこいよ~」


「ありがとう!」


 大家はその日の足で『水晶の館』に向かうのであった。



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