第7話
本物の魔王の居城。
不死の都と呼ばれる土地は魔王が治めた最初の国として広く知られている。
その居城を眷属を伴い闊歩する、先頭に使者、その背後に魔皇の二人、最後尾にはエミリアと執事。その四人に囲まれマナは歩く。
魔王の居城で雑務をこなしている、アンデットと比べるとあまりにも脆い壁だ。
嫌な想像は当たり、この国のアンデットはレベル150が最弱値になっている。
衛兵はそれ以上の強さを持つ。
囲まれたとしてもマナは大丈夫だと思うが、他のメンバーは駄目だろう。
この国は明らかに異常だ。
やがて見える大きな扉には今まで見てきた中で一番強いアンデットが扉を守っていた。
レベルは200、これがこの国の最終戦力なのだろう。
衛兵二人により扉は開かれそこには長机が用意され豪華な食事が用意されている。
アンデットに食事?必要はないと思うが...。
並べられた料理の先に居た存在に私たちは瞠目し畏怖する。
なんだあれは...。
強いなんて言葉じゃ生ぬるい。死の王。
あれが...不死王...メトラ・ソネフティマ....。
「空いてる所に座りなさい」
「え、えぇそうさせてもらうわ」
既に居るのは人間のような大男に変な髪形をした男がいる。
「うぬがめとらの言っていた新たな王か、是非もなし」
変な髪形の男がマナに向けて何かを言っているが、それに触れるべきではないだろう。ここにいる以上同格の相手なのだろうから。
「信長、静かにしていなさい。彼女は貴方より格上、せっかく生き返ったのにまた死にたいの?」
「くだらぬな」
関係性が見えてきた。
恐らく変な髪形をした男は信長という名前でメトラに蘇生してもらったのだろう。
強いようだが、レベルは低く見積もっても200前後、ならば..マナで対処できない相手ではない。
席に座りもう一人の大男を観察する。
ふむ...大男の正体は巨人族。出鱈目なステータス主に体力と攻撃力と守備力が高いが魔法適正は低いようだ。
「さて、あと二人ほど待ちなさい」
少しの間沈黙が続く。
後ろの眷属達からも緊張感が伝わってくる。
そして現れた、鬼と精霊。
「空いている席に座りなさい」
鬼も精霊もメトラの強さに瞠目し命令に従い席に着く。
すると先程の事が繰り返される。
「うぬがめとらの言っていた新たな王か、是非もなし」
「なんだと!!人間風情が」
鬼は魔力の籠った大剣を抜き信長に向ける。
信長は立ち上がり不敵に笑う。
「うぬが望みは死か、ならばとめはせぬ、来るが良い」
「戦いで死ぬなら本望!」
「で、あるか」
信長はなにかをした訳ではない。だが事実として、鬼は倒れた。
それに対して声は上がらない、先程は止めに入ったメトラも今は静観している。
「他愛もなし」
「信長、面倒事を増やさないでもらえる?まったく、跡取りの居ない大鬼の里は貴方が発展させなさい、これは命令」
「是非もなし...」
信長が席に着き、話が始められる。
「一名脱落したけど、全員が集まったから始めるとしましょう。魔王の宴を」
宴会なのか?と問いたくなるが、巨人族と信長は楽しそうに並べた料理へと手を動かす。
「まず、貴女たち二人には魔王になってもらう。拒否権は無い。それから、スカーレット、貴女はすぐにでも今いる城を出た方がいい」
「理由を聞かせて貰えるかしら」
「言ってどうなる?どうせ従わないでしょ?」
「よくわかってるじゃない。私はあの土地から離れるつもりはないわ」
大きくため息をつくメトラ。
「まったく...この親子は似ているわね...」
「それはどういう...」
「なんでもないわ...」
メトラの意味深な発言に引っ掛かりを覚えるが話題はさらに続き、巨人族の大男が酒を一気に飲み干す。
「それで、魔王を集めたって事はまた勇者が動き出すって事でいいんだな」
「そう。そして今回の標的は、スカーレット、貴女の所よ。逃げるなら今のうちなのだけど、逃げないんでしょ?」
