第57話 紡がれた決勝戦
三日後。
カザリーム最大のスタジアムで行われた「踊る道化師トーナメント」の決勝は、のちに、伝説となった。
これは、もともとは、ただのたわいもない噂話から始まったものだ。
曰く。
ギウリークの首都ミトラに、とんでもないパーティが、現れたらしい。
曰く。
メンバーの一人は真祖の吸血鬼らしい。
曰く。
パーティ会場で出会った古竜が跪いて、礼をした竜人がいるらしい。
曰く。
最近まで閉鎖されていた魔王宮で、見つかった少女もいるらしい。
曰く、なかのひとりは、邪神ヴァルゴールの12使徒を蹴散らして、さらには、それを従えているそうだ。まさか長らく不明となっていたヴァルゴールの祭司長なのか?
これだと、化け物だらけで、信じるにも値しないのだが、一方で、こんな噂もある。
北の新興国クローディア大公国の姫君もパーティメンバーとして、参加しているらしい。
これでもかと、戯作者の妄想を煮詰めたようなこのパーティには、さらに銀杯皇国の皇帝自らが、膝をおって、「闇姫」オルガの抹殺を依頼した、というものもあった。
いや、闇姫を「踊る道化師」の奴隷に落とすことを、罰として与えたのだ、という異説もある。
ガザリームは、迷宮のうえに建てられた都市だ。その地下にはいまも百を超える迷宮が存在し、多くの冒険者をこの街に引き寄せるのだが。
簡単に攻略でき、利益の出やすい迷宮はそれなりに、攻略されつくしている。
もちろん、未踏破の迷宮も多く、また、踏破されたと思われた迷宮にポッカリと新たなる回廊が発見されることも珍しくない。
だが、そう言ったところに足を踏み入れるのは、危険がいっぱいだ。
楽して稼ぐことを覚えたパーティは、くすぶって、その日暮らしをするものも少なくなかった。
噂の「踊る道化師」を名乗ってみるか。
そんなことを最初に考えたのは、誰だったのか。
個々の冒険者は、たしかに「銀、銅、鉄、真鍮、錆」などといったランクに属し、それを、偽ることはできないようにはなっていたが、パーティそのものは、申告制である。
各冒険者事務所からの「踊る道化師」を名乗るパーティ登録の急増は、行政の耳にも入り、あきれた役所は「踊る道化師」を名乗るパーティ登録は禁止した。
一方で、この自称「踊る道化師」どもを戦わせたら面白いので、と考えた者がいる。
カザリームは、新旧市街に、多数のコロシアムを抱えることからわかるように、古くからこの手の見世物に目のない街だった。
レストランの一角にも、リングが用意され、アトラクションとして試合が頻繁に組まれる。
当然、そこには、賭けも頻繁に行われる。
興行主たちは、盛り上げようとあれやこれやと工夫を漏らすのだが、特に、近年は「戦いに至るストーリー」こそがキモである、とそんな風潮もある。
興行主は、対戦者同士に、恋を巡っての鞘当や、復讐、成り上がりなど、あれやこれやのストーリーを作り上げるのに苦労していた。
どちらがホンモノか。
というのは、手軽でわかりやすいストーリー設定だった。
かくして、いろいろに手を出す目端のきくギルドのなどは、「踊る道化師」で登録しようとしたパーティをいち早く、そんな試合会場に送り込むことで、けっこうな利益を手にしていたのである。
「決勝戦」は、六対六。
ここまでリーダー1人で勝ち進んできた「踊る道化師・剣」も「踊る道化師・魔王」もフルメンバーでのぞみ、一組ずつの対抗戦で、行われた。
初戦。銀雷の魔女ドロシーと、屈強の格闘士との戦いは、ドロシーか、魔法を併用した変幻自在の打撃で、相手を翻弄したが、体格で勝る格闘士は、それに耐え抜き、一瞬の隙をついて組み技から、首を絞めた。気を失う直前に、ドロシーの雷撃魔法が炸裂し、両者失神で引き分けとなった。
ギムリウスのスーツなしでそんなことをすれば、当然そうなる。
二回戦、三回戦は、可憐な少女たちだった。
こんな幼げな少女が戦えるのか、と観衆が賭けたことを忘れて心配したが、一人は双剣術、一人は棒術で、1本勝ちをおさめた。
観衆は、大喝采でこの勝利を讃えた。
勝った二人には、これより二つ名がついた。
「変幻自在」のエミリア。「双月剣」のファイユ。
次に出てきた冴えない青年は、冴えなく負け。
副将戦は、良く鍛えた若い格闘士だったが、なんと「踊る道化師・剣」が繰り出してきたのは、カザリーム最高の魔導師と評判の高い若き天才、アシット・クロムウェルだった。
格闘士は善戦したといってもよい。
だが、多彩な魔法を無詠唱出駆使するアシットには、一撃すら入れられず、終わってみればアシットの圧勝だった。
だが、負けたクロウドも拍手を持って讃えられた。
アシットの生み出した岩塊による攻撃を再三、打ち砕いたことから「破砕拳士」クロウドの二つ名と呼ばれることになったのだった。
これで試合は二勝二敗一分けとなり、勝敗は最終戦に委ねられた。
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