第15話 徳川家康

「小早川はまだ動かぬか!!!!」


一人の男が松尾山方面に向かい叫ぶ。


「ええい!もっと鉄砲を撃ち込め!!!」


その瞬間…


「パンパーン!」


と、逆にこちらに向かって銃声が聞こえた。


叫んでいた男は驚き、地面に頭を手で隠しながら伏せた。


「な、な、な、んじゃ…。」


声は震えている。


その男の後方では、ある男を守るように何人もの護衛が立っている。


そう。ここは東軍本陣・徳川家康の陣内。


「ほ、ほ、報告~!!」


慌てた様子の伝令が陣幕に入る。


「松尾山より我本陣上空に向かって発砲。その軍を松尾山麓近くまで進軍!!」


陣内はざわつく。


「何!?金吾が!!!???」


「調略が失敗したのか???」


「まずいぞ!!!」


様々な意見が飛び交う。


銃声が落ち着くと、奥の男をかばうように立つ護衛が一人二人と後ろに回る。


最後の護衛が後ろに回ると一人の男が椅子に座っていた。



この男こそ



徳川家康である。




家康は両肘を両膝に付き頭を抱えている。




「殿!」


銃声に怯え頭を抱え伏せていた、男はその状態のまま叫ぶ。


「殿!!いかがいたしますか??」


「……。」


家康は答えない。


男は、周りの者たちに支えられながらやっとの想いで立ち上がると、家康の元に近づき言う。


「殿。小早川隊が攻めてくるとなると、いよいよ戦況が危うくなりますぞ!」


怒気がこもっている。


そこにまた伝令が入って来た。


「報告!朽木・脇坂隊敗走開始!!大谷隊への対応は未だに藤堂様があたっておりまする!」


「なんと!!!!」


男は驚愕した。


朽木・脇坂隊が敗走。藤堂高虎隊も時間の問題。


それに、島津も今にもかかってきそうな、奇声をあげている…。


「殿!!!」


「…。」


「殿!!!何か仰っていただけませぬか!!??」


「…。」


そこにまた伝令が入って来る。


「報告!藤堂高虎隊一部敗走開始!!!」


「まずい!!!」


戦況は刻々と東軍不利に動いていく。


男は冷や汗でびしょびしょになった手で顔を抑える。


(まずい。このままでは、ここまでの調略が水の泡じゃ…。)


「殿!!このままでは相手は勢いをつけて攻めてまいりますぞ!!!」


「…。」


家康は答えない。


(先程の首は討ち捨て令…。それに…。まずい。ここは…。)


 と、正信は考えながら言う。


「殿!僭越ながら軍を動かせて頂きますぞ!」


家康はその言葉を聞くと、その男を見ると


「コクっ。」と、首を下に振る。


「は!」


男は答えると、諸将に言う。


「このままでは前線が危うい。南宮山付近に配置している浅野・池田らを前線に進むよう伝えい!」


「はっ!」


と、伝令が足早に出て行く。


すると諸将は男の元に近づき言う、


「本多様!それをなさると万が一南宮山にいる吉川隊が動いたらわが軍は袋の鼠でございますぞ!!!!」


「…。」


この本多正信、


調略に優れ、いつも家康の近くにおり、家康もまたこの男を頼った。


しかし、このような戦場向きの男ではなかった。


元々は家康の嫡男秀忠の軍に従軍するはずであったが、上田で真田に足止めされる事を見越し、世紀の大戦見物したさに家康の軍に着いてきていた。


今日もこの関ヶ原の戦いに向けて、家康の調略に尽力し、その結果を高みの見物程度で参陣していた。


が、今日の家康は首は討ち捨て令を始め、違和感を感じていた。


現に、家康は何も喋らない。


(王者の風格を出されているのだろう)


と、最初は思っていたが、何か違う。


そこに伝令がまた走って来る。それも三人同時に。


一人が言う。


「報告!朽木・脇坂隊へ攻めてきた島左近隊。激しく戦をするわけでなく。威嚇するのみ!追撃はせず!」


二人目が言う。


「島津隊!威嚇の声のみで突撃の様子は見えず!」


三人目が言う。


「同じく小早川隊も上空に発砲と、威嚇の声だけでございまする。」


本多は、報告を受けると、混乱した。


「何じゃと???」


その時、家康の微かに上がった。


それを正信は不思議そうな目で見ていた。


第15話 完

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