メトラの鋭い視線を向けられ後ろの二人は唇を強く噛んだ。
なぜ逃げる必要があるのか?と疑問の声が配下の者達からも上がるが、それには答えてもらえなかった。
どのみち、国を捨てる事は考えてない。
「勇者がどの程度の者か見定めてやるわ」
「うぬ、死ぬぞ」
「私は吸血鬼、アンデットなの、もう死んでるわ」
マナは席を立ちその場を去る、残されたメトラ達三人はその語も話を続ける。
鷹揚に笑う信長はメトラに先程の女の事を問う。
「うぬはあの娘、知っておったのか」
「いえ、あれの母親をね。同じ事を忠告し、同じ言葉を返された。ただ...」
「ただ...勿体ぶるでない!」
「結末は同じにはならない」
「で、あるか...」
メトラは先程の娘に暗い未来が訪れる事を知りため息をついた。
ただ信長は鷹揚に笑うだけであった。
自分の城に戻ってきたマナ達はすぐさま行動に移し眷属達に命令をだした。
「全員警戒態勢に移行しなさい、相手が人間だとしても、侮ることは許さないわ!全力で挑みなさい!」
「はっ」
勇者と言われる男がいつ来るかなどは知らされていない。
すぐなのかも知れないが、メトラが逃げるよう言ったことを考えると少なくとも今すぐではなく1週間ほど時間はあるだろう。
勇者が来るまでの間に防備を整え眷属達全員で迎え撃つ。
「エミリア、部隊の編制を。ケイシーは6大魔皇達に勇者の襲来を伝えなさい、そして各自領土の防衛に努めなさい」
「ここの守りは...」
「ここは私も守るから大丈夫」
「エミリアは遊撃よ、戦況を自分で判断し行動しなさい」
「えっ!?は、はいかしこまりました」
エミリアが妹を失ってから初めて動揺したような気さえする、恐らくずっと私の傍に居れるとでも思っていたのだろう。
二人が行動に移したのを確認しマナは城の頂上へ行き夕暮れに染まる自分の国を眺めた。
あの最古の魔王:メトラ・ソネフティマ彼女が警戒する勇者という存在、それが一体どれほどの者なのか。
全てを溶かしてしまいそうな夕暮れにいまだ姿を現さないスカーレットの姿を見る。
「爺、もし私が死んだら爺はどうする...」
執事レイハンとはもう長い付き合いだ。人となりは理解しているつもり、だが私が生み出したから私に忠誠を尽くす。では私が居なかった、もしくはいなくなったら一体どうするのか、私には想像もつかなかった。
「お嬢様...そんな悲しい事は仰らないで下さい、そうですね...仮にお嬢様がこの世を去られる時、すでにわたくしはこの世界には居ないでしょう、わたくしは執事である前にお嬢様の最初の眷属であり、忠実な僕。わたくしのとっては自分の命よりお嬢様のお命の方が優先なのです」
臣下の礼を取るレイハンに背を向けマナは考えていた計画を口にする。
「爺、いえ...レイハン。貴方は生きなさい。もし私が勇者に負けるような事があれば撤退を第一優先としなさい、そして....その勇者を倒せる者が現れるまでひっそりと暮らすの、それは少しづつ...例え何年かかったとしても構わない。強者が現れたら助けを請いなさい。これは命令よ」
「お嬢様...」
薄々気付いていた。
メトラの言った「本当に似てるわね...この親子は」これが指す言葉の意味くらいすぐに理解していた。
スカーレットはメトラと面識があり、勇者の事で忠告を受けていた、だが私と同じようにその忠告を無視した。そして...勇者に敗北し命を落とした。
今の私はお姉様よりも強くなれただろうか...私なら結末を変えられるだろうか...お姉様はここを守り切った。だけど、私は守り切れるだろうか...。
わたしは...。
「真実を話すとしましょう。スカーレット様の最期を」
「爺...」
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