第183話 判決の時


迷宮ランゴバルド。

西域有数の大都市ランゴバルドを模して作られた大迷宮。


その中心部。

裁きの広場で、全てを超越した神獣は、困惑していた。


「醜い?・・・・」


言われた当人の顔は、よく見ればせ性別の違いことあれ、そう言ったゴウグレの顔に酷似している。


「そうです!2本しかない手足。柔らかく傷つきやすい皮膚・・・・」


「待て待て。お前の言葉は聴き取りにくい。せっかく人間の口と声帯があるのだから、人間の言葉で喋れ。」


「仰せのままに。」


ゴウグレは不満そうであったが、会話を普通の声によるものに切り替えた。


「なぜ、ボク一人がこのような醜い姿で作られたのでしょうか。我が創造主、神獣ギムリウスさま。」


神獣ギムリウスさまって?と、会話についていけないマシューが、ドロシーにささやいた。

「ギムリウスの一族は、大昔の神獣、ギムリウスを神として崇めてるの。ギムリウスはそこの巫女様なの。」

なるほど。となにもわからずにマシューは納得した。見事だ、ドロシー。


「確かに、戦闘向きではない。」

とギムリウスは言った。

「だが、おまえは知性に特化した個体として創造した。目先の暴力よりも遥かに、意義のある知性を持った個体だ。

だから、それがひと目で、他のものにもわかるように、独特な外見を持つように作った。


それを醜いと思うかの判断は実は、おまえ自身には、ない。」


ギムリウスは両手を胸に当てた。


「わたしにしてもこの体が、醜いのはどうかは自分では判断できない。

ただ、妙に優しくする人間が増えるので、カワイイのだろうと想像するだけだ。例えば、そこのドロシーにひっついている男などがそうなのだが。」


名前も覚えてもらっていなかったマシューは、真っ青になったが、ドロシーは冷ややかな笑みを浮かべただけだった。


「優しい、というのは触れたり、撫でたりする行動も含まれる。その時には、棘やツノ、毒液の分泌などはない方がいいだろう。

わたしの体はそのように造られている。

もしわたしが、紫ユニークと同様の皮膚を持っていたとしたら、そこの、そうだマシューなどは、手や唇に大火傷を負っていたはずだ。」


マシュー。


案外、被告はこっちじゃないのか。と、ブルブル震えるマシューを見ながらぼくはそう思った。


「例えば、ここには人間も含めた複数の知的生命体が存在している。

皆に協力を願おう。


今のゴウグレの姿を可愛らしいと思うものは、歯軋りをしながら地面を掘り返してほしい。」

「・・・こういう時は手を上げてほしい、くらいでいいんだ、ギムリウス!」

ロウがく耳打ちする。

「それは何か言いたいことがある時のジェスチャーでは?

・・・・

手を上げてほしい。

ゴウグレをかわいいと思うか?」


手を挙げたのは約半数。

意外と少ないので、ギムリウスがキョドっている。


ぼくは、まあ、可愛く作ってるんだからカワイイんでいいんじゃないか?

マシューも手を上げている。そっちもオッケイか、きさま。

リウとフィオリナとアキルもカワイイ派。

リアモンドはダメ。というより、彼女の美意識は、竜のそれなので、人間型の生き物は、細かい外見での区別なんかしないらしい。

ロウもダメ。外見以前に、体内に赤い血が流れていないのが、わかってしまうとどうにもカワイイ対象にはならないらしい。

ギムリウスの眷属ヤホウもダメを出していた。おまえまさか昔、ゴウグレいじめてたとかじゃないよな。

ドロシーはダメだった。庇護の対象になるような子供には興味がないらしい。


「・・・という風に、この程度の集団でもそれぞれ意見が異なる。」

ギムリウスは無理矢理まとめた。

「ヤホウなどは、我々の中では、なかなかおしゃれな部類に入るが、人間の中では嫌悪感しか引き起こさない。」


え・・・そうなのですか!?

落ち込むヤホウ。

・・・ひょっとして、そこがわかってなくて、冒険者学校に転入するつもりだったのか?


「ボクはこれからどうすれば・・・」


「眷属どもも含めて、ルトくんに預けます。」

ギムリウスはとんでもないことを言い出した。

「これからのことは、よく相談してください。」


「仰せのままに。」

ヒュンデが深々と一礼をしてしまったので、そういうことになってしまった

なぜ。


「これにて一件落着!」

ギムリウスが、変なポーズをしようとしたそのとき!


「ちょっと待ってくれ!」

変な横槍が入った。


見れば、モノクルの男が、なんだか喚いている。

あ、こいつも使徒だったのか。


「わたしはどうすれば・・・・」


「とりあえず、眷属を続けるんなら、続ければいいと思うよ。」

そう言ったのは、アキルだった。

「でも『血の祭典』への参加は禁止ね。」


「仰せのままに。」

なんだかよくわからない、と言ったふうに12使徒の一人、アレクハイドはつぶやいた。




“ルト!!!”

ネイア先生の念話だった。

ほぼ、冒険者学校から出られない彼女のこと。迷宮「冒険者学校」から迷宮「ランゴバルド」への念話は、流石にテイマーとその使い魔。


“どこにいるの! 急いで、ルールス先生の教官室に来て!”

“今、『裁きの広場』にいる。”

ぼくは答えた。


ネイア先生の口調(あくまで念話でだが)が、微妙に変わっているのにぼくは気がついた。


“大至急で、戻るよ。”


“急いで! くれぐれもあなた一人で、ね。”


おやおや。

なにが起こったかわからないが、一人では来るな、の意味か。

周りの仲間を見回す。

誰でもトラブル大好きか、または自分自身がトラブルの元凶になるやつばかりだった。

少なくともフィオリナは連れて行かない方が、いいな。


と思ったが、フィオリナは涼しい顔でぼくのマントの端を掴んでいた。

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