天竜川で逢いましょう 気付いたら関ケ原合戦直前の石田三成になっていた。現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。

岩 大志

序章

序章

蝉の鳴き声すら元気がないほど今日は暑い。


夏休みシーズンに入った、この空港には、キャリーケースを転がす人間で溢れている。


ことに国際線出発ロビーの出国審査口には多くの人が列をなしていた。


そんな中、空港内のアナウンスが鳴った。


からのご案内でございます。西日本国・広島空港行きの搭乗が開始されました。お乗りのお客様は、A113乗り場へお並びください。繰り返します…。」


このアナウンスを受け、出国審査口前で係りの者が大声で案内を開始する。


「西日本国・広島空港行きのお客様がいらっしゃいましたら3番窓口を優先で開きますので、パスポートを開いた状態で速やかに出国手続きをお済ませくださいませ。」


と。


 そんなせわしない出国審査口に一人の男が電話をしながら列に並んでいた。


「あ、もしもし?岡ちゃん?ごめんごめん。うん。うん。」


列が進むと、男も話しながら前に進む。


「帰ってくるのは3日後だよ~。うん。え、行先?言ってなかったっけ?」


出国審査の順番があと二人で自分の番に回って来た男は少し、慌てながら続ける。


「西日本国の首都~OSAKA!本場のたこ焼き食べてくるぜ!ごめん、順番来たから切るね、また連絡するね~。」


男はスマホをズボンのポケットにしまうと、出国審査を受ける。


「行先は?」


「大阪です。」


「パスポートを。」


「はい。」


と、パスポートを渡すと、出国審査員はハンコを押す。


「出国 2020年8月3日 東日本国 東京徳川国際空港」




ここ東京徳川国際空港は千葉県の成田にある空港で、アジアのハブ空港としても使われるほどの巨大な国際空港である。


毎日百数十本の飛行機が離着陸をしている。


国際線の、その中でも一際ひときわ多く飛んでいるのは、1時間毎に出発している、


西日本国の首都・大阪にある『大阪豊臣国際空港』行きであった。




そう、この日本列島は、あの日から天竜川を境に二つの国に別れてしまったのである。


第二次世界大戦では、両国とも同盟を組んだが、敗戦。


一時期の両国緊張はあったものの1985年には国交正常化。


しかし、天竜川の両岸には、両国の厳重な警備が引かれている。


年に一度行われる天竜川での首脳同士の階段は形骸化されてしまったものの、歴史的行事として、今でも執り行われている。


男は初めての旅行で、ワクワクしながら窓側の座席に着いた。


程なくして、飛行機は離陸して遥か上空を飛んでいた。


眼下には東日本国民の誇りでもある富士山が見えた。


もう少し進むといよいよ、西日本国である。


そう、あの日を境にこの国は真っ二つに分かれてしまったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る