ヴァンパイアに転生したんですけどスローライフしたいです。
麗紫 水晶
第1話 プロローグ
あ、あの……初めまして。私は雅 煌太(みやび こうた)と言います。
年は40代中で独身、普通にサラリーマンで、でも一向に平社員。周りの男女社員からもあまり良く思われてない……しかし、他の仕事に……と思っても見付かるとも思えなく、こうしてずるずると生活していました。
しかも私は末端の平社員……ほとんどの雑用や仕事を押し付けられる日々。
日祭日が休みと言えど、毎日重労働の連続、精神的にもですが……。
そんなある日です……。その日もクタクタで、食欲もなくシャワーを辛うじて浴びて、布団を被る間も無くベッドに倒れ込んでました。全身麻酔をしたことがある人は分かると思いますが、約7秒程で意識が失くなります。その状態と一緒です、一気に寝堕ちしてたんです。私自身もビックリで……。
で、どれくらいの時間が経ったのか分かりませんが、不意に目が覚めたんです……。
ん?……私は……自分のベッドに倒れて寝ちゃったんだよな……ってか、ここ何処……でしょう!?
あの……私……自宅に居たはずですけど、何で森の中?しかも木の上!?わっ!!私の足の下にタマゴがっ!
ダチョウの卵よりは2廻り大きめですが、2個ほど。いや、潰さなくて良かった……。
で!!何で私がこんな所に居るの~~~~~!! 鳥の巣なのは何となくですが分かりましたけど!自宅は?ベッドは?台所やお風呂場は何処に消えた~~!!
……………………そもそも、ここは何処なんでしょう?木々が生い茂っているので森の中だけは分かりますが、状況が把握できない……。私は街という住宅街の中に居たはず……なんでこうなった?
ま、まさか……時々本や漫画やアニメなどで設定に出て来る、寝落ち転生と言う奴では……ほ、ほ、ほんとにあるんだ……自分で経験しちゃった……マジか……でも、私は何に転生した!?鏡が無いんで顔は分かりませんけど、人型である事だけは間違いなく……。
ん!?待て……口の周りが何か違和感が……お、おおっ!?歯かこれ?い、いや牙と言うものですか?2本ほど上から唇をちょこっとはみ出して……これ万が一にもキスをするチャンスが来たら……出来るんでしょうか?
で、自分の服装を見るとスーツジャケット?ジャケットスーツ!?全体に黒基調の。マントまでは無いようですが、これはまさかの……。
”ヴァンパイア”って言います!?日本語で”吸血鬼”こっちでそう言うかは分かりませんけど。美女を見つけたらたまらず首筋にカプッっと……血を啜ってしまうという、ある意味変態の……ごほっ。
しかし、魔物や魔族の中では上位種になるはずですし、不老不死とも言われている……。
太陽の光に弱く、夜行性。蝙蝠になる事も出来、魔力も相当だと言われています。
でもね……聞いたことがあるだけで、実際になったのは初めてですから何が何やら分かりません!何が何処まで出来るのかさっぱりなんですから……。
あ、ああっと、ま、まずはここから降りましょうかね。下を見…………ナニこの高さ!?
数メートル上の枝に現在居ます。どうやって降りよう……待てよ……ジャンプして着地する時に魔力を発動してゆっくり降り立てるのでは……でも魔力ってどうやって使うの?それも分からない状態で、飛び降りるのはちょっと……かと言ってここに居ても始まらないし……こうなったら降りる!降りるしかない!で、でも高さがあるなあ。着地失敗したら骨折してそう……。
「はっ!!」
私は掛け声を発してジャンプしていました。魔力、魔力、魔力……いや、六芒星かっ!地面に六芒星をイメージで描くと何と魔法陣が出来たじゃないですか!おお、浮力が起きて私はゆっくりと着地出来ました。
凄い……やはり相当の魔力を秘めていると思われます。
初の地面です。アスファルト等に整地されていない森の道の為、硬度がそこまでの頑強なイメージではない度ですがこれならば降りられる……これは後々使い道はあるな……。外は暗く月明かりだけがその森を照らしていました……………………。
------------------------------------------------------------------------------------------------
「逃がすなっ!追えっ!!」
「「「「はっ!」」」」
私の居る所から2㎞ほど離れた場所で、事件!?は起こっていました。5人ほどの男性が何かを追い掛けています。その数メートル先を走って逃げる者が……。
髪はウェーブの掛かったショートで栗色、身長は150㎝ぐらいでしょうか……女性の様ですが……なかなか足が速い。男性陣が追いつけないでいます。
かと言って引き離される訳ではなく……追いかけ競争!?の状態に……。
私は道が分かっても居ないので、たまたまその方向に歩いていました。飛べるかな?とも思ったんですけど、やってみたは良いが途中で落ちた……なんてことになったら自分が痛いだけなので。
「な、なんだ?何か足音が聞こえる……1人?いや、数人いるな……。」
私は静かに太めの木の陰に隠れて様子を窺がう事に。
「くそっ!これでどうだっ!」
後ろの男性の一人が、前を走る女性の足元に何かを投げつけました!
