最終話:一人と一人


 何度かかっと体が熱くなる場面があったけど、由紀さんがいてくれたおかげで怒鳴らずに済んだ。由紀さんにどうしようもない親の姿を見られたことに対して情けないような申し訳ないような気持ちもあるけど、私の手をしっかりと握ってくれるその行動一つはそんな気持ちすら救ってくれるようで嬉しかった。


「どこ行くんです?」

「……とりあえず駅」


 考えてなかったらしい。思わず笑ってしまえば、じとりとした視線が私を見上げる。誰かを誘ってランチに出かける由紀さんなんてあんまり想像できないから、珍しいことなのかもしれない。それはつまり、きっと私のために行動を起こしてくれたということ。そんな一つ一つを掬っては噛み締める。由紀さんはきっと、こんなふうに誰かを大切にする人。


「ルナは? 行きたい所ある?」

「じゃあ由紀さんの行きたい所」

「……意地悪ね」


 くすくすと笑う。私はただ、出会って間もなかった頃の由紀さんの真似をしただけなのに。由紀さんはそれを指して意地悪だと言ってるんだろうけど。

 結局行き先は決まらないまま駅に着いて、とりあえず都心へと向かう電車に乗る。空いた席に座るとまず由紀さんはスマホを取り出す。現代において一番の救世主。私も調べようかと思ったけど、今日は思い切り甘えてしまいたかったからスマホを取り出すことはしない。受け止めてもらえる嬉しさは、甘い毒みたいなものかもしれない。私のために一生懸命な由紀さんは見ているだけで幸せになれる。


「犬好き?」

「はい?」

「猫の方が好き?」

「突然ですね……んー、由紀さんが猫を愛でてるところは見たくないから犬かな」

「じゃあ次で乗り換えるから」

「ツッコミ待ちだったんですけどね」


 余裕がないの、と拗ねたように言うから可愛い。電車が停車して、人の流れに合わせて電車を降りる。由紀さんの後ろを付いていって、緑のラインが施された電車に乗り換える。休日のせいか、先ほどとは比べ物にならないくらい混んでいる。


「お腹はすいてる?」

「腹ペコではないですけど、まあそれなりに」

「難しい事ばかり言う」

「あはは。 じゃあ空きました」

「オッケー。 先にご飯にしましょう」


 数駅先で降りて、スマホの地図アプリを凝視しながら歩く由紀さんに付いていく。何とも上品な街並というか、通りに並ぶ店の看板が軒並みオシャレで、桜が好きそうな雰囲気だ。カレー屋さん一つカタカナじゃなくて英語で書かれている。オーガニックねぇ。店の前にテラス席が用意されたお店の隣で、由紀さんが立ち止まる。


「……食べたいものあった?」


 あれ、地図アプリで歩いてきたなら、このお店が目的のお店だったんじゃないのかな。お店の前まで来て確認するのはどういう意図なんだろう。今更チョイスに不安になったとか、かな。目の前のお店を見つめてみる。名前は英語じゃないのか読めないけど、ボードに書かれたメニュー的にはイタリア料理な気がする。前もイタリア料理を食べたから、これなら失敗がないって思ってくれたのかな。

 

「……ここのお店のパスタが気になります」

「それは本当に良かった。 ……さすがね」


 私が由紀さんの不安を察した事を理解したらしい。このお店も他の並ぶお店とそん色ない程にオシャレだし美味しそうだから本当の気持ちでもあるんだけどな。

 由紀さんがドアを開くと、ベルが来客を知らせる。照明を抑えた店内は落ち着いた雰囲気をだしている。案内された席に座って、由紀さんと一緒にメニュー表を見る。


「やっぱり、こういうのはルナの方が向いていると思う」

「いきなりですね。 気持ちが嬉しいってやつですよ、こういうのは」

「……嬉しい?」

「え? イタリア料理チョイスとか、私との時間が由紀さんの中にあるんだなぁって感じられてめっちゃ嬉しいです」

「……」


 由紀さんの目が優しく緩んで、メニュー表へと戻っていく。伏せた目にまつ毛の曲線。本当にずるいくらい優しくて愛おしい人。嬉しいかって気にするなんて、出会った頃の由紀さんだったら絶対にない。お互いに好きな事を好きなようにすればいいって思っていたはずだから。そう考えると私達の関係は随分変わっていると思うし、その変化を、私はとても幸せだと思う。


