第11話 エンルージュの樹海。

 毎度お馴染みの“雅 煌太(みやび こうた)”ことリュードです。あれよあれよと僕が増えて、私には味方がいる……と実感している今日この頃。


 


 私………この先もずっとぽっちでこの世界を生きるのか?と思ってました。


 ところが、色んな縁があって頼もしい味方が出来た……嬉しい限りです。


 ただ……私は転生してヴァンパイアとなり、しかし何もない状況で鳥の巣で目覚め魔法がたまたま使えたから良かったものの、あんな数m上から落ちた日には確実に私の噺は終わりです!良かった続きがあって……(安堵)


 で、前からお話ししている通り私が西の街ラザルドを新しい場所に復興したいと無理難題を言い出しまして……。


 ところがですよ、確かに驚かれはしましたけど次には私が領主になれば良いのでは?とか!目処がつきそうな話になっているじゃありませんかっ!


 いや、街は良いんですよ街は。しかし領主なんて……自信の自の字もありません、何がどうしてそうなった?


 まあ、領主の件は保留と言うことで、まずは二手に分かれて街を創る場所探しと、その為の資金作りをする事になりました。


 私はアリシアとルージェの3人で、エンルージュの樹海へ向かう事に。


 取り敢えず、地図の示す通りに南の方へと進んでいました。今のところジャングルの様な森林地帯ではなく、穏やかな平原がずっと広がってます。とにかく広いんですが……逆に、魔物の巣窟の様な樹海があるなんて想像しきれません。あ、夜は魔物が跋扈すると教えてくれました。でも私は敢えて樹海を選びました、外敵から街を守る為に……。


 向かう為に最初は馬車や馬で移動した方が良いのでは?と意見が出ましたが、目立つのは控えたいと私が徒歩で移動しようとなった訳です。確かに50km以上は距離があるようで彼女達には申し分けないんですけど、着いたら先ずは水源を探して野宿すると決めて話してあるので道中は水分を摂りつつ、歩を進めてました。丁度この周辺の事や樹海の事、またこの大陸内の事柄とかを聞きたかったので良い勉強になりました。


 いや、まあ、なに、3人とも体力にはちょっと自信がありまして。


 私はヴァンパイアですしアリシアは白狼女ですし、ルージェは騎士団としてのスタミナや体力を鍛えられていたので、3人とも申し分ない。


 ただし、そうは言っても樹海に着いた時にはかなり消耗していると思うので、水源地を見つけて野宿をする事にしたんです。


 平原地帯を抜けて……と……そう言えば途中に村や町は無かったな、確かに小川は幾つかあったけれどそれに追随して畑を作っている訳でもなし……そうか、夜は魔物が跋扈するって言ってたな……それで村や町は無いわけだ。まあ、創ろうと考えてるのは私ぐらいかな?


 しかし、まだかなり道のりがありますね。何をどう見ても平原だらけ……気候の変動や小さな山や丘ぐらいあっても良さそうなのに……。確かに所々に木は生えてはいるけれど、蝶の様な羽虫は飛んでるけれど!何なんだこの一帯は!逆に怖いんですけど!


 巨大な虫に捕まえられて食べられないよね?断固拒否権を発動します!


 


「リュード様、着きました。エンルージュの樹海外側です。」


 


 アリシアが立ち止まって改まって紹介してくれました。


 


「……は!?」


 


 私は一言だけ発して驚きを隠せませんでした……。


 なんと、草原とはっきりくっきりと分かれていて、いきなりジャングルが左右に広々と切れ目が分からないぐらいに広がってます! デカっ!……これが…樹海………。


 


「………草原からいきなり樹海なんて……って、じゃあモンスターが草原に出現する事もありえるの?」


 


「はい、あり得ますね。なのでこの草原には村や町はありません。」


 


「土地としては良い条件なんだが、やはり魔物がな。」


 


「成る程……。」


 