「あっ!?」
女性は足を躓き、前転して倒れました。男性たちが息を切らしながらも周りを囲みます。
「やっと、はあ、ふう、止めたぜ……。」
「観念しな、はあ、はあ、もう逃げられないぞ……。」
ふむ、男性たちは軽装備ですが武器を構えて女性に突き付けています。いやいや6人がかりで1人の女性を囲むとは……新手の変態とか…………うおっほんっ!
しかし、武器を向けている時点で敵として見ているのか警戒を解きませんね。
でも、助けるべきか……今の私には助けるにも武器なんて持ってないし……血を吸う!?いやいや、男性はちょっと……遠慮します。う~ん、ヴァンパイアが武器を持っているイメージがあまりありませんね。
不意に自身の爪を見ます。爪……爪かあ……伸びて切れ味が良くなるとか……。
と、不意にイメージすると5本の指の爪が伸びた!!しかも刃のような……どれ、そこの枝を……!?!?
な……マジかっ!簡単に切り落としちゃった、しかも切断面が見事なほど……我ながら怖い……どんだけでしょこの切れ味?
「誰だっ!そこに誰か居るのかっ!!」
し、しまった、切った枝の落ちた音が聞こえてしまったらしいです。これは助けない訳にはいかないですかね……彼等の前に姿を晒します。
「通りすがりだが、女性1人を寄ってたかってとはあまりいい感じがしないな。」
「黙れ!余所者に何を言われる筋合いはないっ!」
「いや、それがこれからあるんだよねぇ。」
「何だと!邪魔をするなら容赦はせんっ!」
1人が剣を振りかざして向かって来ました!私も爪を伸ばして彼の剣を受け止め……あ、切っちゃった…その剣てそんなに弱いの!?
「な、なんだこいつ……つ、爪で剣を切り落としやがった……。」
他の4人もあっさりと切り落としたんで、驚愕してます……いや、私もですけどね。
「俺がこいつを捕まえている間に、お前達はそいつを始末しろっ!」
「「「はっ!」」」
3人がかりですか……凝視すると、あら不思議相手の男性たちの動きがゆっくりに見えます。私はその動きに合わせて躱しながら爪を振り払っていきました。
「あ、あわわわわわ……な、なんて速い動きだ……。」
3人とも瞬時に切り刻まれ肉の塊となって地面に転がっていました……。私って何者?いや、ヴァンパイアですけど。
私は、ゆっくりとその男を見据えながら近づいて行きます。男も焦って、その女性を羽交い絞めにして女性に短剣を突きつけます!
「う、動くなっ!それ以上近づけばこの女は殺すっ!」
追い詰められた何とかは……って言いますけど、何をするかは分からないのでそこで止まります。まあ、凝視しながら短剣ごと切り払えば済むんですけど。しかし、そうしなくても良くなりました。何故なら……。
「な、何をっ!ぎゃあっ!!」
男の腕を払って、真上に飛び上がります!そのまま下から男の顔に傷を付けてました。宙返りして着地します!
「おおっ!」
私の方が驚きと感嘆の声を上げてたんです。何と着地した先に居るのは、真っ白な狼……。その男をそこから威嚇していました。狼男……ならぬ狼女!? しかも綺麗で毛並みも良い……モフモフしたい……ご、ごほっ。
そ、それはさておき男の方を振り向くと……あら、今の一撃で絶命してましたよ。悪者退治完了かな?
確かにまん丸お月様が良く見える……咄嗟に見たんでしょうか?変身したんだからそうなんでしょうね。
でも、何で追われていたのか……それ以上は聞くまでもないでしょう。事情もあるだろうし……。
「無事かい?って、ああ、人の姿に戻って…………わぁっ!ちょ、ちょっと待った!フ、フ、服!服着てないっ!いや、こ、これこれこれっ!」
慌てて、ジャケットを脱いで彼女に掛けてあげます。いやあ、悩ましい……ゴ、ゴホンッ。
「助けて頂いてありがとうございます……私は”アリシア”と言います。図々しい事を承知の上でお願いします……どうか私を僕として傍に置いて頂けないでしょうか?」
上を見上げて私の顔を切なそうに見つめながら、凄い発言をさらっとしてきました。僕!? 傍に!? う~ん、どうしましょうか……。
「私は放浪の身だ。部下や、城も無い。こんな何もない私に付いても良いこと無いよ……。」
我ながら、放浪中なんて良く言えたもんです。適当に歩いていたなんて事も言えないし……。
「わ、私も独りです。捕まって売られる所を逃げ出したんです……帰るところなどありません。貴方は命の恩人です、貴方にお仕えしたいのです。ですからどうか……!」
い、いや、そんなに懇願されても……よ、良く見るとなかなか美人……はっ、失礼。
「分かった、君に会ったのも何かの縁だろう。貧乏くじを引いたかもしれないがそれでも良ければ。」
「は、はい!ありがとうございます!……で…その…何か証しは……?」
彼女は破顔しつつも、証しになるものを求めて来ます。確かに、証しになるものがある方が間違いないな。しかし、証しか……あげられる物も無いしなぁ?
