「おはよう」

朝を迎えて寝ぼけなまこのあゆみに対してソファーの後ろから声をかけられて、昨日の事を思い出して一気に目が覚めたあゆみはタオルケットを捲り上げて勢いよく立ち上がり和宏の方を振り返った。

「どうしたの？」

（きたきたきたぁ！竹野内の声だ。あの低い重厚感のある竹野内の声で心配された）

　あゆみは和宏に飛びついてしまった。顔も声も竹野内なら最早それは和宏ではなく竹野内豊かなのである。あゆみは二日酔いの事も忘れて和宏を誘った。

　子供も和宏も出掛けて一人で今後の人生に楽しみを抱いていると、また又亜子から電話が掛かってきた。

「ちょっ！ちょっ！待てよ」

突然の亜子の言葉に何が起きたのか理解出来ないあゆみは亜子の言葉を無視して和宏の話を始めた。

「マジで竹野内カッコ良すぎる。朝誘っちゃったよ。たまらなかった」

「私もだよ。突然飛びついたら、ちょっ！ちょっ！待てよが生で聞けたわ！」

　二人は旦那の原形が消えてしまっている事に何ら悲しみなどない。寧ろ第二の人生と言うよりもこれまでの苦痛へのご褒美ぐらいの感覚に陥ってしまっていた。

「おはよう」

　毎日、毎日竹野内豊の声で起床する幸せは何ものにも変え難いが、一週間が過ぎた頃、竹野内にも慣れてきたあゆみは不満が溜まっていた。顔も声も竹野内豊だが、中身は和宏なのである。和宏には癖があった。毎朝リビングでデカいオナラをするのである。そしてそのオナラがまた臭い。硫黄臭が満載のオナラは20畳ほどあるリビングダイニング全体を黄色く包むかのように充満させる。最初は竹野内だからと我慢していたが、イケメンは三日で飽きる。そして竹野内だからこそ怒りが膨れ上がる。

（竹野内はそんな臭え屁はしねぇから）

　何とかこれを解消出来ないかと思案して、居酒屋での飲み会を予約した。