第217話 おまえらは、なにものだ!
これまでのお話し。
聖帝国ギウリークの首都ミトラの街を目指すアキルたち一行は、道中で謎の刺客に命を狙われた。そこに颯爽と現れた黒尽くめの女剣士こそ、銀灰帝国のオルガ姫。無実の罪をきせられて逃亡中の彼女から、村々を苦しめる盗賊の噂を聞いた一行はこれを退治するために、間道を進む。だが、泊まった宿は何か怪しい。案の定寝込みを襲われたのだが・・・
ジウルさんが打ち倒した奴らも、オルガっちが突き倒したやつも完全に悶絶している。
起き上がる気配はない。
だが、それ以外にも健在な賊は5人はいて、今度は油断なく剣や短刀を構えていた。
そのリーダーの前に、さっき夕食の場で一緒になった旅のおじいさんが立ちはだかった!
「じじい! てめえ・・・薬が効かなかったのか!?」
リーダーの男が口走る。
そう。夕食と言って振る舞われた雑炊には、痺れ薬が入っていた。おじいさんたち一向や旅芸人風の二人連れ、それにジウルさんとオルガっちは食べていなかった。食べたわたしとドロシーさんはしっかりやられたけど、ドロシーさんはジウルさんが、わたしはオルガっちがそれぞれ「独特な」方法で解毒してくれたので、無事である。
「最初からあんなものは口にしとらん。減った雑炊の量を確認湿らんのか?
盗賊にしても間抜けすぎじゃろ。」
このじじいがっ!
短刀を構えた男が、踊りかかったが、老人が連れていた供回りの男が立ち塞がる。
刃物を持った手を絡め取って、投げ落とした。もちろん、頭から。
気を失って痙攣する賊の肩が、変んな方向に曲がっていた。
「く、クソっ! おいここはずらかるぞ。」
リーダーの男が振り向いたが、そのまま眉間を打たれて悶絶した。
廊下の反対側には、おじいさんのもう一人の供回りが待ち構えていたのだ。
短めの剣は抜くまでもない。さやのまま叩いただけだ。
残った賊が狼狽えたる。そこに我らがオルガっちが!
「殺しちゃだめだよっ!」
わたしは叫んだ。
「ハイゴカンケイってやつを聞き出さないと!」
闇姫はちょっと笑ったように。
思えた。
くるっと彼女のデスサイズ(ただし刃を収納してある)が回転し、残った三人の足を払う。もんどり打って倒れた三人の体を、オルガっちは丁寧に突き刺していった。
ただし、穂先の鞘は取らずに。
「見事な腕前じゃのお。」
老人は目を細めた。
「そっちの拳法家もいい腕をしておる。」
「ご隠居さま。」
供回りの一人が近くに寄った。おじいさんに怪我がないか確認するつもりなのだろうが、じいちゃんは邪険に払い除けた。
「そうそう、心配せんでもいい。そこまでおいぼれておらんわ。
「適当に縄でも探して、こいつらを縛りあげておきなさい。明日の朝にでも番所に突き出すとしよう。」
「そいつは賛成だな。」
扉が開いて、旅芸人も男が現れた。彼も失神した賊の一人をぶら下げている。
「こっちが寝静まるのを待って仕掛けてくると思ってたのに、奥の部屋のあんときの声がうるさくていつまでも仕掛けてきやがらねえ。
こちとら寝不足ですぜ。なあ、奥の部屋のにいちゃん。」
「俺の拳法に伝わる秘技でな。」
鉄面皮というのはこういうことを言うのだろうか。ジウルさんは顔色ひとつ変えずに言った。
「あれが解毒の作法の一つなのだ。」
「聞いたことがない」
旅芸人の男女、ご老人とその供回り、わたしとオルガっちの声は見事にハモった。
翌朝、わたしたちは、手持ちの携行食料で朝飯を済ませると、お縄にした盗賊どもを歩かせて、番所に向かった。
山の中の村に、ちゃんとした治安機構もあるわけはなく、このようなところでは、村の青年たちが、何人か寄り集まって交代で治安を担当しているらしい。
わたしたちの話を聞いた彼らは、妙な顔をしてそれでも盗賊一味を、一応は牢のような感じの格子の着いた部屋に押し込んだ。
彼らが走らせた通報を聞いて、隣の隣のそのまた隣の村にいた巡回治安官が到着した頃には、時刻は昼を回っていた。
とりあえず、お前たちも動くな。
そう言われて大人しく待っていたわたしたちだが、巡回治安官が回ってきたあたりから、風向きが変な方向に向き始めた。
「おまえたちが、旅籠で暴れたと言う旅の一味か?」
そんな風に突然、言われて目を白黒させるわたしたち。
「逃げずにおとなしく待っていたのは罪を認め、反省する気があったからだろう。
喧嘩両成敗だ。特別に罪は問わぬので、とっととここを立ち去るがいい。」
「何を言っておる。」
ご老人が憤然と、食ってかかった。
「わたしらは食事に一服盛られた挙句に寝込みを襲われたんだぞ?」
「証拠もなしにそんなことを言っても」
治安官は冷たく笑った。
「この者たちは、宿の亭主とその下働きのものたちだ。素性もはっきりしている。
大方、酒にでも酔って、何か勘違いでもしたんだろう。」
供回りがなおも抗議しようとしたが、おじいちゃんは怖い目をして、それを止めた。
「なるほど、勘違いならば仕方ない。この村を立ち去るとしようかの。」
「ものわかりのいいじいさんだな。」
治安感は笑ったが、すぐに顔色を変えた。
「おい、街道に降りるのはこっちだぞ。」
「わしはミトラに行くのに近道なので、この間道を歩いておる。」
「貴様っ!」
治安官は叫んだが、わたしたちも旅芸人もあとを続くのを見ってさらに激昂した。
したからといって、どうなるものでもないのだが。
「き、貴様らは何者だっ!」
「見ての通りの隠居じゃ。店は息子に任せてあちこち見物するのを楽しんでおる。」
「オレたちは武者修行中でな。同じくミトラに向かうつもりだ。」
「見ての通りの旅芸人でございます。ミトラの祭りに合わせて一稼ぎさせていただきたいと道中を急いでおりました。」
「な、名を!」
「ナットウメ商会の隠居で名をグオン」
「神魔永滅拳ジウル・ポルテック」
「旅芸人のリクとギンと申します」
治安官は、それでもこちらを睨んでいたが、あごを、しゃくって、行けという身振りをした。
そのころには、村中から得物を携えた荒くれどもが集まっていたのだが、寝込みを襲われてなお、相手を返り討ちにしたわたしたちに手を出すのは、はばかられたのだろう。
視線を背中に感じながら、わたしたちはその村をあとにした。
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