「見すぎ」

「あはは」


 その変化を祝して、今まで頼んだことのないウニを使ったソースのパスタなんて頼んでみた。運ばれてきたパスタはクリーミーで濃厚で美味しかった。由紀さんに我儘を言って分けてもらったボロネーゼも美味しくて、由紀さんにも私の分を分けてあげた。由紀さんと一緒に時間を過ごせば、きっとどんな些細な事でも楽しいのだと思う。そしてそんな時間が続くことが、何より幸せなのだ。


 ***


「それで、次は犬ですか?」

「そう。 正確にはドッグカフェだけど」

「由紀さんは動物が好きなんですね」

「……そうね、そうなんだと思う」


 好きという感覚が疎い由紀さんは、今回だって初めてそうだと気づいたみたいに、私の言葉にゆっくりと頷く。前にも気になったけど、なんでこんなに疎いんだろう。文句とかじゃなくて、純粋な疑問として気になる。

 大きな通りを抜けると、車通りの多い道路に出た。右に曲がって進む由紀さんに付いていくと、程なくして建物が見える。そこには犬の絵に、ドッグカフェの名前が書かれた看板があった。階段を上がって、中に入ると威勢のいい鳴き声が聞こえてくる。


「おお、いっぱいいますね」


 由紀さんに倣って手を洗って荷物を預ける。店員さんの説明を聞いて柵を超えると、たくさんの犬にお出迎えされた。いくつかある座布団の内の一つに座ると、足先や肩をスンスンと嗅がれる。由紀さんの膝の上に一匹の犬が乗って、由紀さんがその子の頭を撫でた。猫もだけど、犬もダメだったかもしれない。その犬を睨むと、その子は由紀さんの手をぺろりと舐める。由紀さんが微かにほほ笑むのを見て、今回くらいは見逃すことにする。


「実家で動物飼ってたんです?」

「全然。 一度ハムスターを飼った事があるけど、それきりね」

「じゃあなんで動物好きに?」

「……理由?」


 首を傾げた由紀さんは、膝の上で丸くなった犬を撫でる。


「考えた事ないかも」

「……好きや嫌いについて?」

「そうね。 根本的に、他との繋がりについて深く考えてこなかったのだと思う」


 一匹の犬が私の膝に飛び乗る。何度か足踏みをした後に、私の膝で伏せたその子の背中を撫でる。他とのつながりについて。何かを好きだと思ったり、興味をもったり、手を伸ばしてみたり、そういうことをあまりしてこなかったということなのかな。そこに明確な理由があるのか、そういう人柄なのか、どっちなんだろう。


「それって、理由があったりするんです?」

「ルナは深くまで理解しようとしたがるのね」

「嫌です?」


 「不思議と嫌ではない」と由紀さんが笑う。不思議と。普通は嫌に感じることってことなのかな。私だけ例外、なんて言葉の端を切り貼りして都合よく考えすぎな気もする。膝に乗っていた子が新しいお客さんが入ってきてそっちへと走って行ってしまった。由紀さんの膝に居る子は、のんびりと目を瞑ってまだそこにいる。由紀さんは動物に好かれやすいのかもしれない。


「自分の気持ちと外のものってリンクしないから」

「……ええっと?」


 由紀さんの隣に、大きな犬が来た。由紀さんに背中をくっつけるように寝転んで、由紀さんはその子のお腹を撫でる。言うべきか悩んでいるのか、どう言うべきか悩んでいるのか、犬に気を取られているのか、由紀さんからの言葉は続かない。逸る気持ちを抑えるように、由紀さんの膝で眠る犬に手を伸ばしてみる。くるくるとした毛並みは独特の感触をしている。


