第318話 ミトラへの車窓から

えーっと。

そもそもわたしはミトラに何をしに行くんだっけな。


邪神の現身、異世界人、わたし夏ノ目秋流は思う。


ミトラへの長い長い道。

歩いて行こうなんて考えたのはどこのどいつだろう。


魔道列車は、動力源がよくわからないこと以外は、いわゆる列車に似ている。

鉄製のレールが引かれ、その上を連結された車両が走っていく。

途中、トンネルもあったし、橋の上を渡ったりもした。


途中で飲み物や食べ物を売りに来たりもして、すっかり旅行気分だ。


わたしたちは、2等車両。

クローディア陛下とアウデリアさま、ジウルさん、ウィルニア老師とシャーリーは特等席車両に乗っている。これは身分、うんぬんよりも陛下とアウデリアさまの図体がでかいからだ。

わたしたちがいるようなボックス席には、収まり切らないだろう。


わたしの隣は、ミラン。向かいにはルトくんが座っている。その頭の上にへばりつくようにして、ギムリウスが巣を張っている。そのお隣がドロシーさん。

ご老公の一行とラウレスは、通路を隔てた隣の席で、すでに食べ物と飲み物を用意して、いっぱい初めていた。


フィオリナ姫、ロウさま、エミリアさんとオルガっちは、後ろの席。

何やら、暗殺がどうの、危ない言葉が聞こえてくる。

オルガ姫は、エミリアには、まだ冒険者「黒の傭兵」ガルレアと名乗っていた。


列車の座席は7分くらい埋まっているが、私たちの周りはガラガラだった。

理由は、ギムリウスであって、いくらその容姿が可愛らしくても、座席の上に巣をかける

「普通」の人間はいないわけで、ギウリークは西域は亜人差別が著しいところであることを差っ引いてもあまり、近くに寄りたくはないんだろうと思う。


窓からの風は爽やかだ。


わたしが、車窓の景色を楽しんでいた。

ルトくんは、頭上のギムリウスに串焼きを差し出している。

ギムリウスは、そのまま串焼きをパクついていた。

なんとなく・・・ではなく、もろに餌付けだ。


割とルトくんは、ギムリウスの非人間的な行動については、注意することが多いのだが、今回は、随分と甘やかしている。


「雇い主のアライアス侯爵からの褒賞はどのくらい貰えそう? ギムリウス。」

ルトくんは、新しい串焼きを差し出した。そうしないと、ギムリウスは、串ごと食べてしまう。

「具体的な金額は、パーティリーダーと連絡がついてからにすると、話してます。」

ギムリウスは嬉しそうに、串焼きを頬張りながら言った。

「あなたはこのまま『ウォルト』でいるわけですが、報酬額の相談はしても大丈夫ですよね?」


「わかった。

ドロシー。」


いきなり話しかけられて、びっくりしたようにドロシーさんは、はい、と言った。


「ぼくらは、アライアス侯爵に何を要求すべきだろう?」


「アライアス侯爵家は、名門よ。」

ドロシーは、考え込んだ。

「確か、枢機卿にも一族がいるはず。ギウリーク全体への影響力も大きい。

今は『なにか』を要求するべきじゃないと思う。恩を売りつけるだけでいい。人智を超えた存在は、ギムリウスとラウレスにだけにしておくのがいいと思う。」


「確かに。」

ルトくんは笑った。

「でもフィオリナは、絶士グルジエンとやり合う際に名を名乗ってしまってるし、賞味期限の短い嘘になりそうだけど。」


「グルジエンって、あのメイドさん?

強いの?」

「フィオリナと引き分けてる。」


ドロシーは、気分でも悪くなったように、ぐったりと背もたれに身を預けた。


「どうしたの?

気分が悪いのなら、愛しいジウルのいる特別車両にうつるか?」


ドロシーは首を横に振った。


「と、言うわけでギムリウス!」

「はい、ウォルト。」

「しばらくは、報酬の話はしなくていい。そうだな・・・冒険者学校の友人に偶然会って、手伝いをしてもらったんで、彼らの滞在費をもってもらえないか、きいてくれ。」


「大丈夫!」

わたしはあわてて、言った。

「路銀やしばらくミトラでくらせるだけのお金は、持たされたから。」

「それはそれでアキルが持っててくれ。

ぼくらが想像している以上に、いまのミトラは治安が悪い。」


いちばん、ミトラでの暮らしが長いはずのミランを覗き込むと、彼女は頷いた。

「ボクが活動を止めても変わらないくらいには悪い。ホテルは高級なところを。移動は馬車を使ったほうがいい。」

「狙われるのはアキルなんだが。」

「なら、狙ったものは、みんな死ぬ。殺人記録の更新に寄与したくなければ、最初から襲わせないことだ。」


だよねえ。

と、ため息をついて、今度は、わたしに聞いた。


「いままでのところで、なにか気がついたところは?」


「はい!

“ 踊る道化師”について、話しておきたいです。」


と、言うと?

と、促すルトくんの顔を見つめてわたしは、言う。


「ルトくんの考えているような“ 踊る道化師”はもう無理です。」

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