あ、そうか、六芒星は使えるのかな?やってみる価値はあるか。
「よし、そのままじっとして……。」
私はさっきの様にイメージをして地面に六芒星を描きます。そして、彼女を僕に……と祈ると、おお…彼女の胸の中央に六芒星が浮かび上がって、彼女の心を掴んだ様な感覚が私に入り込んで来ます。彼女の中に六芒星のアザは消え……周りは元の明るさに。彼女は顔をほんのり紅く染めて……私を嬉しそうに見つめていました。て、照れますねヴァンパイアですけどね。
「貴重なご主人様のお召し物をありがとうございます。私は元の服が有りますので……。」
アリシアは自分の服を取り戻し、着替えて私にジャケットを返してくれました。私もそれを着直して、改めて進む方向を彼女に聞いてみます。
「え~と、アリシアさんだっけ?何処に連れて行かれるところだったの?」
「は、はい、アリシアとお呼びください。この先のハラル国のエラル領主の所に連れて行かれるところでした……。」
「そうか……だったら他の国か街に向かうかい?」
敢えて、そんな怪しい奴の近くに向かう事は無いですよね。また捕まるような事になったら大事だし。
「でしたら、ここから西に……数キロ先ですが、街があります。そこに何日か潜伏するというのはどうでしょう?」
「良いね、そうしよう。あ……しかし、手持ちのお金が……ははは……。」
参った!ここに来てすっかりお金が無い事を忘れてた。しかもどんなお金なのかもわからないし、これじゃ、宿すら取れない……。万が一にもポケットには何も入ってないんだろうし……………ってあれ!? ナニコレ?……真っ赤な宝石……ルビーと言う奴ですか?いや、違うかな?でも凄く綺麗な……。
「ご、ご主人様……そ、その宝石は……!?」
「あ、ああ。ポケットの中を探してたら出て来たんだ……。」
ってか、大体そんなのが入っているなんて聞いてないです……。
「血晶石”けっしょうせき”です。それ1つで大きな屋敷が土地丸ごと一軒買えるほどの貴重な宝石です!でもそれは取っておいた方が……。」
そうですよね……こんな綺麗で宝石にしては大きいサイズで……貴重なのは良く分かりますが……。
「ん!?ポケットにまだ何かある?」
「ええっ!その宝石が他にも!?」
私もポケットから出してみると今度は小さめの色も違う宝石が2,3個……。
「あ、血晶石ではないですが……どれも高値では売れます。街のアイテム屋で売って換金すれば生活できるお金は出来ます。」
「成る程、じゃあそうするとしようか。当面の生活費にはなるだろうし。」
って!?もしかして私って元々血を採取出来れば生きられるはずですよね? ま、まあ普通の食事も私としてはその方が良いし、血液を飲む!?といってもどうしようもないピンチの時以外は……にしておこうかなと。確かに生気が漲るようなんですが、元からヴァンパイアならともかく転生した私としては違和感があります。なので、その時が来れば……無い方が良いですけど、でもヴァンパイアなんで……。
「よし、向かおうか。案内してくれるかな?」
「はい、それは勿論です……で……その……。」
「ん!? どうしたの?」
何かモジモジしてます。私何かしたかな? いえいえまだ何も……ってする気か私!! 失礼しました。
「いえ、あの……まだご主人様のお名前をお聞きしてなかったものですから……。」
「あ!ああ、そ、そうね、そうだね。名前は……。」
マズイ……そいえば、全然考えてなかった……。こっちでの名前かぁ、どうするか……。い、いやそんな眼差しで見つめないで。余計にプレッシャーになるし……困ったな……う~んと……。
「リュード……リュードと呼んでくれれば。」
「はいっ!リュード……リュード様ですね♪いいお名前です、これからもよろしくお願いします。リュード様♪」
「よろしくアリシア♪」
やっと名乗れた……焦ったなぁ、名前を聞かれるとは思わなかったしね。まあ、でも名前が無いとこっちでの生活が困ってもね……決めておいた方が無難……という事で。
で、アリシアの案内で街へと一路向かう事に。最初から出来事あり過ぎ!? だけど静かに暮らせる日が来るのかどうか……心配がよぎる私でした………………………………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます