第158話 夏ノ目秋流と邪神の祭典

なんだが、空間がぐずぐずと泡だったと、思ったら、消えたときと同じように、ルトくんたちは、突然現れた。

ギムリウスは、制服のズボンを脱いで、下半身は白い下着一枚。ただし、人間のそれとは違う脚が、六本。腰の辺りから生えていて、それに一人ずつ、人間を捕まえている。


行ったときは、ルトくん、ロウさん、フィオリナさんの三人だけだったのが、同じクラスのなんとか君とあと、初めてみるおっさん冒険者が一緒だった。


「やっぱり迷宮をまたいだ転移は、ギムリウスの方がうまいな。」


脚から解放されたロウさんが、ちょっと悔しそうに言った。

ギムリウスは、褒められてうれしそうに笑った。


割と人間的な笑い方でわたしはちょっと見直した。普通に可愛い。


「しかし、よく気がついたな。ほとんど、街の端と端だぞ。」

アモンさんが言った。


さきほど、エミリアさんとフィオリナさんの戦いの最中。


“ヴァルゴールの使徒の臭いがします。”

と言って、突然、ギムリウスちゃんが、ズボンを脱ぎ出した。下着は可愛い白だった。

何が起こるのかと思ったら、いきなり、ばさり、脚を持ち上げたのだ。「足」に沿って折り畳んでいた、まるでパニエの骨組みのように見える脚を。

そのままルトとフィオリナさんを小脇に抱えて、転移しようとした所に、ロウさんが「わたしも連れてけ」と割り込んで、一緒に体育館から姿を消したのだ。


で、しばらくして戻ってきた時には、人数が増えていた。


「ここは?」


呆然とした顔で、おっさんがつぶやいた。


「ランゴバルド冒険者学校の体育館。」

とフィオリナが答えた。


「ま、まさか、転移か? 姫!そんなことまで出来るようになったのか?」

「そんなことができるようになったのはイエスだけど、今回の転移はわたしじゃなくて、この子」


フィオリナは、小柄なギムリウスの頭を撫でた。


「この子はたぶん、最高の転移魔法の使い手よ。」


「グランダじゃそうかもしれないが、ここはランゴバルドだぜ、姫。」

おっさんは反論した。

「転移魔法の使い手は一人や二人じゃないんだ。」


「誰が、一人二人と数える相手を対象にしてるんだか。亜人も古竜も神獣も、いや神も含めて、最高の転移魔法の使い手だって言ってるの!」

「訳がわからん。」

おっさんはぶつくさと言った。

「伝説の神獣ギムリウスだとでも言いたいのか?」


特に誰も答えなかった。


ギムリウスも不毛な会話を続けるよりも、さきのアモンの質問に答えることにしたみたいだった。


「ヴァルゴールの使徒はすごく臭うのです。考えてみれば」

ギムリウスは首を傾げる。

「ヴァルゴールそのものよりも臭いです。

わたしには我慢ができないくらい。

中でも12使徒、と呼ばれる側近たちは最悪です。街の端と箸でも分かるくらい。」


「たぶん臭いそのものじゃなくて、なんらかの波動を『 匂い』として、感知してるんだろうな。」

ルトくんが、いった。


「そ、そうだ。

ヴァルゴールの使徒だ。この街で『 血のの祭典 』をやらかすつもりなんだ。

はやく、本部に連絡しないと!

詰所も放り出して来てしまった。」

おっさんは叫んだ。


「そのらへんは抜かりなく。」

ルトくんが天井をむいて

「ネイア先生っ!」

と、呼んだ。


返事のかわりに、どこから忍び込んだのか一陣の霧が舞い込んだ。


「東の大路の警備詰め所に、ヴァルゴール12使徒ゴウグレが現れた。

ランゴバルドの支配権をめぐって、血の祭典を起こすと予告して姿を消した。

たまたま通りがかったぼくとフィオリナが、倒れた二人をつれて、冒険者学校に戻った。


ルールス先生のルートで、ランゴバルドの上層部に伝えてもらってください。」


「あの・・・東大路の詰め所は、街の反対側ですが・・・・」


「そこは頑張ってごまかしてください。」


霧はすすりなくような声をのこして姿を消した。


「リウ、アモン。紹介しておく。

グランダの冒険者ギルド『不死鳥の冠』の元ギルドマスターのフィリオペだ。

わたしとルトが、こどものころに世話になった。」


「リウ、アモン・・・?」


「ああ、わたしたちはパーティを組んだんだ。名前は『踊る道化師』。こっちのルト・・・ハルトと、リウとアモン、一緒に転移してきたのが、ロウにギムリウスだ。」


「なるほど・・・ルトってのがハルト殿下の偽名ってわかですな。それにリウ殿、アモン殿、ロウ殿・・・」


いずれも見かけは、おっさん・・・元ギルマスの冒険者フィリオペさんよりはるかに若い。

でも、なにかフィリオペさんは、感じるところがあったのだろう、丁寧にひとりずつ挨拶した。


「それに・・・転移魔術を使った女の子が、ギムリウス・・・・ギムリウス!?」


「フィリオペさん!

息は浅くして! ゆっくり、ゆっくり・・・大丈夫だから・・・」


真っ青になったフィリオペさんはなんとか失神を免れた。


「こ、この子もあなたのパーティですか?」


「まあ、立候補はしているね。異世界から来た『勇者』のアキル。」


「相変わらずのなんでもありだなっ!」


「ちなみに召喚したのは、かの邪神ヴァルゴールだそうだ。」


フィリオペさんは、天井をあおいだ。もうどうにでもしてくれ!


エミリアさんは、またむっとしていた。誰も自分のことを紹介してくれない!


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