「私が好きでも嫌いでも、料理の味は変わらないし、人の気持ちは変わらないでしょう?」

「んー……食べ物や趣味は確かにそうかもしれないですけど、人の気持ちは変わるかも? 難しい話ですね」


 でも、なんとなく言いたいことは分かった気がする。好きでも嫌いでも物事が変わらないのなら、確かに考えるのは意味がないと言えるかもしれない。そんな風に考えた事も無かったからピンとはこないけど、そういう見方もあるんだということは理解できる。

 一匹の犬が近づいてきて私の膝をクンクンと嗅ぐと、隣の由紀さんの元へと歩いていく。なんだか段々寂しくなってきた。私が嫌われているのか、由紀さんに引き寄せられてしまうのか。その子は由紀さんの隣で横になると自分の肉球を舐め始める。


「でも、犬は違うかも」

「え?」

「この人は私のこと好きなんだなって分かってるから由紀さんに集まってきてるのかも」


 肉球を舐めていた犬が、由紀さんを見上げる。由紀さんの手がその子の頭を撫でると、その子は尻尾をぱたぱたと揺らした。


「それに、由紀さんに嫌われたら私は泣くかもしれないし、由紀さんに好かれてたら私も嬉しいし?」


 由紀さんが犬から私へと視線を上げる。


「あ、別に由紀さんの考えを否定してる訳じゃないですよ」


 じっと見つめてくる焦げ茶色は、何を考えているんだろう。気分を害している、という空気は感じないけど怒っちゃったのかな。恐る恐るその瞳を見つめ返していると、由紀さんの手がゆっくりとこちらに伸びて、そして私の頭をゆっくりと撫でた。えっと、私は犬ではないのだけど、一体どういう感情なんだろう。犬に母性を擽られて溢れちゃったのかな。困惑していると、由紀さんの表情がゆっくりと笑みを形作っていく。


「今は、ルナの言う事も分かる」


 ゆっくりと手が離れていく。そう言う由紀さんの表情は穏やかで優しい。

 さっき膝に乗ってきた犬が戻ってきて、また私の膝にぴょんと乗った。私はその子にさっきよりも気持ちを込めて撫でてみる。その子は私の膝の上で伏せると、じっと私の手を受け入れてくれる。


「今は、私の気持ちもあなたの気持ちも蔑ろにはしたくない」


 私に言うというより、自分に呟いているようだった。私はただそれに頷いて、由紀さんを撫でる代わりに膝の子をたくさん撫でる。

 私が選んだものでいいと、由紀さんはよく言っていた。それは、きっと由紀さんの意見と私の選びたいものは関係ないと思っていたから。でも、今は違うと言ってくれる。私の意見と由紀さんの意見、二つを尊重した意見を、私たちの関係の中では尊重したいのだと言ってくれている。どちらかが歩み寄るだけじゃなくて、お互いに歩み寄りたいと思いあえるのは、きっと奇跡的で特別だ。


「やっぱり、嬉しい」


 あふれ出る気持ちは、由紀さんに伝えないと治まりそうもない。由紀さんが私の方を見て、その瞳に向かってもう一度同じ言葉を言う。由紀さんの気持ちがあるからこそ、私は嬉しい。私にとって由紀さんの気持ちはそれくらい大事なんだ。


「良かった」


 由紀さんの言葉は、次は私に伝えるようだった。

 一匹の犬が私と由紀さんの間に入ってくる。そこに座って見つめるまん丸の瞳に、二人でその子を撫でる。長い毛に手を沈めるともふもふとして暖かい。


「やっぱり、犬か猫でも飼おうかな」

「そう言えば一人暮らしなのに、どうして今まで飼わなかったんです?」

「一人だとちゃんと飼ってあげられるか分からなかったから。 でも、今はルナがいるでしょ」

「……」


 由紀さんと、二人に撫でられている犬を交互に見つめる。もしこれが由紀さんの家で、私と由紀さんと一匹がそこに居て、そうやって一緒に過ごしていく未来を、由紀さんが少しでも描いているのだとするならば。それってもう、言葉なんか飛び越えたプロポーズにも似たものだと思うんだけど。それだけ先の未来を、由紀さんは私と一緒にいたいって思ってくれている。それって、好きって言うより難しいことな気がするんだけどな。

