第8話 無事に帰還です。街が……ってマジ!?

 ヴァンパイアに転生して日も浅い“雅 煌太(みやび こうた)”ことリュードです。


 一体、私の第二の人生ってどうなっているのでしょう……ヴァンパイアに転生?にも驚きましたが、こんな私に僕(しもべ)が2人!?だって爵位も何も無いんですよ、しかもノーマルなヴァンパイア……ああ、若干違う所もありますが……。


 それにラーウッド男爵と言うヴァンパイアの貴族とも戦ったんですよ!


 更には、私がロード(君主)になるですって?全く理解出来ません!毎回言ってますけど、こんな弱いヴァンパイアですよ、ギリギリで男爵に辛うじて勝てた位です。


 今の生活いっぱいいっぱいですよ。ホントにのんびり暮らしたい……転生前は過酷な労働で心身共にボロボロでしたから、せめてこの世界では……と思っているんですけどそうさせてはくれない……。


 ですが、命懸けな事もありますけど唯一、今の世界の方が私には合っているかなと思う今日この頃。


 何せ、私を好いてくれる美女が2人も居るっ!奇跡じゃなかったら何でしょう、私……何者?あ、ヴァンパイアでしたね。……いやまさか天変地異?……やめてね……彼女達と一緒に居られなくなったら嫌だから。


 彼女達を守りたいと思って私……超頑張ったんです!ホント死ぬかと思った……マジで。


 


 ごめんなさい、長々と私の愚痴を聞かせてしまいましたね。


 今はその男爵との戦いに辛うじて勝利し、満身創痍でその時に偶然助けた女性の騎士団長さんにサリーナの武具屋まで送ってもらっている所です。


 私のこの傷って……急速再生ってしないんでしょうか?それとも私の攻撃の様に治りづらいとか、まさか治らないとか!?……怖っ!あんまり考えないようにしよう……。


 


 それでね、なんでもその団長さんはサリーナとは古くからの知り合いだそうで、後々私とサリーナの関係はバレると思うのでタイミングを見て話さないといけないなと思いつつ……。


 取り敢えずは2輪車の荷車に…ああ、ちゃんと背もたれ付きですよ!私には十分な乗り物に乗りつつ、送ってもらっていました……。


 


 ……しかし、向かっている途中で周りを見渡せば散々な状況……ごめんなさい……私達がこの街に居たばかりに街の人々に迷惑が掛かってしまいました……成る程ね、後悔は先には来ないとつくづく思い知らされる感じです。殆どの建物が半壊から全壊、まだ煙が上がっている建物も。人々も疲弊していて、座り込みしている人…しゃがんで踞っている人…家族とバラバラになって捜している人…亡くなった人の傍で泣いている人……あまりにもリアルな光景……助けようにも、動く事が出来ないもどかしさ……今の私には、ただただ見ている事しか出来なくて申し訳なく思うばかりでした……。ただ、私達を誘きだす為に男爵が夜襲をして来たとは人々の中では知られていない様で複雑な気持ちです………。


 


「よし、着いた!降りるのを手伝おう。」


 


「す…済まない……。」


 


 サリーナの店に着きました。私の怪我も簡単に再生なり回復なり出来ないようで、後々分かったのですが男爵の攻撃も私を死に至らしめる為に魔法を施していたようです。抜け目無いですね……。って事は私はこのままあの世行き……?


 


 その女性騎士さんは、私に肩を貸してくれて、


 私も彼女の肩に掴まりながらようやく立ち上がり、荷車を降りてサリーナの店を見上げます。


 一部壊れてしまった部屋もありますが、周りの建物等の状況からするとまだ良かったように思えます。果たして2人とも無事なのか?……私は不安を抱えつつも、店のドアノブに手を掛けようとしたその時です。


 不意に私が開けるより先にドアが開きました、お互いに御対面!そこに居たのは……。


 


「あっ!……。」


 


 久々に感じる彼女の声、リッチに魂を奪われる寸前に助け、回復するまでサリーナが診てくれた白狼女で私の最初に僕になってくれた女性……。


 


「良かった……気が付いたんだね……アリシア。」


 


 彼女が私を見た途端に頬を涙がつたいだしました。大きく綺麗な涙が滴となって溢れ落ちます……。


 


「リュードさまぁっ!」


 


 わっ!ま、待って待って!い、今抱きつかれたら


……私……生きてるかな?


