職業 アイドル
siro
1章 職業
アイドル(idol)
偶像、崇拝される人や物から転じて、人気者の意となり、現在では熱狂的なファンを持つ若い歌手、俳優、タレントなどをいう。
朝日がよく差し込む日当たりのよいマンション。寝室は白でまとめられ、遮光カーテンの隙間から日が入り彼は目を覚ました。その時、ベットの脇に置いていたスマホが震えた。まだ起きて間もない目にはデイスプレイがあまりにもまぶしく映った。だからと言って無視するわけにもいかずそのまま電話マークをタップした。
「おはようございます。」
スマホから聞こえる声は自分の寝起きで間抜けな面とは打って変わって冷静で落ち着いた声が聞こえた。その声の主はマネージャーの今井だった。そして彼はこう続けた。
「もうニュースで見たかとは思いましたが今朝、真澄勇気さんがお亡くなりになりました。」
マネジャーの冷静な声とは裏腹に俺は頭の中が真っ白になった。そして近くにあったリモコンを手に取り、即座にテレビのスイッチを入れた。テレビ画面からはいつも明るく元気なアナウンサーが暗いトーンで真澄の訃報を伝えていた。
「もしかすると、この件でマスコミが取材に押しかけてくるかもしれませんので移動の際は少し注意しておいてください。」
「分かりました。」
「では、30分後にはお迎えに上がりますので、準備しておいてください。」
そのまま、マネージャーは少し乱暴に電話を切った。どのチャンネルに変えても真澄の訃報でもちきりになっていた。どうやらマスコミの見解では自殺らしい。過去に交流のあった芸能人や街頭インタビューの一般人がコメントを求められ悲しみの言葉をつづっていた。真澄はうちの事務所の後輩で5人組アイドルグループとして活躍していた。そこそこ人気もあったし、プライベートで素行が悪いような噂を聞くような人間でもなかった。死人に口なしとはよく言うが彼が死んでしまった今、他殺でもない限り彼の死の真相は誰にも分らないだろう。僕と真澄との関係と言えば歌番組で少し共演した程度でそこまで親しい関係ではなかった。だからと言って悪い印象は全くなく、楽屋に挨拶に来てくれることもあったし、事務所で顔を合わせてもいつも元気に笑いかけてくれるような好青年だった。だからこそこんなに接点が乏しい僕ですら真澄の訃報を聞いて、悲しいと思ったし残念だった。きっと真澄のファンやメンバーたちはもっと悲しみに暮れているだろうし、事務所は関係各所から説明を求められるだろう。普段とても丁寧なマネージャーがあれだけ乱暴に電話を切るくらいだと相当追われているのだと察した。
ピロン ”着きました。裏の駐車場に車を停めています。”
OKという簡単なスタンプを片手で送信し、靴を履きマンションを後にした。
職業 アイドル siro @siro125
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