第203話 勇者アキル!ランゴバルド街道ぶらり徒歩の旅

ランゴバルド街道は、その名の通りランゴバルドを起点とし、国内の主な街々を巡る街道である。

そろそろ秋風が冷たく感じるその街道を、急ぐ影がみっつ。


ひとつは筋骨たくましい拳法家と思しき美丈夫。

苦み走った顔は、若々しくまた荒々しい魅力にあふれていた。名をジウル・ボルテック。我流の拳を極めるために北の地からはるばる西域にやってきた野心あふれる拳術使いである。だが、その野心は立身出世ではなく、ひとえに己の拳を世に知らしめたいという願望から出ている。そしてまた、未だ未完成の自分の拳を完成されること。

それが彼の野望であり、目標だった。


付き従う細い影は、ドロシー・ハート。西域のランゴバルド出身の冒険者の卵だった。

故あって、ジウル・ボルテックに師事し、その一番弟子兼想い人でもある。楚々とした印象ではあるが、よく見れば鍛え上げたしなやかな筋肉につつまれていることがわかるだろう。

拳や足刀に魔法の火や氷の刃を形成して戦う吸血鬼の真祖から直伝をうけた独自の技の使い手でもあった。


三人目はわたし。

黒髪、黒目はこの界隈では珍しい。オリーブがかった肌はきめ細やかだ。まあ、そのくらいしか褒めるとこはないかもしれん。

名を夏ノ目秋流。

異世界よりこの世界に召喚された「勇者」である。

わたしだけは、腰に剣を指していた。とりあえず、素人が振り回しやすいように短めにつくった剣である。

これがけっこう重たい。

ガチャガチャして歩きにくいし。


この世界には“収納”って便利魔法があるのだが、だいたいかなり優秀なひとでトランク二個分。しかもその間魔力も消費するってわけで、大量の荷物の持ち運びは無理。


大抵は宿に着いたら収納解除。

翌朝、収納して出発が、基本だ。


ジウルさんはその数少ない例外らしい。


さっきから街道を行くのはわたしたち、だけ。

前も後ろもヒトカゲなし。

道を間違えてるわけじゃないよね?

・・・・なんで?


「魔道列車があるからです。」

とドロシーが教えてくれた。

こんな清楚で純真そうに見える子が、昨日の宿場町の宿では。


同室だったのだが、押し殺したあの声ってあんな感じなんだ。

勉強になるね。人間って素晴らしい。

あと、声隠せても息遣いや匂いでわかってしまうからね。

神さま、なめんな。


「それにしても人がいなさすぎじゃない?」

「はい、この道は急な坂や細い隧道やらが多すぎて、機械馬の馬車が通れないのです。整備しなおすよりも新しい街道を作ったほうがコストが安いらしく、いずれは廃止される予定です。」


たしかに、一応レンガみたいなものは敷いてあるんだけど、黄色のレンガは風化して色をうしなってる。歩きやすいように敷き詰めるべきなんだろうけど、ところどころは、方向を示すためにほんのいくつかを埋め込んでいるだけみたいなところもあって、草も茂ってて歩きにくいったらない。

しかし、わたしひとりが、異世界人。ふだんから歩いて移動してるひととは耐久力が違うのじゃあ。疲れた!もう。


「あ、それはオレも同感。オレが転移術をマスターしたのはそのためだからね。」

「わたしもランゴバルド育ちですから。それにまさかミトラにいくのに旧街道をあるかされることになるとは、思ってません。」


二人の拳法家の冷たい視線がつきささる。

そんな視線になれていない、わたしは下を向く。


いやもっと神を愛そうよ。


もともと、見物を兼ねて、歩きでミトラを目指そうって言ったのはジウルさんだった。

彼にしてみれば、観光を兼ねて、途中の街々で名を売るつもりだったのだろうが、旅籠が一軒だけの田舎町に、新しい拳術なんか興味がある人もいないし、必殺なんとか拳の出番があるわけもない。


初日の一戦は、ドロシーと床の中で行ったわけだけだ。あはははは。

気の利いたジョークのつもりだったんだけど、きっとヴァルゴールなら笑ってくれたと思うんだ。

寂しいね、二人が一人になってしまうと。


・・・ところで、毎晩、続かないよね、これ。


夏草の刈り込みもしていない街道は、坂道に入った。岩が階段になっているのだが、というか階段っぽい岩があるだけでところどこに黄色い塗料が塗られてて、進んでる方向が正しいのだと教えてくれる。

そろそろお昼の休憩を提案しようと思ってるときに、ジウルが立ち止まった。


「どうしたの?」


ドロシーの態度は、断言しておく!

絶対に弟子が師匠にするものではない。


「待ち伏せされている。」


「近いの?」


「この先、だな。人数は10人ばかり。」


「どうする?」


「無駄な戦いはしたくはないが・・・」


うそだ。

絶対、うそだ。


「アキルもいることだし、安全第一で戦おう。や・・・」

ジウルはニマリと笑った。

「向こうから気がついてくれたぞ。いい動きだ。熟練者だな。」


「な、なんの熟練・・・」


「殺しの、だな。」


わたしに下がっていろ、といい、ドロシーには魔法の準備をさせた。

本人は、特に用意もない。

誰何よりも先に飛んできた弓はジウルが叩きおとす。

「ほう、この間に後ろにも回ったか・・・」

取り囲まれたってこと!だよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る