第149話 ルールス分校最期の日!?

ランゴバルドは、悪いがグランダのような田舎街ではない。

竜のまま、接近しようものなら、停滞フィールドに捉えられて、槍衾だ。


丘ひとつ離れたところで、ラウレスは人化し、今日の仕込みがあるからと一目散に走っていった。


「こんど食べに行くからなっ」

と後ろ姿に叫ぶと

「予約をとってください!」

と叫び返してきた。ラウレスのくせに生意気な。


ぼくらは、そこまで急ぐこともないので、だらだらと歩き、途中から馬車を捕まえて、冒険者学校にたどり着いた。

つくやいなや、屈強な冒険者の一団に囲まれて、ぼくらは学長室に拉致された。


「おや、おかえりなさい。ルールスくん。」


ジャンガ新学長は、一言でいえば品のない男だった。

威厳をつけようともったいぶった仕草、髭、にやにや笑い。

すべてが失敗していた。


「ただいま、ジャンガ。これはなんの騒ぎかな?

われわれは、たった今、ランゴバルドに帰還したばかりでたいそう疲れているのだが。」


「うむ。休憩についてはゆっくりとるといい。ただし、冒険者学校の外、でだな。」


ルールス先生は目を細めた。


「どういう意味かな?」


「負けたそうじゃないか、ルールス!

たかだかちょっと歴史がある程度の、田舎の魔法学校に!

情報はもう入っている!

2勝3敗1分け、か。

全勝しても当たり前の相手に!」


ジャンガは悲しげに首を振った。


「これでは、いくら優しいわたしでもきみを庇いきれないよ。

ルールス分校は本日をもって廃校とする。」


「それは困りますね。」

と、ぼくは言った。

「ぼくたちは冒険者の資格がほしくてこの学校にはいったのです。成績以外の部分で途中退学させられるのは困ります。」


「そちらの都合は知らんな。」

ジャンガは、葉巻を吸おうとしてなんどかむせこんだ。結局うまく火をつけられずにいまいましげに、葉巻をもみ消す。

やることなすこと、ダメな男だった。

「そっちのロウ・・・だっけ? 『真祖』の吸血鬼だというならば、別個に雇ってやってもよい。ただし従魔としてだがな。」


ぼくは、まわりの冒険者たちの顔色を伺った。

明らかにこれが、最終的に暴力沙汰になってもいいように集められたのだろう。おそらくは銀級。一流の冒険者に間違いはない。

その彼らの顔色が変わっている。

何人かが指文字で互いにサインを送り合っている。


“馬鹿言え! 真祖の吸血鬼がいるなんて聞いてねえぞ”

“腕のたつのはネイアひとりだっていうから来てみたら、話が違う。”


「負け越したのは事実ではあるが、面白いものを連れてきている。」

ルールスは、アキルの背後にまわるとその肩をぽんと叩いた。

「異世界人。邪神ヴァルゴールに召喚された『勇者』アキルだ。

ルールス分校がなくなると、こやつの行き場もなくなるが。」


ジャンガの顔色がかわった。

『勇者』ブランドは、いまは聖光教会が独占している。実際に確認された最期の勇者が、千年前に召喚された勇者クロノ以来、いないからだ。

もし、この異世界人の女がそれならば。


利用価値は計り知れないものがある。

そんな風に考えたのだろう。ジャンガ殿はまわらぬ頭を懸命に働かせた。


「・・・ならばこうしよう。そのアキルとやらはこちらでいったん預かる。

本当の勇者かどうか、確かめる必要があるのでな。

その間、処分は保留としよう。ルールスくん、ネイアくん、その他ルールス分校の生徒は当面、謹慎とさせてもらう。」


「その間? その間にアキルを洗脳でもするか?」

ロウが笑った。

ジャンガは真っ赤になった。図星だったのだろう。

「き、吸血鬼風情が無礼な!」

指輪をいっぱいにはめた指がデスクを叩いた。デスクは傷つくし、指も痛かろう・・・ほんとにこいつは何をやっても・・・・


ジャンガとしては、このタイミングで集めた冒険者たちが、ぼくらを制圧してくれると思っていたのだろう。

だが、もちろん誰も動かない。

真祖吸血鬼が怖いからね。そしてそれは正解だ。


冒険者たちは誰も動かない。ジャンガもひくにひけない。

一応、「本当の勇者かどうか調べるための時間がほしい」との申し出なので、こちらから暴力に訴えるのもアレだ。


誰も身動きできないなか、さっそうと躍り出たのは!