 


「ア、アリシアっ!ちょっ……まっ……ぜ、全身から血が吹き出すんですけどぉ………ぐぶぅ…………。」


 


 私は無抵抗のまま、いや当然動けないんですけどね。勢い良くハグされて力一杯抱き締められたので、全身の傷から血を噴きだして悶絶してました。嬉しいけど死んでしまうぅぅ……。


 


「き、きゃあ!リュードさまぁ!」


 


 彼女が気付いて慌てて私を離します。


 


「な、なにやってるの!アリシア!」


 


 アリシアの後ろから現れた女性が驚いてアリシアに怒鳴ってました……。


 


「サ、サリーナ!?」


 


 名前を呼ばれた彼女は、その声のする方を見やると相手の顔を見て更に驚いてました。


 


「ルージェ…ルージェなの?」


 


 おっと、そうですね!私も騎士さんの名前をお聞きして無かった…ルージェと言うお名前ですか、覚えとこ。


 


「そうだ、よくぞ無事で。」


 


「貴女もよルージェ、でも貴女が何故この街に?それに騎士の鎧や武器はどうしたの?他の騎士団の方達は?」


 


 確かに、彼女は武具を装備していない状態……ピンチでしたからね……それに武具を探している余裕もなかった。


 


「私は、騎士団を率いてヴァンパイアを討伐するようにと派遣されたのだ……しかし逆に返り討ちに合い、私も襲われ血を吸われそうになった……その時、彼が助けてくれた……私の命の恩人といったところだ。」


 


 ルージェと呼ばれた女性騎士は私を見ながら、そう話したのでした……でも、途中から嫌そうな顔ではなく、はにかんだような照れた顔で……。何でだろ?一緒に私も照れちゃいました、美人ですしね恥ずかしい感がいっぱいで。


 


「ま、まずは、中に入って。主の傷の手当てもあるし、事の次第を詳しく聞かせてもらえるかしら?」


 


 そこでやっと私の状態に気付いてくれたようで、全員建物の中に入ります。


 ルージェと言う名の騎士さんはサリーナの言った言葉が気になりつつも、一緒に建物内に入っていました。


 店舗内を見渡すと中は品物が一切なく、空き店舗か?と思わせるほど何もありませんでした。


 


「サリーナ、……商品はどうしたの?」


 


「はい、アリシアさんと同じく地下の秘密倉庫の方に避難しました。」


 


「そ、そうなのか?何か凄いな。」


 


「まずは、地下の部屋の方に行きましょう。リュード様の手当てをしながら、話を聞かせて貰えますか?」


 


「そうだね、済まないけどそうして貰えるかな。」


 


 私達はサリーナにささえられつつ、地下の秘密の部屋の方に移動しました。行くと、長めの廊下があって寝室兼居間が1つ、あと工房が1つ、倉庫が1つと3部屋に造られた広いシェルターの様な空間が有りました。


 私達はサリーナと共に寝室兼居間である部屋に入ります。中は仕切りは無く、ただカーペットの柄が二種類敷かれていて、その境目で寝室と居間とを分けている様でした。方やベッドが4つ並び、方やテーブルやソファ、食器棚や裏側に小さな台所が有りました。トイレ等も完備され、浴室もあるとの事でした。それだけでもフル装備なのでは?


