第390話 大邪神、再び怒る!
「そうだった!」
わたしは、びしっとドロシーさんを指さした。
“忘れるなよ”
と、オルガっちがつぶやいた。
「ドロシーさん! ルトくんと何があったの?」
わたしの指先からは、不可視の殺人光線などでないが、もし出てたとしたら、あっさり避けられただろうと思う。
ドロシーさんの動きは、見えない円にそって、複雑な歩法で移動するというもので、その動きははやくはないが、当てづらい。
「内緒です!」
ゆるやかな動きでも、相当の体力を使うのだろう。胸元に汗をにじませながら、ドロシーさんは息をついた。
「婚約者に結婚を申し込むなんてっ!」
「いや・・・・どこか変でしょうか?」
「変じゃないことをルトくんがするなんてありえない!」
ドロシーさんは、タオルを出して汗を拭った。
ええっ・・・色っぽくない?
というか、色っぽいわな、あんだけ毎晩、あれこれされてればなっ! おまえの喘ぎはただ声がでかいだけではなくて、描写が具体的なんで、なにをどうしてるのか、されてるのか、だいたいわかってしまうんだけどなっ!
「アキル・・・笑いが怖いのじゃ。」
オルガっちは、わたしの頬をひっぱった。
やめてくれ、わたしはもうちょっと、細面になりたいのだ。オルガっちみたいに。
「それに、あんまりそういうことを事細かに追求すると、品が悪くなるのじゃぞ。」
すまぬ、オルガっち。
「ドロシーよ、質問をかえよう。ルトが、いままで逃げていたフィオリナとの結婚を決意させるだけのことが、昨晩、お主のとのあいだにあった、と、そう思っていいか?」
「それもナイショです。」
ドロシーさんは、胸元を半分はだけて、汗をふいている。なめらかな肌だ。そういえば残念姫さんは、やたら鶏ガラ扱いするが、きれいな曲線だった。
なんだか見せつけられてるような気分になって気分を害していると、またオルガにほっぺをひっぱられた。
「ルトくんは」
ドロシーさんは、わたしをまっすぐに見つめた。
きれいな目をしている。
わたしは、彼女に惹かれるものを感じた。
冒険者学校に婚約者をおいたまま、ジウル・ボルテックとアレコレし、いままた愛するルトくんのP-----------を奪った無自覚浮気女は、まるで聖女のように朝もやの中に佇んでいた。
「あのさ、ドロシーさん、わたしの巫女にならな・・・」
「アキル! 話がずれている!」
すまん、オルガっち。
「ルトくんは・・・人と同じことができるのか・・・悩んでました。
普通の人と同じように、人を愛して、愛されることができるのか。」
それは・・・そうだろう。でも、そのフリをすることはいくらでも出来るんだぞ。たとえば、神竜后妃リアモンドが冒険者学校に通っているように。
それじゃあ、不満?
なにを贅沢な。
「ドロシーさん。」
わたしは言った。
「普通の人間のように普通の人間を愛するって・・・あのフィオリナ姫さんが、普通ですか?」
困ったように、ドロシーさんは微笑んだ。物わかりの悪い子どもに対するように。
「あの・・・」
おずおずと声をかけたのは、アライアス家の料理番の少女だった。
「あの・・・ご朝食用の薬草を摘ませていただいてもよろしいでしょうか。」
「ああ、かまわんぞ。」
一番、大人のオルガっちが、わらって、場所を譲った。
「ドロシー、今日は予定はあるのか?」
「朝食後、アライアス閣下と昨晩の収支の計算をお手伝いすることになっております。
昼食後は、なにも。」
ドロシーさん、オルガっちが、次期の銀灰皇国の帝位につくことを知ってるから、口調が丁寧だ。でも暗殺でもされない限り、あと半世紀は先のことなんだろうけど。
「なら、午後から、わらわたちと、もう少し話をせんか?
ルトのことを除いても、アキルはぬしに興味があるようだ。」
「かまいません。」
ドロシーさんは先にたって、屋敷に向かいながら手をふった。
「わたしに出来ることはもう全部、終わりました。あとは話をつけるのは、ルトくんとフィオリナ姫です。誰にも、口出しも手出しもさせません。
誰にも。」
神様にも?
分かっていってるのか。
まさか、ね。
たしかに、ドロシーは欲しい。ルトのその気持がわたしにも少しわかったような気がした。
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