第74話 攻略の糸口
ベータとドロシーは、3回、同じプロセスを繰り返した。
何度繰り返しても一緒だ。
空洞に侵入しようとすると、蜘蛛は退去して、攻撃してくる。
ろくに反撃をすることもできずに撤退。追いかけてきた蜘蛛を蹴散らす。
ベータの竜巻は、確かに蜘蛛の集団行動を阻害するには、十分であった。
だが、「巣」そのものを破壊することはできない。
「巣」から落とした個体についても、果たして、底まで落下して、死んでいるのかどうか。
「どう見る、ドロシー。」
一方の蜘蛛どもの攻撃は、主に魔法によるものだ。
炎の矢を中心とする投射系のものが多い。大した威力はない、と言ってしまえるのは、強者のみであって、人間ならば大火傷は必至であろう。
今のところは、ベータとドロシーが、うまく蜘蛛を巣から誘き出しては、少しずつダメージを与えているのだが、こんな優位にもならない優位は一瞬で覆されるかもしれなかった。
「拉致があきません。」
ドロシーは、はっきり言った。
「いつかはこちらがダメージを負います。そこで、エンドです。」
「だが、一体一ならば、勝てる。おまえもわたしも。」
「あなたは十体一でも楽勝でしょ?」
「それはそうだ。」
ベータは、鼻に皺を寄せている。もともと美しい顔立ちだが、ネコ科の生き物が不快感を感じた時のように見えた。獰猛だがこれ以上ないほど、美しい毛並みの猛獣。
「相手が何体いようが、要するに、一体一をその個体数分繰り返せば勝てるわけだよな。」
「洞窟にいれば、攻めてくる個体だけを相手にすればいいので、それも可能ですが。」
ドロシーは、洞窟のくぼみに体を押し付けるようにして、大空洞から身を隠している。
「向こうもそれなりに、損害が怖いのでしょう。わたしたちが通路から出てこない限りは、なかなか一斉攻撃はしてこない。」
「こんなちまちました攻撃は、やってられない。」
ベータはブツブツと文句を言った。
「あの竪穴に乗り込んで、奴らバッタバッタと薙ぎ倒して、本体を見つける。そうしなければ眷属の蜘蛛など、いくらでも創造されてしまう。キリがない。」
「でもあいつらは素早い。」
と、ドロシーは言った。
「素早い上に、あの糸を使って、全部の空間を自由に走る回ることができる。一方、わたしたちは、あの糸に捕まったら、完全にアウトだし。いえ・・・・」
ドロシーとベータは顔を見合わせた。
迷宮内のあまりにも異質な空間だったため、気がつくのが遅れた。
一つの空間を埋め尽くす『巣』。
その中を自在に、動き回ること。
それは。
「なんのことはない。カザリームでは、当たり前の交通手段だ。『巣』と『繭』だ。」
ベータは、吐き捨てた。
「こちらも『繭』に身を包んでしまえばいい。あとは魔力の流れを感知すれば自在に、空間機動を行える。それこそ、蜘蛛なんかより、はるかに素早く、優雅に。」
「それこそ、普通の人間には無理でしょ。」
冷静にドロシーは指摘した。
「『繭』はもともと公共に用意された乗り物で、それを勝手に作り出して、動かしたり、まして『巣』から『巣』へ移動したりなんて、やれるのは・・・」
「まあ、わたしとアシットだけだろうな。あるいは、リウもやってのけるか。」
ベータは平然と言った。
「わたしは、繭の移動と姿勢制御を行う。魔法攻撃は任せていいか?」
「わたしは、そんなに高度な魔法は打てません!」
「心配しなくても、弓になったつもりでいてくれればいい。矢を放つタイミングもわたしが指示する。」
不安そうなドロシーをみて、体力強化は使えるか、と尋ねた。
ドロシーか首を振ると、呆れてように、ぼやいた。
「身体強化が使えない拳士など、見たことがないぞ?」
「冒険者をはじめて、一年もたっめないので。」
ドロシーは、正直に言った。
「それはそれで天才なのかもしれない。」
意外にも好意的に、ベータはそう認めてくれた。
「ぶっつけ本番でいくか。
いいか、気絶だけはするなよ。ただのお荷物になったら『繭』から放り出す。」
ドロシーは手を掴まれた。
物凄い力でひっぱられて、体が中に浮く。
あまりにも強い力には逆らわない。
というのも、拳士には必要な素養だった。
このときも、ドロシーは、ベータの引っ張る方向にむけて、ふわりと体を浮かせたのである。もし逆らえば、肩か、腕のどこかが脱臼していたかもしれない。
走りながら、ベータは、呪文を唱えている。完全無詠唱でいままで魔法を発動されていたベータが、そうするのだから、「繭」を創造すること、それを魔物が作った「巣」に適合させらることは、言うほど簡単ではなかったのだろう。
ぐい、と、ドロシーを後ろからだき抱えるようにして、ベータは、空中に身を躍らせた。
その体を白い繊維が包んでいく。
蜘蛛たちの反撃は、一瞬遅れた。
自分たちの「巣」に自らダイブする敵は想定外だったのだろう。
気がついたときには、五体の蜘蛛が、頭部を破砕されて、巣から落ちていた。
慌てたように、放った炎の矢は、でたらめな方向に逸れた。
というより。
ベータの操る繭が、速過ぎるのた。
蜘蛛が狙いをつける間もなく、それは、蜘蛛共の傍らを駆け抜け。
その後には、首を両断された死体が転がっている。
これは、すれ違いざまのベータの斬撃だった。
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