第44話 祝宴の駆け引き
「試しの迷宮」の制覇により、彼らは晴れて、カザリームで冒険者として活動できることになった。
あとは、決勝で勝てば、めでたく「踊る道化師」を名乗れるのだが、それは正直、リウにとっては、どうでもよい。
「だから、対戦相手は、全員無事です。」
アシットは、そう言って聞かせるのだが、生真面目そうな、品のある顔立ちをした女性は、どうにも納得してくれない。
迷宮から、出たときは、銀色の肌にぴったりしたボディスーツだけで、その細身ながらもみごとなプロポーションをさらけだしていたのだが、いまは濃い緑の侍女が着るような地味なドレスで、曲線を隠している。
「そうですか・・・」
ドロシーは目を伏せた。
「やはり、観客のほうに被害が出ましたか。」
「いや、観客にも被害はでていませんっ!」
「よ、よかった! では破壊されたのは建築物だけだったのですね。」
そんなことはない!
と、アシットは試合の経過を一通り、説明するはめになった。
「くそっ!」
骨付き肉の骨を噛み砕きながら、クロウドが叫んだ。
包帯の量は、彼がいちばん多い。
とくに、足は添え木とギプスで念入りに固められている。
こんな状態で、派手に飲み食いもないのだが。
「俺も見たかったぜ。ヘイカの大活躍をっ!」
ようやく、納得したのか、ほっとしたように、ドロシーは粥のはいった匙を口に運ぶ。
さりげなく、隣に座る青年にも、粥や野菜と魚の切り身を煮付けたものを、取り分けてやるしぐさに、“ああ、この2人は付き合っているのだな。”と理解するアシットだった。
今日の試合でのリウの活躍、ドロシーたちの無事の帰還を祝って、席を設けたい、とのアシットの申し出に、腹をすかせた「踊る道化師」は、あつさりと乗ったのだ。
場所は、彼らの滞在するホテルに併設されたレストラン。
負傷した者の手当てなども行っていたので、食前酒が振る舞われた時には、日はもうとっぷりと暮れている。
それから、料理が運ばれ、未成年でも飲んで大丈夫なたぐいのアルコールが、振る舞われた。
ドロシーも、リウの決勝進出が、大量殺戮や大規模破壊の産物でないことに、ようやくナットクして、笑顔を見せた。
「階層そのものは、それほど規模は大きくありませんでした。」
エミリアは、リウに報告している。
それが、リウの副官たる自分の立場だと、そう思っているのだ。うかうかしていると、そのポジションもドロシーに取られかねないので、彼女も必死である。
「マッピングが必要なほどの、入り組んだ構造でもありませんでしたし、階層は2層。最初に転移させられた階層は、昆虫型のモンスター、次の層はアンデッド系のモンスターでした。
なんの工夫もない構成で、呆れましたよ。」
リウが、作った魔王宮が、まさにそんな構造だったので、彼はちょっといやな顔をした。
「それにしては、時間がかかった。」
「それぞれの階層がかなり広くて、」
エミリアは、自分の盗賊家業のために、外見をかなり幼くしている。まるで、子どもが言い訳をしているような感じになってしまう。
「階層主は、20メトルはある大百足と、言葉を話すアンデッドでした。」
エミリアは、反応せずに、乳白色の酒と一緒に、辛く煮付けた貝ひもを口に運ぶリウを、不満そうに見つめた。
「言葉を話すアンデッドですよ。災害級です。」
「おまえも、冒険者学校じゃ、よく一緒に食事をしてただろう。」
そう言えばそうだった。ギムリウスもロウもアモンも、言葉を話す災害級の魔物に違いなかった。
「でも、それを倒して帰ってきたんですよ。」
「無事に帰ってくれたのは、喜ばしいが、『 知性のある魔物』にもいろいろある。
それに、倒したのはおもに、ファイユだろう?」
そうなのだ。
屍人を統率していた長。
ファイユは、真っ直ぐに斬りかかっていった。
魔法の発動よりも、早く、喉をつき、印を組もうとした手の指を切断した。
再生しようとした傷口を抉り、再び呪文の詠唱をしようとした、顎を切り落とした。顎が再生する前に、舌を、切り飛ばした。
それが、屍人の王に実際、どの程度のダメージになったのかは、エミリアにも微妙にわからない。
再生速度からみて、それが「効いていない」確率は高かった。
特別な祝福や付与をうけた武器でないと、効果的なダメージを与えられないのは、このような「死んで」生きている相手にはよくあることだった。
しかし、ファイユはいさい構わず、常に相手の先をとるように、再生し続ける体を、無限に損傷させ続けた。
それを、少なくとも屍人の王は嫌がった。ファイユを妨害させようと、まだ数十体は残っていた屍人を、向かわせたのだが、そこは、エミリアたちが、ファイユをガードしたのだ。
ついに、根負けした階層主は、ここを通過することを許可した。
それでも構わず、ファイユは、彼を切り刻む行動を続けたので、彼は悲鳴をあげて逃走した・・・残されたアイテムは、ありがたく頂戴して、さきほど、帰還した際にカザリームの係員に渡してある。
おそらく、かなりの値が着くはずだ。
そういうことも含めて、エミリアは自分がよくやった、と思うのだ。
実際に、リウだってそう褒めてくれるのだが、その表情が冴えないのが気がかりだった。
クロウドはマシューと、冒険者学校の校歌を口ずさんでいる。ほんとうはみんなで歌いたかったのだが、誰ものってこなかったのだ。
それでも、ご機嫌だ。マシューのほうは、とりあえずドロシーが、アシットと話し込むのが、気になるようで、そちらをちらちらと見ながら、クロウドに調子を合わせてくれていた。
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