 確かにこんな豊かな土地ならば、町や村でも発展しそうなものですがしかし魔物が絡んで来ると痛手になりかねない。それでこの辺に人が住むと言うことはしない訳か……襲われたらひとたまりもないしね。ごもっとも。


 


「しかし、不思議と日中の間は草原にモンスターが出現した事例が今までに一度も無いんだ。」


 


「……そうなの!?」


 


 2人が同時に頷きます。何か魔法か結界の様なものでも貼られてるのかな?こんな地形じゃ、何時でもモンスターが飛び出して来ても不思議はないと思うけど……。


 


「まあ、樹海の入り口と言っても門や道は何も無いけど、目の前には到着した訳だし後は樹海の中で主となる水源地を探そう。う~ん、私的には山を背に街を創りたいんだよなぁ……お、あれは大きい山だな。」


 


 ここからでも余裕で見える山脈があります。


 


「ふむ、あれはアバラス山脈だ。それを越えた向こうは未開の地だそうだよリュード殿。」


 


「へぇ。」


 


 ルージェがそう話してくれました。いやぁ、2人に居てくれてホントに助かります。私1人じゃ知らないことだらけで、この時点で既に迷子ですよ。


 


「見る限り、ここからまだ暫くは奥の方になりそうですよ、リュード様。」


 


「そうだね、2人ともここからが本番だ。水源地を確保する為に進む訳だけど、どんなモンスターが居るか分からない。気を引き締めて行こう。」


 


 そうお互いを見合って頷き、水分補給して樹海の中へと茂みを掻き分ける様に慎重に進んだのです……。


 


 


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 


 


「……さて、この血晶石だが……。」


 


 なにやら顎を撫でながら悩むバルジオの姿が……。


 ここは私たちを送り出した後、サリーナ宅の地下室の中で彼用の部屋があります。


 バルジオの部屋は特別に追加され、寝室・宝飾庫・加工室等がありました。


 何か地下が広くなってませんか?後で聞いたのですが、まだまだ広げる事が出来るそうな……驚きです!


 その加工室で、サリーナと打ち合わせしていました。


 この宝石をどうやって誰に売るのか……かと言って、売ろうとしている額も半端な金額ではありません。


 なので、売る相手も慎重に決めないといけないのですが……。


 


「でも、こんな高価な宝石を買ってくれる奇特な金持ちなんて居るのかしら?」


 


「そうだねぇ、ここまでの宝石にお金を払える人間は国王でも難しいかもしれないね。」


 


「えぇ!?じゃあどうやって?」


 


「フフ、そこでこの宝石をね…こうするのさ。」


 


 バルジオが机の上に置いた血晶石の上から手をかざします。すると机に直径20cm位の魔方陣が浮かび上がります。


 そして血晶石がゆっくりと光を帯びて、宝石が3等分に?


 


「え?宝石が3つに!?」


 


 サリーナも想定外に驚いてました。勿論、私もですよ!見てないですけど。


 


「そう、1つでは高値過ぎて誰も手を出さなくなってしまうからね。ならば、3等分にする事で売れる確率は高くなるわけだよ。まあ、これでも相手を考えないと買ってもらえないだろうけどね。」


 


 笑顔でバルジオがサリーナの顔を見やります。サリーナも成る程と感心していました。


 


「流石は商売人ね、でも魔法が使えるなんて初めて知ったわよ。鑑定魔法だけかと思ってたわ。」


 


「はっは…逆に宝石を加工する事しか出来ない魔法さ。多様化には向いてないんだ。後はサリーナの言う通り宝石の鑑定位か。」


 


「そうなの?そんな限定の魔法もあるのね。それは初耳だわ。」


 


「そういう事だね、こうすれば買い取ってくれそうな相手は目処がつく。」


 


「成る程ね。じゃ、何処から訪問しましょうか?」


 


「ふむ、先ずはあそこからだな……。」


 


「じゃあ、早速向かいましょうか。」


 


 サリーナと会話をしつつもバルジオが小さな箱を3つ用意し中には真ん中に窪みがある紫の柔らかい布のクッション、宝石用の専用箱ですがそれに1つずつ血晶石を納めて、懐にしまいます。


 2人は準備を整えて、部屋を後にしました。


 危険の無いよう無事に資金調達よろしくお願いします!


