第484話 長い夜の終わり
ロウは、アキルを誘って、アモンの「異界」のひとつから転移した。
アキルは。
確かに神様には違いないが、その意識は人としてのものが強い。
アライアス侯爵の屋敷に引き返して、何人かを起こしてまわった。
時刻は、深夜になっている。
当然集められた者たちの機嫌が悪いか、と言うと、そうでも無かった。
ドロシーなどは、疲れきっているのに眠れなくて悶々としていたらしい。
ネイアはそもそも眠る必要がなかったし、オルガはまだ起きていて、1杯やっているところだった。
「ルールス先生は?」
ランゴバルドの王族で、学校の要職の長いルールスに、ロウはひそかに期待していたのだが、ネイア曰く。
ドレスの発注でとんでもない行き違いがあってショックのあまり、酒を飲んで、寝てしまったらしい。こうなると起こすのも困難でしかも
「起きても酔いがひどくて、ロクなことは言わないと思います。」
と、ネイアは言った。
ドロシーは夜着のままだったが、親切にお茶を入れてくれた。
ロウは、現状を説明した。
説明の必要も無い者もいたが、ここは全員で知恵を絞らねばならない。
「わたしがルトくんを焚き付けたからでしょうか?」
ドロシーは消え入りそうだ。
さっきのヤイバとの戦いであまり、やくに立たなかったのも響いているようだった。
「おまえは、ルトに自分の好きなことをすればいいとアドバイスしただけだろう?
なにも気に病むことはない。」
「わたしは、ギムリウスの意見に賛成なんだ。」
アキルが言った。
「フィオリナとリウは、ほっといて、わたしたちは、ルトのサポートに回ろうよ。」
「ほっておいたら、フィオリナたちは暴走する。」
「暴走って意味が分からないな。」
アキルはいらいらと言った。
「そんなことより、ルトを助ける方が優先だよ。あの、ふたりが討伐されようが、ほっとけばよくない?」
「それだと、ルトが幸せにならないんだ。」
ロウは、吸血鬼のくせに顔色が悪い。いつもは、健康そうにお肌もピチピチしているのに、すっかりつかれた様子だった。
「わたしは、ザザリの見立てが一番確かだと思う。ルトは自分が否定されるのが怖いんだ。とくに、自分が好きなやつらには。
その筆頭がフィオリナで、やつ抜きにしては、ルトの幸せは成り立たないんだ。」
「じ、じゃあ、」
アキルは、むうっと怒ったが、目にうっすら涙を浮かべていた。
「わたしたちはなにをやっても無駄ってこと?」
「直接には。」
ロウは、あっさりとそう言った。
アキルを制して、オルガが乗り出した。
「要するに、真祖殿の意見は決定的ななにごとかは、起こさずに時間を稼ぐ、ということか?」
「そんなことしてっ!!」
「まあ、現実的な意見だろう?
クローディアのお姫様、は,恋に恋してるだけだ。一年二年とたてば、熱も冷めてくる。
ルトが、婚約解消を言い出さなければ、フィオリナはずるずるといまの状態を続ける。アモンの情報によれば、もとの性に戻してもらったから、今度こそフィオリナの貞操も危ないか。まあ、それも今更だが。」
「で、どうなるの?」
「色ボケ魔王と姫が我にかえるころには、ルトもフィオリナを失う決心がつく。
時間というのはそういうものだ。
これであってるか、真祖殿。」
「お見事です、闇姫。」
「だが断る!」
齢千年を、超える真祖吸血鬼は、膝から崩れ落ちた。
「な、なんでえっ!」
「ルトにこのたびの結婚を思いとどまらせる理由が見つからないからだ!」
「そんなものはどうにでも」
「どうにもならなかったじゃない!」
アキルは叫んだ。
「実際に起きてるのは婚約解消したほうがいいことばっかりなんだけど、あのルトは、いやフィオリナさんもだけど、ものすごいワガママで。」
「な、お似合いのふたりだろ?」
ロウはちょっとひきつった笑顔で言った。
「まあ、それはそうなんだけどな。」
「もう少し考えてみよう。」
邪神少女は、頭を掻きむしった。
「社会的な常識とかはひとまずおいて、フィオリナにもルトにも責任がない形での、結婚式の延期を考えてみよう。
どうだろう、突然、結婚式の予定会場が魔物に食われてなくなってしまう・・・・」
「それは、さっきギムリウスがやったやつだ!」
「そ、そうだ。わたしの使徒に命令して、ひとりでも多くの贄を捧げるように。そしてら、ミトラどころか西域いえ、全人類社会が大混乱・・・」
「邪神か!おまえは。」
「邪神だよ!」
「邪神には違いない。」
オルガは、ドロシーにお茶のお替りをお願いしながら言った。
「だからといって、それをどうやって信徒に伝える。神託などでは正確に伝わらん。」
「それはほら!」
アキルは、にかっと笑ってみせた。
「わたし、いま現身があるから、12使徒に直接。」
「単純に反論されて終わりだぞ。」
そう「会える神さま」になってしまったアキル=ヴァルゴールには、直接反論が許されるという妙なことになってしまっている。
「・・・わたしが吸血するか!」
ロウが、叫んだ。
「わたしの下僕にしてしまえば・・・」
「わたしは、ルトさまの血を吸ってますが。」
ネイアが、口をはさんだ。
「吸ったはずの血を媒介にされて、使い魔にされています。あるいは、真祖さまなら。」
やめよう。ロウはふるふると首を振った。別にルトの使い魔になってみてもいいのだが、話をこれ以上混乱させたくはなかった。
「権力者側からの圧力は手段としてはある、な。」
オルガは、考え込んだ。
「いや、クローディア大公の姫君では無理か。両親の反対?
もともと親が決めた婚約者を、か。無理筋だ。
それに、クローディア家としては、伝説の魔王に娶られるより、形だけでもルトの方がマシ、だ。」
「わたしが、ルトくんを誘惑してみます。」
ドロシーが意を決したように言った。
「フィオリナさんの浮気ではなく、自分の浮気なら結婚を少なくともいったんは棚上げにする理由にはなるのでは?」
この意見は、おまえがそうしたいだけだろう、と白い目で見られただけだった。
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