 やっぱり由紀さんってまだまだ分からないことも多い。だから、長い時間かけていっぱい知っていきたい。


「まずは色々と調べなきゃですね」

「フフフ、そうね」


 ガチャリと入り口のドアが開くと、撫でていた子はそちらに走って行ってしまった。膝に乗っていた子も行ってしまって、また由紀さんの膝の上の子だけが残る。随分と由紀さんの膝を気に入っているらしい。仮にペットを飼うことになったら、その子と由紀さんの膝を取り合うことになるのかもしれない。


「膝が嫌いな子にしましょうね」

「ん?」


 こっちの話です。


 結局帰る時間まで由紀さんの膝を独占していた子は、由紀さんに膝から降ろされると渋々違う人の元へ歩いていった。もふもふ成分を堪能してお店を出る。これで今日のリフレッシュは終わりかな。由紀さんのおかげで、朝の事なんかどうでも良く思えてしまった。

 由紀さんと一緒にいるためなら、役者の勉強だってなんだって俄然やる気が出てくる。成果が必要だって言うなら、成果を出せばいい。なんて、流石にポジティブ過ぎるかな。


「駅向かいます?」

「最後にちょっとだけ寄りたいところがあるのだけど」

「いいですよ、行きましょう」


 由紀さんが行きたい場所ってどこだろう。でも、行きたい場所を言ってくれるだけで嬉しいからどこでもいいな。隣に並んで歩いていくと、道路を渡った先には公園があった。由紀さんはまっすぐと公園に向かって歩いていく。公園に来たかったのは少し意外かもしれない。


「ここに何かあるんです?」

「というよりは、少し話ができる場所に来たかっただけ」

「話?」

「話」


 わざと焦らす様にオウム返しをした由紀さんは、そのまま何も言わずに公園の中を歩いていく。自然あふれるゆったりとした場所に視線を向けながらも、頭の中は話の内容をどんどんと膨らませていく。

 これからのこと、についてなのかなやっぱり。いつかペットを飼う、なんてことよりももっと具体的な、これからの話とか。悪い話ではないとは思うけど、こう焦らされると少し不安になる。


「何か飲む?」

「え、あ、はい」

「ん。 と言っても自販機だけどね」


 由紀さんの視線の先に、赤い自販機がある。よくここら辺に来てたのか、さっきのドッグカフェと言い詳しい。自販機でコーヒーとカフェラテを買う。ガコンと音を立てて落ちてきた缶を取って、近くにあるベンチに並んで座る。缶を開けてコーヒーを飲む由紀さんを見つめていると、由紀さんが私を見て笑った。


「そんなに構えられると、逆に話しづらいから」

「それを言うなら、そんなに焦らされると心臓に悪いですよ」


 素直にそう言うと、由紀さんはまた可笑しそうに笑う。そしてコーヒーを飲んでわざとらしく間を作るから意地悪だ。名前を呼ぶと、由紀さんが私を見る。冗談っぽく笑っていた表情が、ゆっくりと色を変えていく。


「由紀さん?」

「……慣れてないから、こういうの」


 というよりは、初めてだから。

 そう言って、由紀さんの視線が下がる。焦らしてたわけじゃ無くて、タイミングが分からなかったのかもしれない。

 

 落ち着かない、そわそわとするような空気が流れる。プルタブを引っ張って、一口カフェラテを飲み込むと、びっくりするくらいに甘い。でも落ち着かなくて、もう一口飲み込む。人気のない歩道や風でたなびく木の葉を眺めてみる。

 由紀さんがこんなにも言うのに時間が要ること。初めてのこと。これからのことでこんなに言いよどむことは無い気がする。それ以外と考えて思い当るのは、一つあるけど、そのことを考えると私の心臓も落ち着きを無くしてしまう。


