第5話「お嬢様と出会い」

魔王が闇城咲夜と化してから約数ヶ月が経った。

早くも魔王軍による日本侵略の傷も癒えつつあり、

現代の政府からも学園なる施設に通う許可が下りた。


魔王には既に闇城咲夜としての記憶がある為、

人間の世界で不自由なく過ごすのも苦労はなかった。

また、魔科学兵士や魔王軍を隠す場所の用意も、

彼女の財力のおかげでなんなく準備する事ができた。


口惜しいのは彼女に現代兵器の知識が皆無な事位である。

だがそういう事は学者のロデオンに任せておけばいい。

ロデオンには私の使い魔を貸してある。

好きなように現代を探索する為にだ。


ジリジリジリジリン♪


モーニングコールの電話が鳴る。

この魔王に起きる時間を指図しようというのか!と憤る魔王。

魔王は指先を電話にかざし呪文を唱える


「破壊せよ!」


しかし何も起こらなかった。

そう、この少女の姿では一切の魔法が使えないのである。

魔王もとい闇城咲夜は仕方なく起きる事とした。


豪勢な生活は魔王の頃と比べ、衣住食いずれも不満は無い。

むしろこちらの方が豪勢な位である。

学園に向かうのも当然馬車…ではなく車なる鉄の馬だ。

魔王は自分の世界と現代との違いに驚きながらも学園に向かった。



私立エデン学園、そこはお嬢様達が集う楽園。

生徒の両親の大半は政治家や会社の重役や社長だったりする。

魔王こと闇城咲夜もその一人だ。


「ここでよい」


咲夜は車を正門へ止めさせると、そこから歩いて学園に向かった。

周囲の学生達が騒めきながら道を開ける。

どうやら闇城咲夜という存在は学園でもかなり上位の存在らしい。


「きゃっ!」


我が歩いていると後ろから誰かがぶつかって来た。


「ご、ごめんなさい!」


ぺこりと頭を下げる少女。

彼女の名は上原美晴、聖エデン学園一年生。

ショートヘアの明るくて活発な少女だ。

普段の魔王の姿ならこの様な小娘等死罪に処す所だが、

今日は潜入初日だ、目立つ訳にもいかないだろう。

我は乱れた服を整えながらも二コリと笑って少女の後を去った。


すると使い魔である小鳥が我の肩に止まる。

魔王は小声でロデオンと会話を始めた。


「あの少女ですゾ、魔王様」


「何がだ?」


「異世界転移経験のある能力者です」


「ほう…なら下僕にしておいても損は無いな」


我は来た道を戻ると先程ぶつかった少女、上原美晴が今度は地面に鞄の中身をぶちまけていた。

そして紫髪のロングヘアーの少女が美晴に絡んでいる。

彼女の名は杉田久美子。聖エデン学園2年生である。


「その辺りにしておいたらどう?」


「あ、あら闇城咲夜さんじゃないです事」


たっぷりの嫌味を込めて返答するを見るに、咲夜はこの少女に相当嫌われてるらしい。


「後輩いじめはみっともなくってよ、杉田さん」


魔王はすっと彼女の横を通り過ぎると美晴に寄り添った。

涙ぐむ彼女に手を差し伸べ、無言で鞄の片づけを手伝った。


「あ、あの、ありがとうございます!」


半泣き状態から一変して嬉し泣き状態でお礼を言う美晴。


「下僕のめんど・・・いえ、後輩の面倒を見るのも先輩の務めですもの」


魔王は下僕の証に持っていたペンダントを彼女に身に着けると、

その場を後にした。


「(お姉様…)」


そして無言でお姉様認定してしまう美晴であった。

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