第477話 駆け出し冒険者の結論
ぼくは、彼女を見返した。
別に彼女に害意を抱いていたわけではない。殺意なんてとんでもない。ぼくはこのきれいな竜が大好きだった。
それなのに。
アモンはぼくから、そっと目をそらした。神竜と言われる古竜のなかでも卓越した力をもつ彼女が、目をそらしたのだ。
ぼくは。口元を隠した。あの嫌な笑みが浮かんでいる。
「すいません。」
ぼくは、あやまった。
「いい。おまえは『踊る道化師』のリーダーだ。怖いところがあってもいい。それが、実績ではなく、これからの未来に関するものであってもな。
なるほど、『いま』罰するつもりはない、ということだな。」
「まあ、そういうことにしておいてください。少なくとも『死』という罰は、ぼくの選択肢の中にはない。」
ぼくは、三人を振り返った。
「それでいいね?」
「自らを罰する罰は考えている。」
リウは言った。
「フィオリナはどうだ?」
「罰!?」
女性のフォルムを取り戻したフィオリナは、機嫌がよくなかった。
ウィルニア「でさえ」罰が悪そうにしているのに比べると、この不貞腐れた態度は、あまり誉められたものではない、とぼくは思う。
「罰なんて、自分でどうこうするもんじゃないでしょ?」
アモンは、顔を伏せた。彼女なりの配慮で、自分の目が金褐色になっているのを見られたく、なかったのだろう。
だが、瞳の変化が、感情の昂りを表すものだそもそもそのこと、フィオリナが知ってるのかどうがが定かではない。
「踊る道化師」の迷宮組の中では、フィオリナが仲がいいのは、もちろんリウなのだが(笑)、あとはロウ=リンドくらいで、一時、行動を別にしていたこともあって、ギムリウスtやアモンとは、じっくり話した事はないのだ。
ぼくは、アモンのそばに寄って、囁いた。
「感謝しています。リアモンド。」
「そんなものはいい。」
アモンの言葉はため息混じりだった。古竜も嘆息することがあるのだろうか。
「そもそも、何に感謝するというのだ。お主の婚約者は、魔王の思い人となり、反省すらしておらん。言っておくがほとぼりが冷めれば『また』やるぞ。
ウィルニアに性別を変換させるならば、フィオリナだけでよかった。
リウは・・・あいつは同姓同士の恋愛に理解が乏しいところがある。
まあ、自由に性別を変えられたのだから、その必要がなかったということもあるが。」
「なにに感謝・・・と言えば、もちろん、フィオリナもリウも殺さないで済んだことです。」
ぼくが、そういうと、アモンは、殺されても当然のことをしているかと思うがな、とつぶやいた。
「あるいは、ぼくが殺されていたかもしれません。
どちらも回避できただけでも上々です。」
「そんな考え方もあるのか。」
アモンは、異界からきた謎生物を観察する目で、ぼくをまじまじと眺めた。
「まあ、とんだ大騒ぎになったが、これで一段落だな。
今後の『踊る道化師』の活動については、集まって話をしよう。
おそらくは…
クローディア大公は、フィオリナを廃嫡するだろう。
あそことは、今後も接点を持って起きたかってのだが、しかたあるまい。
少なくとも、おのれの娘がしでかしたこと、直接にフィオリナを罰したわけでもないなら、少なくとも中立的立場は保ってくれそうだ。」
アモンは、フィオリナよりもよっぽどマシな判断をする。
「あとは、おぬしらの婚約解消だが、フィオリナが、大公国の姫君でなくなってしまえば、何のこともあるまい。いまここで宣言するなら、私が、証人にたつぞ。」
フィオリナが叫び出しそうだったのでぼくが先に言った。
「なにを言ってるんですか。ぼくとフィオリナは結婚するんですよ。」
後の世に『迷宮三傑』とよばれた三人が、そろって膝がくだけるのを見れたのは面白い経験だったかもしれない。
「し、正気かっ!」
リウが叫んだ。
「自分の愛する女性が、野良犬に噛まれたからと言って結婚しないのは、残酷だと感じませんか?」
「野良犬とほざいたなっ!」
リウの両眼が燃え上がった。
そのまま、全身を炎のエフェクトが包んだ。
古の大戦。
魔王と呼ばれた男は、狼を意匠とするその鎧兜で戦場を駆け巡った、とされる。
「オレとフィオリナは、確かに道を外れたことをした。それは謝る。」
魔王の覇気が、陽の光すら弱々しいものにした。
もちろん、その程度。
アモンもウィルニアも、そしてぼくだって何処吹く風だ。
「ウィル、それ…」
賢者が妙な顔で、兜を指さした。
アモンが下をむいて笑っている。
ぼくらの異常な反応にきがついたリウは、あわてて兜を脱いだ。
それは、氷雪を翔る精悍なオオカミの頭部を象ったもののはず、であったが。
猛々しく開いたはずの口は、どこか笑っているようにみえた。全体のフォルムは、丸っこく、かわいらしいものになり。
「し、柴わんこ、じゃあああっ!」
お、おれのカブトが、といいながら、涙目のリウはカブトを抱きしめた。
カブトの後方から、びょこんとはえたシッポがふりふりされている。
「ごめん、リウ。」
ぼくは謝った。
「野良犬に噛まれた、じゃなくて、飼い犬に手を噛まれる、だった。」
むう、
と喉の奥でうなったリウは、剣を抜いた。このまえの毒蛇の剣はぼくが回したまったのだが収、こいつはいけつ名剣のたぐいをもっているのだろう。
抜き手もみせない一撃は、僕の胴をないだ。
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