 それで早速、サリーナは私をアリシアと共に椅子に座らせてくれ、服を脱がされて寝かされました。


 まな板の鯉とはよく言ったものです。結構恥ずかしかったのは言うまでもなく……。


 サリーナは血で汚れた身体をタオルで優しく拭いてくれながら、傷を観察していました。


 


「これは、闇魔法の類いですね。でもこの魔法ならば解除出来ます。解除出来れば、傷も早急に治るかと思います。」


 


 良かったぁ、このままあの世行きでエンディングになだれ込むのかと思いました。まだ早すぎですからね、頑張らせて下さい彼女達とまったりライフをしたいんですから。


 でも、闇魔法!?通常の魔法じゃないの?え、どういうことだろ?


 


「ねえ、サリーナ。闇魔法って他の魔法と違うのかい?」


 


「はい、通常の自然属性魔法とはまた別の……、なので解除方法が違ったりします。ですので、通常の解除法が効きません。闇魔法には闇魔法用の解除法しかないのです。」


 


 はあぁ、成る程!そう言う事なんですか。


 解除方法は段階があるだけで、属性が伴っているとは思いませんでした。この世界ではそう言う事なんですね。


 


「リュード様………。」


 


 アリシアも黙ってサリーナと一緒に私の身体を拭いてくれていました。無数の傷を見つめながら複雑な顔をして……。


 身体を拭き終わって、サリーナが私のみぞおち位の位置の上で手をかざし出します。覚えきれない複雑な呪文を唱えてます…どうやって覚えたんでしょ?凄い……。


 すると、掌から光が溢れ私の全身を包んでいきます。光が消えると私の身体が急に中で動き出します!大小無数の傷がみるみるうちに塞がっていくではありませんかっ!私も自分でビックリ!!


 


「す…凄いな………。」


 


 自分で感心ってどうなんでしょ?ホントに急速に傷がどんどん治っていきます!と言うことは、相手に闇魔法を掛けられていなければあの場で急速治癒が発動していたはず……う~ん、やはり恐るべしヴァンパイア貴族……。


 


 そんなことを考えていたら、一切の傷が回復し血も止まり傷痕もほとんど残りませんでした。しかも普通に動けるし……。


 


「ありがとう、サリーナ。助かったよ。」


 


「いえ、愛する我が主の為ならばどんなことでも致します。」


 


「わ、私も!」


 


 サリーナが私に微笑みながら返事を返すものですから、アリシアも慌てて返事をしてきます。


 私……素直に嬉しいです……転生前の世界じゃ女性に好かれる事など皆無!でしたから、複雑な気もしますが独りじゃないんだと思うと目頭が熱くなりますね……おっと、気付かれないようにと……。


 私はベッドから降りて、サリーナが用意してくれた服に着替えます。ジャケット等は返り血で汚れたままだったので、洗うとの事。そのままお願いする事にしました。が、その前に私はジャケットのポケットからあるものを取り出してました…以前アリシアに持っておいた方が良いと言われた物……。


 


「リュード様、それは……。」


 


 アリシアもこれを見て気付いたようです。


 


「うん、前にアリシアに持っていた方が良いと言われた宝石だよ。」


 


「どうして今それを?」


 


「これから、みんなに話がある……。」


 


 みんなに…と言っても3人ですが、話を切り出しました……私が思い立った事を……。


 


「どうされたのですか?そして、手にされているものはもしかすると……?」


 


 サリーナもルージェも私が持つものに目を奪われて驚きを隠せないでいます。それほどの価値があるもと立証されているも同じ……。


 私は手をひらいて3人の前にある物を見せます。


 それは真っ赤な艶のある石……血晶石(けっしょうせき)です。持っていた方が良いと言われたものです。


 そんな希少価値な宝石を何故私が持っているのか………そう言いたげな顔をしていました。


 


「うん、これを売ってこの街の復興資金に充てようかと思ってね。」


 


「えっ!?」


 


 3人とも、予想外の言葉に驚いて少しの間沈黙状態でした。


 


「で、でも良いのですか?こんな高級な宝石を簡単に売ってしまって……。」


 


 切り出したのはアリシアです。心配なんでしょう、いろんな意味で。


 


「そうだね。アリシアが心配するのもわかるよ。でもここに戻ってくる途中、街の変わり果てた姿を見てきた……凄く切なくなった……動けないのが余計にもどかしかった……だから少しの足しになればと思ったんだ……。」


