第2話 スキル『性欲』

 痛い…………全身を打ち付けた痛みで目が覚める。クソクレイめ……ボコボコにしてくれたな。


 蹴られて激突した壁にヒビが入っている。


「ベリアルさんよ~家賃貰いに来たぞ~」


 如何にも狙ってましたというタイミングで家にずかずか入って来る大家。


「ギレさん。久しぶりだな…………ただこれを見てよく言えるな?」


「ぐははは! 仲間に見捨てられて全員出てしまったな? だから勇者様に楯突かずに従えばよかったのさ。ん? おいおい~うちの貸家にひび割れまで作ってくれて、どうすんだ!?」


「これはクレイのやつが俺を飛ばして出来たんだから、あいつに請求しろよ」


「いやいや、ここはベリアルさんの名義で貸したんだぞ? ちゃんとお金揃えて返せよ。じゃなきゃ衛兵に突き出すぞ?」


「…………クソが」


「3日猶予をやるよ。逃げずにきっちり金貨3枚揃えてこいよ」


「はあ!? 金貨3枚だ!?」


「当たり前だ! 貸家にひび割れを作ったんだぞ!?」


「こんなボロ家にそんな大金が掛かる訳ないだろう!」


「ふん。何とでも言え! お前が払うべき金額は変わらないからよ」


「ちくしょ…………」


 俺をあざ笑いながら家を出ていく大家。


 これも全部あのクソ勇者が仕向けた仕業に違いないな。


 まあ、今頃あの勇者様とやらは『性欲0%』の最強デバフを体験しているだろう。



 俺のスキルの名前は『性欲』。


 こんなふざけた名前のスキルだが、この力を授かったのは俺が10歳の頃で、もう10年前になる。


 最初は訳の分からないこのスキルに絶望を感じずにはいられなかった。が、このスキルを授かって変わった事は、人々の頭の上に数字が見える事だ。


 この数字が性欲値である事を知るまでそう長くは掛からなかった。


 最初に思ったのは、数字が見えるという事は、調整出来るのだろうかという疑問。


 そして、俺は10歳の若さでその力を試した。いや、試してしまった。


 性欲は0%~300%まで変更出来て、俺の視界に数字が見えていれば、誰でも好きな数字にいじれる。


 そこを歩いているおっさんでも、洗濯中のおばさんでも、杖がないと歩くのもやっとな老人も、生まれたばかりの赤ん坊ですら数値を上限させられるのだ。


 最初は数字をただ弄る事に何の強みがあるのか分からず、手当たり次第に数値を変えてみた。



 まず、ギラギラして有名な冒険者として町中の皆が名前を知るほどの人は、最初から170%だった。


 彼の数値を0%に変えてみて、様子を見る。


 すると、すぐに効果はテキメンで、全くやる気がなくなった彼は俺が数値を戻すまで狩りに行こうとはせず、ずっと冒険者ギルドで野垂れていた。


 そこで思ったのは、『性欲』というこの数値は、人間のやる気なのかなと思った。いや、何の情報もない俺はそう思い込んでしまった。



 次に美人だが普段から無愛想で冷たい印象がある近所のお姉ちゃんの数値30%をぐいっと上げてみる。


 そこで最大値が300%だと知った。


 そして、俺は後悔する事となる。


 性欲300%に上がったお姉ちゃんは相変わらず無愛想のままだった。しかし…………普段とは少し違う雰囲気。


 そのまま後をコッソリ付けると、お姉ちゃんが路地裏に逃げるかのように入って行く。


 そっと覗き見た彼女は――――――大事な部分を箱の角にこすりながら、一人で悶えていた。


 『性欲』という言葉が何を指すのか、10歳の俺はすぐに理解出来たのだ。


 それから町の人々の数値を変えながら変化を見る。


 基本的に性欲の数値が低い人は普段からやる気がなく無愛想な人が多い。


 性欲の数値が高い人は普段から明るく、すぐに異性を求めて動き回る。


 ただ、全員が全員そうなるとは限らない。


 まずは0%で絶対的にやる気がなくなるのは確認出来た。


 ただ300%だとどうしても理性が働くようで、人の前でそのような事を行ったりはしない。が、人によっては平気でする。 


 気の強いお姉ちゃんを300%にしたら、まさかその場で裸になって男を探すとは思いもしなかったね。


 それと色んな人を見たけど、170%だった冒険者さんが一番高くて、それ以上の人は見た事がない。


 一番低いのは0%の人がいて、とても不思議だった。


 そして…………一番ヤバいと思ったのは、数値に赤く色付き・・・で見える人。


 普段見える数値は黒色なんだが、たまーに赤色の人がいる。


 この人は要注意だ。


 だって………………。




 まあ、ともかく、これか俺が持っているスキル『性欲』である。




 さて…………金貨3枚を準備しないと大変な事になりそうだから、手っ取り早く稼ごうとするか。


 俺は本当はいい奴のはずだ。


 だがやり方を間違えてしまって、みんなに誤解されて裏切られてしまった。


 ならば、もうこれからはそういう我慢・・なんてしないで、誰かを思いながら生きるんじゃなくて、自分のために生きようと思う。


 それが人によっては、最低な野郎と言われてもな。


 手段を問わずに金貨を稼いでやるよ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る