 


 


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 


 


 ……さて私達はと言うと、これがなかなか進まない!


 マジ、ジャングルです!


 枝を切って折って、茂みを掻き分け、道なき道を進んでいく……私が爪で枝などを切り払いながら行くのですが、あまり進んだ気がしない。


 まあ、最初の茂みから遠く見える様になって来ているので少しは進んでいる方か……結構キツイですね。


 辛うじて山脈の頂上付近が見えるので、その方向へ向かっていました。たどり着いても、水源が有るかどうかは分かりません。でも、麓に街を創る事で外敵から守りやすくなると考えての事です。はは…、私が独断と偏見で決めているので我が儘と言われると返す言葉がありませんけどね。


 


 やっと少し開けた場所に出て来ました。幅5m、長さ10m位でしょうか、さすがにちょっと小休止をしよう。


 


「ちょっと休もう、思ってたよりハードだ。」


 


「そうしようリュード殿、このまま進んでも無駄に体力を減らしそうだし。」


 


「ああ、本当だ。アリシアも休もう。でも不思議だな、ここまで一回もモンスターに遭遇しないなんて……。」


 


「確かに……。」


 


 そうなんですよ、虫や小動物位は見かけましたけど、この中腹近辺までに大型のモンスターには1度も遭遇していない。既に樹海の境い目は見えなくなっていました。それだけ奥へと進んだと言うこと……。


 


「リュード様……!」


 


 アリシアが急に顔つきが真剣になり、小声ですが強めの口調。私もルージェも警戒を強めます!


 


「アリシアどうした?」


 


「何かが近付いて来ます、かなり大きなモノが……。」


 


「2人とも、戦闘準備だ!大型モンスターかもしれない!」


 


「「はいっ!」」


 


 3人とも、急遽武器を構えて音のする方を警戒します!すると、前方から巨大なモンスターの頭が姿を現しました。体色は銀色、鱗も銀色で硬そうな甲殻を纏い、長さが30m近い体躯で脚は無し。あの……巨大な蛇です。しかも、頭を数m程持ち上げると、頭から下側……所謂首と言うか胴体と言うのか分かりませんが、その部分の両側に3対の触手があり先は三日月の刃が鈍い光を放ってます!


 なんと言うえげつな……。


 


「デスムーン・サーペント……。」


 


 ルージェが冷や汗を流しながら呟きます。


 


「知っているのかい?」


 


「まさか、こいつが居たせいで大型のモンスターが逃げてしまったと言うことか……。」


 


 そ、それはマジですかルージェ?顔を見ると頷き返してきました。いや、確かに強そう……。


 


「リュード様!攻撃が来ます!」


 


 サーペントが私達を獲物と捉え、咆哮を上げました!3対の刃の触手を広げて突進してきます!


 


「散開だ!3手に分かれて攻撃するぞ!」


 


「「了解!」」


 


 何とかその突進をかわし、アリシアは左からルージェは右から私は正面から迎え撃つ事に。かわしたのは良いけれど、あの三日月の刃に切り刻まれでもすれば一撃で終わりです。しかも相手は最上位にランクされるモンスターだとか……勝てるかどうか…いや、勝たなくてはいけない!ここで負けてたら街なんて夢のまた夢だし、やることが沢山残ってるし……2人を必ず守らなくてはだし……負けていられない!


 


 私は爪を伸ばして剣の刃とし、奴に対抗すべく構えました。


 


「やるぞ!アリシア!ルージェ!反撃開始だ!」


 


「おおぉっ!」


 


「はあぁぁぁっ!」


 


 アリシアとルージェも両サイドから突進して行きます!


 ボスキャラ並みの強いモンスターに挑んでました……どのみち倒さなければ先には進めないような予感がしたもので……………………。


 

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