 


 3人ともまた黙ってしまいました。みんなも痛いほどよく分かっているんです。返す言葉に詰まっていました……。


 


「おや、それは血晶石ですね……それも希少な物で純度が高い………。」


 


 いきなり私の背後で、しかも男性の声が………!? 恐る恐る振り向くと見たことのある男性の姿が………。


 


「これを売るというのですか?ならば私に買い取らせてくれませんか?悪いようにはしませんよ。」


 


「は、はぁ………。」


 


 きゅ、急にどこから現れたんですか!マジでビビった~~~!! 怖がりなヴァンパイアだって居るんです!気配を消して近付くなんて……全く気づきませんでした。逆に凄い………。


 


「宝石商さんですよね?アリシアの知り合いの………。」


 


「そうです、アリシアをまた助けてもらい感謝します。」


 


「い、いえ、私はそんな大層な事は………。」


 


 そうです、助けた内に入るのか……結果的には彼女は無事に回復してくれましたけど、もっと助けるにしても方法はなかったのか……と言ってそんな戦略家ではないので威張れたものじゃないですが………。


 


「サリーナに連絡を受けてね、アリシアの事もあったし夜襲もされてでサリーナの転移魔法で私と社員と宝石類を避難させてもらったんです。」


 


 あ、なあ~るほど!確かにサリーナとも商売上信頼していたようだし、この地下空間なら安全か………。


 私も納得でした。繋がりがあるのは強いですね、こういう時に助けあえる。


 


「貴方も無事でよかった、これ以上知った顔が減るのはご免です。」


 


「私の方こそ、せっかくの大事なお客が減るのは忍びないのでね。」


 


 お互いに笑みを浮かべながら握手しました。でも、悪い意味ではなく協力者になってくれそうだったので。


 他の3人もそれを見て安心したのか微笑んでました。知り合いということもあって悪い人間ではないと思っての事でしょう。


 


「早速で申し訳ないですが、この血晶石はどのぐらいの値段が付きそうですか?」


 


私は早速石の鑑定をお願いしました。見ただけで”希少”と言うのですから価値があるとは思いますが………。


 宝石商さんはじっくりと虫眼鏡や明かりを照らしたり、掌に置いて魔法をかけて観察していました。


 やがて、鑑定が終わったのか私の方を見つめます。私も返事を聞くのがドキドキです………。


 


「リュードさん………あなたこの宝石を何処で?」


 


 値段を言われるのかと思っていたので、気が抜けてしまいましたが何処で?と言われて返事が出来るような状態じゃありません。だって、転生した時点でジャケットのポケットに入ってたんですから。


 


「いや、何処でと言われても秘密としか……すいません。」


 


 勝手にポケットに入っていたなんて誰も信じないでしょうからね。


 


「そうですか、まあそこは聞かなかった事にしましょう。ですが、これはとんでもない石ですよ。」


 


「はあ、そうなんですか?」


 


 こっちの宝石の価値がよく分かってないので、半端な返事しかできませんでした。とんでもないって……どの位?


 


「物や物件・土地で言うなら、この街を丸ごと買えますね。更に競売に掛ければ値が上がるでしょう。」


 


 へ!? あ……あの………何かとんでもない事を言われた気がするんですけど……聞き間違い?いや、気のせいかな?


 


「あ、あの街ごとって………。」


 


 アリシアも驚いて宝石商さんに聞きなおします。領館と土地を………と言ってたぐらいですから、まさか街ごとなんて信じられないといった感じ。


 


「今話した通りだよ。この宝石で国1つとまでは言わないが、ラザルドの街は買い取れるんじゃないかな。」


 


 し、少々お待ち下さい……今思考回路が停止しております。只今少ない脳で考え中……………。


 街が買える?………街が?…………。


 


「「「「えええええっっ!」」」」


 


 4人同時に叫んでしまいました。外に漏れることのない地下空間で、仰天したのは言うまでもなく……………………。

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