「なんだ、きさまはっ・・・


いや、魔道院からの手紙できいているぞ、絶対無敵、絶対不敗の超絶美少女仮面ブラッディローズ!!

なぜおまえがここに!」


「そりゃあ、その」ルールスが咳払いした。「交換留学生だ。まかり間違って分校が廃校になったりすると彼女の行き場もなくなってそれはそれはまずいことに」


「知ったことか!」

ジャンガは叫んだ。

「頭のおかしな女の戯言、つきあっていられるか。こいつもまとめて退学でいいだろう。」


「それは実に困る。」

笑みを浮かべて残念仮面。


「だから知った事か! ならばどうする? ランゴバルドの一流冒険者を相手に力づくで押し通ってみるか!?」


「いや、ここから先はわたしも知ったことではなくなる。」

フィオリナは仮面をはずした。

その美貌に、ジャンガ以下居並ぶ冒険者たちも一瞬呆けたように押し黙った。

「わたしはこのまま、ここを退散するが、後日外交ルートを通じて、クローディア大公国から正式に抗議の申し出があるだろう。

そうなってしまえば、もうわたしの意思でもどうすることもできない。国と国との話あいだからな。」


「お、おま、おまえ・・・」


「お前呼ばわりするのはちょっとどうかと思うなあ。」

ぼくは、ジャンガがあんまり後戻りできないことを言い出す前に口をはさんだ。

「この方は、本名がフィオリナ・クローディアといって、クローディア大公国の嫡子です。

フィオリナ殿下、または姫とお呼びしておいたほうが、無難ですよ。

まだ、冒険者学校の生徒と認めていないのならば特に。」


ああ、とぼくは手を打った。


「本物かどうか確かめるために、どこかに閉じ込めますか?

やってもいいですが、それだともう戦争案件ですけどね。」


ジャンガは助けを求めるように、かき集めた冒険者たちを見回した。

全員が首を横にふる。


「あのなあ、学長殿。おれたちは、ルールス前学長が話し合いに応じずに暴力に訴えてきたときにあんたを守るために雇われたんだ。

真祖吸血鬼がいるなんて聞いてないし、まして、フィオリナ姫・・・“一人スタンピード”の2つ名で恐れられているグランダ屈指の冒険者だ。」


「どうもいくつか誤解があるようだな、ジャンガ学長。」

フィオリナは「怖い」笑みをうかべて、ジャンガの手を無理やり握った。

「今回の対抗戦に出させてもらうのに『クローディア大公国姫フィオリナ』ではいろいろ差し障りがあって、このような道化を演じてみたのだが、まわりからもいろいろ誤解をうけてだな。」


嘘つけ!

気に入ってやってただろ!


「きみも誤解をしていたと思うが、わたしは正真正銘のフィオリナ・クローディアだ。

数ヶ月の短い期間にはなると思うが、ルールス分校への留学の件、よろしくお願いする。」


は、は、は・・・


こんなうつろな笑いはみたことがなかった。

後ろから糸で操られているように、ジャンガはこくこくと頷いた。


「もちろんでございますとも。フィオリナ姫、当校へのご来訪、ならびにご留学をこころより、歓迎申し上げます。」

「わたしがともに学ぶことになってルールス分校は?」

「もちろん、そのまま継続させていただきます。」

「誠にけっこう。」


フィオリナは手を離して、ぼくにむかって笑いかけた、

ナイス! フィオリナ。


「あ、それからもうひとつ!」

フィオリナがジャンガを向き直ると、ひえっという悲鳴が聞こえた。

「対抗戦については残念な結果だったと思うが、彼らを責めないでほしい。

ただ、単に相手が悪かっただけだ。」


「あ、あいて・・・」


「忘れたのかい? グランダ魔道院の新学院長は、賢者ウィルニアなんだ。」



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