第130話 しょせん奴らなど、我ら魔道院選抜チームの中では、ほんの小物にすぎん
「テンプレのセリフを吐いてないで、一人くらいまともな生徒を出せ。」
ぼくは、ウィルニアに詰め寄った。
「ボルテックは設定は、流浪の拳法家で、リアは正真正銘の王立学院の生徒、ラスティは素性の知れない竜人、アウデリアさんとメア陛下は臨時講師。
まともな生徒がひとりもいないじゃないですか。」
「小物ばっかりで面白いやつがいなかった。でも一応、フィオリナはちゃんと、在籍登録はしたんだよ。
あんなコスプレで出たがるとは思わなくってさ。」
と、ウィルニアはしぶしぶ認めた。
「いいなあ、ランゴバルド冒険者学校は。
リウにリアモンドにギムリウスを温存してこれだけのメンバーを組めるんだからさあ。」
ウィルニアは、ヘラヘラとつかみどころもなく笑って、ぼくに顔を近づけた。
「ちょっと思いついたことがあるんだけど?」
「ちょっと奇遇かも。」
ぼくもヘラヘラ笑いで返した。
「ぼくもひとつ提案したいことがあって。」
「そりゃ、面白い。」
ウィルニアはペンを手渡した。
「手のひらに書いて同時に見せ合おう。」
ウィルニアの手のひらには「交換留学」。
ぼくの手のひらにも同じ文字があった。
そうして、ぼくらはまた笑い合った。
「ラウレスはどうしてる?」
ついでに思い出した、とでも言う様にウィルニアが言った。
「帰り道に、嵐竜に襲われたらしい。さすがに疲労困憊だ。悪いことをしたと思っている。
ほんとに、不戦敗でも良かったんだけど。」
「ずいぶんと優しいんだな。」
当たり前だ。
こちとら、親友を人質に、村までの往復を強要するような悪王ではない。
ラウレスはどう思ったか知らないが。
「しかし、古竜が嵐竜に襲われて負傷…。」
ウィルニアは首を傾げた。
まあ、そうだ。お使いの途中で子猫に引っ掻かれて、負傷した、というのに等しい。
「道中を急いだあまりに、トドメをささずにその場をたちさろうとして、後ろからブレスを浴びたそうだ。」
「そりゃまあ、なんというか。」ウィルニアは言葉を選んだ。「ラウレスらしい。」
「周りの反応はどうだったかな?」
「いいぞ。
魔法の調理に対する実践的応用事例として、ある種の理想的な雛形になるだろう。
ラウレスくん自身への来国の要請はすでに二十カ国を越えている。
講演や指導もあるが」
「単純に料理を作りに来てくれ、ってことだろ?」
「それはそうだ。史上初の古竜の料理人、いや人ではないか。しかも美味しいときている。依頼も殺到するさ。」
正直なところ、いいのだろうか。
古竜の都から正式に抗議が来そうな気がする。
これで、そちらの二勝一敗だな。
と、ウィルニアは嬉しそうに言った。
「次が実質的な決勝戦だ。次を落とせば、ランゴバルド冒険者学校の負けが確定する。」
つまり、王太后メア陛下こと魔女ザザリとアウデリアの星はもう揺るぎないものとして計算されているのだ。
「第四試合は、とある街を模した一角で、なんでもアリで戦ってもらう。」
と、ウィルニアは確認する様に言った。
「場所の設定は凝らしてもらったが、勝敗の条件は考えてもいいぞ。また料理対決にするかい?」
残念。それでも今回は勝てない。
ヨウィスは実際、料理の達人なのだ。
しかも文句のつけようもない、魔道院のちゃんとした学生である。
「あの街はいいな。」
ぼくは、魔王宮第二層に作られたその街を思い出していった。
港町だった。
濃い霧に包まれたていた。
男と女と、真紅の調べがそこにあった。
「どこの街なんだ?
確か、見たところ冒険者ギルドがない。現在のよう冒険者組織ができるまえの。上古の町。」
「勘がいいな。」
ウィルニアは褒めてくれた。
「くわしいことは、ロウ=リンドに聞け。
千三百前の港町だ。わたしは当時、学生で。
ロウは、というより、リンドは『紅玉の瞳』という組織で殺し屋をしていた。」
実際にあった市街地を模した街での戦い。
街の下調べは欠かせないだろう。
ぼくはウィルニアのもとを立ち去りながら考えた。
その場所に対する賢者の思い入れ、果たして凶とでるか、吉とでるか。
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