俺を追放していいんですか?ヤバいスキルで置き土産しておきますね?さようなら

御峰。

第1話 最強のデバフスキル

「ガーハハハハ! これがあのリーダーなのか? 俺は今までこんな弱っちいやつに従っていたのかよ! この、クソ雑魚がよ!」


 言葉を荒げながら俺の腹部を思いっきり踏みつけているのは、今日のこの日まで同じ飯を食べ、同じ寝床で時間を過ごした弟のような存在だ。


 こいつが言っているように、俺は大したリーダーではなかった。でもこいつらをまとめようと必死になって頑張っていたんだ。でも俺の頑張りは、彼らに取っては面白くなかったらしい。


 その証拠に彼だけでなく、他のメンバーも踏みにじられている俺をあざ笑うかのように、後ろからニヤケ面で見下ろしている。


 事はスキル天からの恵みを貰った事から始まる。


 それは偶然に生まれるモノであり、人によっては必然とも言う。それが――――スキルだ。


 スキルは誰もが授かれるわけじゃないし、いつ授かれるかすら分からない。


 だが、授かったやつらに限って言えるのは――――全員強く・・なる。


 俺を踏みにじっているクレイは、普段の素行の悪さから想像も出来ないスキルを授かったのだ。


「おいおい、悔しそうに見上げてるんじゃねぇよ! 俺様はこれからスキル『勇者』で勇者になる男だぞ!?」


 そう。


 クレイが授かったスキルは、数多あるスキルの中でも、魔王を倒すべく生まれるという天賦の才を与えるスキルだ。


 それをこんなチンピラみたいなやつが…………まぁ、俺も他人の事は言えないがな。


「そんな勇者様が俺みたいなゴミを踏んでいていいのか?」


「ふん! 言うじゃねぇか!」


「がはっ!」


 またもや思いっきり踏みつけやがって…………。


「ゴミだから踏んでるんじゃねぇかよ! ガーハハハハ! ずっと威張ってたやつを踏めるなんて、なんて気持ちいいんだ!」


 そうかよ…………俺は威張りたくて威張っていた訳じゃない。


 お前のような素行の悪いやつから後輩を守る為に、わざとお前らに威張ってただけなんだ!


 それを何一つ理解せずに、ずっと恨んでいたなんて………………同じはぐれ者同士、力を合わせて生きようと集めた連中が、勇者に目覚めたやつに付こうとばかりしている。


 本当にゴミに集るハエみたいだな。




「勇者様? そろそろ行きましょう」




 開いた扉の外から美しい金色の髪をなびかせて、まるで汚いモノでも見ているかのようにこちらを眺める美女。


 彼女はクレイが勇者である事を知ると、世界で唯一魔王に敵対出来るからとすぐにスカウトに来た王女様だ。


 美しい外見からは想像も出来ないように性格が悪いが、ある意味クレイとはお似合いかも知れない。


「エリノーラ様。このクズをもう少し痛めつけますのでお待ちください」


「あらあら…………私は少しでも早くここから出たいのですが……」


「これは気が付かず申し訳ございません! 今すぐにここから去りましょう!」


 そう話しながらクレイは、スキルで強くなった脚力で俺の脇腹を蹴る。


「ぐはっ、がは…………」


 俺の身体は投げられた雑巾のように壁に激突する。


 脇腹と激突のあまりの痛さに目には涙が浮かぶ。


「ベリアルさんよ。今日まで散々俺様を利用してくれた借りは返したぜ! もう俺様の前には現れるんじゃねぇぞ! 雑魚!」


 周囲の仲間達も俺をみて、腹を抱えて笑う。


 お前ら…………クレイに付いて行っても、何もならないのに、それが分からないのか?


「クレイ! ぐは…………はぁはぁ…………本当に……俺を………………敵対・・する……つもりなんだ…………な?」


「ん? ギャーハハハ! 当たり前じゃねぇか! 俺様は勇者様だぞ! てめぇとは格が違うんだよ、格がよ!」


「そうか…………」


 哀れだ…………。


 俺にはこいつに勝てるスキルは持っていない。


 だって、こいつのスキルは世界でも一番強いと言われているスキル『勇者』だからな。


 だがな…………俺には俺の戦い方っていうもんがあるんだよ。


 今までこの力を誰かに使おうと思ったことはない。


 だって、この力って、とんでもなく悪用・・しやすい力なんだから。


 だからお前らが失敗した時には、落ち込まないようにちゃんとバフ・・を掛けていたんだ。


 それが俺を裏切る・・・ならもう容赦はしない。


「王女様よ…………お前も……同類だぜ…………」


「あら、私としましても、もう二度と貴方様には会いたくないですわ。クレイ様の敵は私に取っても敵ですから」


 くっ……そうかよ…………。


 クレイを見る王女様の目は、既にハート色に染まっている。


 もう抱かれ・・・たくて仕方ないんだな。


 何故そんな事を知っているかというと、俺のスキルが関連しているからだ。


 このスキルで、数値を上げた・・・やつらは、大体あんな表情になる。もう何度も見た光景だ。


 何度か試してみて分かったのは、俺のスキルは自分の視界にさえ映っていれば、誰にでもいつでも変更・・出来る仕様だ。


 だから、いま俺の視界に映っているお前ら全員、勇者も王女も元仲間達も全員変えてやるよ。


 俺の最後の餞別。


 ちゃんと受け取ってくれよな?















 ――――「性欲0%」


 そして、彼らの頭上に俺だけが見える数値が0になったのを確認して、俺の視界は霞んでいき、気を失った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る