第343話 躍る道化師たちの集合
「なんで、レクスまで連れてきた!」
そう、ルトに言われたレクスは、しょげたように俯いて言った。
「一応、“一般常識”は履修を終わったから外出はできるよ。
アモンもリウもあんまりかまってくれないんで、寂しくてさあ。
あ、学校自体は面白いよ。でもなんかあのクラスってみんなクセが強いよね。」
確かに半分以上は、もとヴァルゴールの使徒だからなあ、ルトは納得した。もちろん「お前が言うな」とは心の中で思ったが。
ちなみに“ 神鎧竜”の異名で呼ばれるレクスは、人化の魔法が致命的に下手くそで、まあ、全体としては、可愛らしい坊やの外見なのであるが、二の腕から指先までは、びっひりと竜鱗に覆われたいたし、頭の左端からは角が1本飛び出していた。
「連れてきたわけではないのです。勝手にわたしたちのあとを追って転移してきたのです。」
とギムリウス。
「そんなことができるのか?」
「できます!」
ギムリウスは力説した。
「今度、ルトにもやり方を教えます。転移で逃げる相手を追跡する場合など利用の場面は意外に多いのです。」
転移が使える相手そのものが少ない上に、簡単に教えるとは言ってもギムリウスの転移は神々をも凌ぐはずなので、そう簡単にマスターできるだろうとは、思わなかった。まあ話だけは聞いておこう。
自分で「跳んだ」レクスはもちろん、アモンとリウは元気なものだった。
リウは・・・なぜか女性になっていた。
野性味のある美人で、少し化粧でもして目つきの鋭さを隠してやれば、ギウリークの貴族共がこぞって尻を追いかけ回すことは間違いない。
着ているものは、ランゴバルド冒険者学校の制服のままだが、ジャケットとバンツなのだが、胸とお尻が内側から盛り上がっている。
「どうだ!」
と胸をそびやかすように、ルトに体を押し付けるので、ルトは思った通りのことを、言ってやった。
「なるほど!
確かにその危険はあるなあ。へんなやつらが寄ってこないようにしっかりエスコートを頼むそ!」
は?誰が誰を。
「おまえがオレ、いやわたしをね。そのために、わざわざこっちを選んだんだから!」
「いいメンバーが、揃ってきたじゃないか。」
アモンはというと、いつもの水着に「神竜騎士団」のジャケットを羽織っている。裾は腰まであるのだが、スカートもズボンも履いていないので、すらりとのびた脚線は、ほとんどむき出しだ。
うれしそうに、集まった一同を、見回した。
「ううっ・・・これが認識阻害か。確かに言われなければルトもフィオリナも別人としか思えん。
恐ろしいことをするなあ、我がリーダー殿は。」
ネイアは、転移酔いしたルールスの介抱に依存しんでいたが、とりあえず休ませておけばいい、と判断がつくと、さっと立ち上がった。
「ご主人様」
これはルトに対するもので、ルトは手を振ってやめさせた。
「オーナー」
「それは神竜の息吹が勝手にそうよんでるだけだから。」
「ルトさま・・・心配しておりました。特にギムリウスが、出奔してからは、毎夜一睡もできず、食事も喉を通らず」
もともとネイア先生は、眠らなくても食事をとらなくてもいい種族なんだが。
まあ、そのくらい心配してくれたんだろうと、ルトは納得することにした。
「パーティのことなんだけど」
ルトは言った。
「もともとの主催目的は、クローディアの親父殿夫妻のミトラへの到着を祝う歓迎会だ。そっちはそっちで伯爵さまとアライアス侯爵にまかせておけばいい。
ぼくらのやるべきことは、ぼくら踊る道化師のお披露目、だ。
具体的に何者かは一言も喋らなくていい。ただいるだけで、周りが勝手に判断してくれる。
ゆえに、会の進行を妨げるようなトラブルは未然に防ぐこと。
それから、フィオリナが主催者の伯爵家の令嬢を口説きにかかるはずなのでこれをやんわり妨害すること。」
「なんで!」
と、フィオリナが抗議したが、全員から白い目で見られて黙り込んだ。
「列席者は、ギウリークの上位貴族、聖光教会のお偉いかたたち、おそらくは鉄道公社や各国の大使もくるだろう。」
「教会のお偉いさんね。」
アモンが嘲笑するように言った。
「こっちには、アキルっていうホンモノの 神様がいるんだけどね!」
「前ロデリウム公のじいさまじゃないけど、控えい控えいここにおわすお方をどなたと心得える!を会場のいたるところで無言でやり散らかすわけだ。
こんなふうに!」
ルトはため息をついて、さっきから、床にへばりつくようにアモンに向かって頭を垂れているラウレスを抱き起こした。
「ラウレスもパーティーには来るのかい。」
「そ、そんな! アモンさまと同席など畏れ多いっ!!!」
「わかった。踊る道化師からの依頼事項として、必ず出席するように。
エミリアは?」
盗賊の副頭目の少女は、挑むように目を光らせた。
「わたしも踊る道化師の一員よ!」
「よし、これであとはボルテックとドロシーにアキルだな。あの闇姫さまも一緒だろうね。
さて。
派手に自己紹介といきましょうか。
まあ、ぼくらの場合は、派手にやろうと思わなくても派手にはなってしまうんだけどね。」
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