第6話
人間の寿命には限界がある。
70年も生きればいい方だろう。
連れてきた人間の少女にマナは何度も聞いた。
「吸血鬼になる気はないのか?」と、だが、必ず少女は首を横に振る。あれから月日がたち、連れてきた人間の少女―――リーサ・マトラティスはすでに年老いていた。
当時、5歳ほどの彼女もすでに70を超える老齢、人間からすれば長い年月も吸血鬼からすれば、ほんの一時に過ぎない。
マナからしても思い入れが無いわけではない、70年という月日が短いといっても、一人の人間に愛着を抱くには十分だった。
強引にでも吸血鬼にしてしまおうかと考えたくらいだ。
だが、彼女自身が決意を固めているのだ。いつまでも横から水を差す気にはなれなかった。
それでも、何度も強く思った。
そんな少女の決意とは裏腹に実の姉であるエミリアは苦悩していた。「どうにかして助けたい」時が経つに連れエミリアの気持ちも強くなる。
何度も相談され、その度にリーサの意志なのだから仕方がないと説くしかなかった。
40年ほど経った頃、エミリアはリーサの吸血鬼化を強行しようとした。だが、エミリアは妹の意思に揺らいだ。
「私が吸血鬼になったら...姉さんは人間を襲わないといけなくなる...私にはそれが耐えられない。だから私は、吸血鬼にはならない」
尊重すべき妹の言葉。
永遠を生きる事も出来たというのに...姉の手を汚したくないそれだけを考えていたリーサ。
マナ自身かなり迷う事になった。
それが事実だったから。
リーサが吸血鬼になった場合、血液の供給が必要なエミリアは人間を襲うしかなくなる。
マナは人間を殺しても感情は微動だにしない、だが、エミリアは違う。
最初の頃、エミリアは人間を殺すことができなかった。弱かったから、それは肉体的ではなく精神的にだ。
攻撃までして、虫の息にしたにも拘らず、血を吸うことができなかった。
止めを刺すことができなかった。
そんな
その結果、人間に甘いエミリアでも今日まで生きる事が出来た。
いい加減、腹を決めろとエミリアに強く言う事もできるが、それをしては、リーサの決意が台無しになってしまう。
それこそがマナの苦悩の種だ。
「爺、あの二人はどうすればよい...どうすれば二人共浮かばれる...」
「申し訳ありません、わたくしには思いつきません...ですが、リーサの死をもってしてエミリアが覚悟を決めれるのなら...致し方ない...かと...」
「私に、配下を見殺しにしろというのか」
珍しく怯えた表情を取る執事の言葉はもっともだ。
「元々人間とは短命種、彼女がそれを望むのであれば...それこそが望みであるならばそれを認める事も、上に立つ者の役目かと」
「致し方ない犠牲か...死なせるには惜しい...いや――甘いのは私だな...思い出が出来過ぎた...」
涙は出ない。ほんの少し寂しい気持ちがあるだけだっだ。
彼女は受け入れなかった。
リーサが76歳の時、エミリアは妹の死を看取った。
もっとも親しい者の死を得てエミリアは変わった。それもよくない方向に。
エミリアにとって人間の中で最も大切だったのが妹のリーサだ。それを失った今、人間に思い入れはなくなってしまったようだ。
人間を見れば嗜虐心に駆られる、一種の異常者。
リーサが見たら悲しむかもしれないが、結局はそれが結果だ。
一緒に吸血鬼となっていれば、また結果は変わっただろう、エミリアはリーサに気遣う事無く人間を殺せたかもしれない。
悲しむ事はない、それが彼女達の選択であり、この結果は心の弱さが招いた事なのだから。
いくつものもしが思い浮かぶがもうどうする事も出来はしない。
吸血鬼とて人間を殺せるようになったのだから進歩とも言える。
ただ、それがリーサの思いもよらない方向だっただけだ。
まぁ救いがあるとするなら、私の命令には忠実だという事、暴走するなら私はエミリアを切り捨てていたかもしれない。
私自身も心情の変化はあっただろう、以前は村を襲いに行けと命令をする事もなかっただろうから。
人間への興味が薄れた現在行っているのは侵略というなの勢力増加だ。
かつて、スカーレットから教わった国創りだ。
人間などの弱小種族と違い永劫を生きる事が出来るアンデットである吸血鬼は永劫の支配者とも言える。
100年、また100年と国は年月を積み重ね巨大化していく。
200年の月日が流れ国に属する眷属の数が2万を超えた頃、マナは周辺国家から一目置かれる魔王として君臨していた。
深淵乃吸血鬼スカーレット・ジル・ノヴァ。
人間であれば恐れぬ者はおらず、襲われた国は塵も残らず消失する。
レベルは200を超え多様なスキルと魔法を覚えた。
最上位にマナ、統括としてエミリア、執事はマナの執事なのでそれなりに高い地位ではあるが、あくまでも従者という立場だ。
他にも、眷属の中でより強い者を集めた6大魔皇という役職も作り、領地を与えている。
民はすべて眷属なので、戦闘もこなせるエリート集団だ。戦う術を持たない人間の国家など敵ではない。
魔王と呼ばれるようになったが、魔王間での正式な魔王ではない。ということで、正式な魔王となるべく招待状をもらっている。
場所は最初の魔王の居城、死者の都。
吸血鬼も一応は死者、私達の国もある意味死者の国だが、規模が違う。
そんな国に赴くのは信頼できる眷属の中でも更に上位の者達だ。
6大魔皇のうち二人と執事のレイハンにエミリアだ。
エミリアと執事のレベルも200に届くか届かないかぐらいなので、遅れを取ることはないだろう。6大魔皇の二人はレベル150台なので多少の不安は残るが、眷属たちの中では実力者なので間違いない。
お茶会という堤で呼び出されてはいるが...集団リンチだったら命の危機なので戦闘力を気にするのは必要だ。ただ...6大魔皇の中でも残虐で冷酷な二人を選んだのは間違いかもしれない。
迎えに関しては使者が招待状を頼りに来るらしいので、茶会に赴くメンバーで現状は待機だ。
メンバーの中の魔皇の一人である女吸血鬼のケイシーがマナの身を心配する。
「お嬢様...危ないと感じたらすぐ転移で逃げてくださいね?私たちの事はいいですから」
配下の言葉にため息をつきたくもなるが、自分の身を案じてくれただけなので責めることはしない。
「誰に言ってるのかしら、まぁそうね、いざとなったら全方位に【
ゴクリと全員が固唾を飲む、それは逃げられないという事が分かっているからだ。
事実あの魔法から逃げるなら、数秒と掛けずに1000メートル以上を移動しなければならない、転移も同じだ、転移にも多少のタイムラグがある。
あとはまぁ現実的ではないが、耐えきれるのなら動かなくても生存は可能だ。
そして使者は予定の時刻通り現れた。
そう、現れた。
招待状から急にアンデットのスケルトンが現れたのだ。
戦闘態勢に他の者達を宥め、使者を観察する。
レベルにして150、スケルトンにしては強いがそれだけだ。
ただ、使者として送るスケルトンがこのレベルにしてはかなり高い気もする。
さすがに、一般兵がこのレベルという事はないだろう、さすがに。もし仮にこれが一般的な兵士のレベルだとしたら明らかにバランスが崩壊している、いや、その強さがあるからこそ、魔王達を集めているのか...そう思うと納得できた。
たとえ、現存する魔王と呼ばれる者達が集まっても負ける気がしないとそう言っているのだ。
だからこそ、その場にいる信頼できる眷属達に言葉を飛ばす。
「気を引き締めろ。敵は想像以上だ」
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