「さっきも話したけど、何かに対して自分がどう感じているかについて、私は人よりも鈍感だと思う」


 やっぱり、きっとその話だ。風邪の中理性が溶けてた時に出た私の本音。我慢も効かずに溢れた本音に対して、分からないと答えた由紀さんの、きっと本当の返事。


「私の両親は私にはかけらも興味のない人たちだった。 私が気を引こうとしても何も返って来なかった。 多分そんな中で育ってしまったせい、なんて今更後付けした言い訳だけど、無意識に好きでも嫌いでもないと深く考えない様にして、傷つかないようにしてきたんだとは思う」


 なんだか、とても重要でとても柔らかなものに触れた気がする。どう返すべきなのか分からなくて、私はただ視線だけを由紀さんに返す。

 由紀さんの気持ちで、他者の気持ちは変わらない。先ほどの由紀さんの言葉の本当の意味を知る。


「別にその生き方を後悔している訳でもなくて、ただ、だからこんなに気づくのが遅くなったのだけど、という前置きね?」


 私の方を見た由紀さんの表情に、悲観や悲痛さは見えない。由紀さんにとってそれは、もうきっと遠い過去になっているのだろう。それが、少しだけ悲しい。

 由紀さんの肩に寄りかかる。一人でいるのが、何も考えないのが一番傷つかない、そんな結論が寂しい。


「自分がどう感じてどうしたいと思っているのかが分かるのには遅くなったけど、でも、ルナが教えてくれたから」

「私が?」

「こんなに誰かを大事にしたくて、その人の力になりたいと思ったのはルナが初めて」


 私の顔を覗き込むように由紀さんの顔が近づく。そのまま止まることなく、唇が触れて息が止まる。短く、数度触れ合う唇は、今までとは違くて、由紀さんからの熱が溢れてくるようで思わず由紀さんの肩を掴む。僅かにコーヒーの味が感じられたころに、ようやく唇が離れた。人気は少ないとはいえ、まさかこんなところでされるとは。大事は話をしていた気がするんだけど。そんな言葉は頭の中で暴れるばかりで、私はまっすぐに見つめてくる焦げ茶色の瞳を見つめ返すだけで精いっぱいだ。


「キスしたいと思うのも初めて」

「……こ、とばだけで、伝わりますから」

「私がしたくて」


 由紀さんがしたい。意思がはっきりとあるのはさっきの話から考えるならとても嬉しいことだけど、私の心臓が危ないからせめて一言言ってほしい。甘い味の中に残るコーヒーの苦味が、感触と一緒にいつまでも口の中に残っている気がする。


「それらも全部、ルナが好きだから」


 その言葉に、次は息どころか心臓が止まるかと思った。

 まっすぐに伝わってくる熱が、私の全部を焼き尽くそうとしているみたい。言葉も行動も、とてもまっすぐでシンプルで、だからこそ嘘偽りなく心に響く。


 干渉し合わない、気楽で居心地のいい場所のはずだった。一時的な安らぎの場所のはずだった。きっと私だけじゃなくて由紀さんにとっても、私たちはそんな関係だった。一人と一匹なはずだった。

 そこから私も、そして由紀さんも踏み出してくれた。もう私の感情を我慢しなくていい。私の気持ちも、由紀さんの気持ちも大切にし合える新しい関係になれる。それはやっぱり奇跡的で感動的だと思う。

 だから、周りなんか全部後回しにして、由紀さんにキス位したっていいよね。


 すぐ近くにある唇に触れる。私がしたかったら、もうしていいんだよね。それってやっぱり凄いかもしれない。触れる度に、感動にも近い嬉しさが心から無尽蔵に溢れてくる。


「あー、嬉しい」

「私も」

「好きです」

「私も」

「あははっ」


 気持ちが重なり合って、私たちは新しい関係になる。

 一人と一匹から、かけがえのない一人と一人になる。


 だからきっと、ここは新しいスタート地点。私と由紀さんの新しい始まり。色んな事を共有しあって、支え合って過ごしていく、その最初の日。


 


 




 

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