第178話 竜虎相討つ!勝利の女神はどちらに微笑む!

ゴウグレは歓喜している。

彼、あるいはそれは、人か死ぬのが大好きだった。それ自体が歪んでいる、と言えなくもないが、すくなくとも同じ趣味趣向をもつ人間よりは、はるかにマシだろう。

ゴウグレは人間ではないのだから。


ゴウグレが、中でも好きなのは強者同士の戦いだった。弱者が一方的に殺されるのは見たくない。

実力の伯仲した強者が命がけで戦うのはそれより、はるかに面白かった。


ヒュラルドと、ビュンデ。

ふたりのメイド姿のユニーク個体がゴウグレの背後に、いつの間にか姿を現していた。


ギムニウスにバラバラにされたのを無理やり復元したのか、顔を始め、足や手の、メイド服から見える部分にも無理やり治したようなテープや金具で継いだ跡がみえた。


「どちらが勝つのでしょうか?」

ヒュラルドが呟いた。

「どちらが勝つにしても無傷の勝利はありえん。」

ヒュラルドは頭を下げた。


「創造主さまは本当に、勝ったものに女をお渡しになるのですか?」

ビュンデが尋ねた。

ゴウグレは、鍋でも煮えた時のような笑い声をあげた。

「渡す。おまえの蜘蛛が入った状態でな。」

「恐れ入ります。

ならば2人が交わったときに、相手となった男にも蜘蛛をプレゼント致しましょう。

自らの意思でヴァルゴールの、いえ、創造主さまの下僕となるのです。つがいで。」

「それは面白い実験となるかもしれぬ。」

ゴウグレは満足気に、ふたりのメイドにもたれかかった。


眼下では、ふたりの強者が戦いを始めていた。


ボルテック、いや若返った彼は少なくとも戦い方においては、かつて、ルトが知っていた老魔導師とは、別人だ。

そんな事を考えながらも、ルトの体は目まぐるしく動いている。

魔力を筋力の強化や防御力の教科ばかりではなく、打撃に威力として「乗せる」。

言われてみれば十分考えられる戦術だったが、実践したのはジウル。ボルテックが最初だ。


いや。

正確には、かの闇森の魔女ザザリかもしれない。

若き日のボルテックを拳で叩き伏せたときに、そんなことを言って彼を指導したときいたことがある。


「はあっ!」

ジウルの「気」が膨れ上がった。

「神気黄金拳!!」

恥ずかしいから技の名前を叫ぶなっ!とルトは心の中で叫んだ。

かわしたはずの拳に吹き飛ばされた。力場を打撃に纏わせるのは、ありな手だがなんで金色に着色するんだろうか。


「むうっ・・・あの技は・・・」

「ご存知なのですか? 創造主さま。」

「両の手に爆縮した魔力を纏わせて、打撃の威力を倍加させておる!」


だれでも分かるわ!

と、メイドたちは思わなかった。そこまでの知性をもたせていなかったし、ゴウグレも彼女たちにそこまでの知性も求めてはいない。

だいたいにおいて、命を想像するときに創造主よりすぐれた存在など、なかなか作れるものではないのだ。


ルトがかわしたその背後の岩が砕け散る。

単なる打撃ではありえない。

「豪烈爆砕拳!」


そのまま飛び上がったジウル・ボルテックは水鳥のごとく、両の手をひろげ鋭い蹴りを繰り出した。


「水鳥四連脚!」


「創造主様」

ギムリウスに壊された顔がパッチワークになっているビュンデがたずねた。

「なぜ、あの者はいちいち技の名を叫ぶのでしょう?」

「・・・・」

「いまの技なんかだと、四連脚と言ってしまうといまから、四回続けて蹴り技をだすよ、と相手の少年にわかってしまう、と思うのですが。」


作られたユニークが、創造主をこえた感激の一瞬であった。


言葉に詰まったゴウグレの眼の前で、ルトの青い光の尾をひく拳と、ジウルの黄金の光を放つ拳が交錯する。

「奥義!神殺黄金撃!」

「絶技!天馬彗星拳!」


同時に互いの顔面をとらえた拳に両者がふきとび、地に倒れた。


「相打ち・・・か!」


いや・・・ややあって、そのうち一人が身体を起こした。



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