第110話 対抗戦開始!!

わたし、邪神ヴァルゴールの勇者アキルこと、夏ノ目秋流は。

ロウ=リンドさまの背中で、すっかり落ち着いている。


とにかく、おんぶされ心地が抜群なのだ。たぶんだけど吸血鬼なんで力が強いのだろう。わたしひとりおぶったくらいではびくともしないのだ。

へんに揺れたり、わたしを落としそうになって不安にさせることもない。


それに髪がいい匂い。


難をいえば、風がけっこう冷たいのに体温の温かみがぜんぜん伝わってこないのだ。これもたぶんロウさんが吸血鬼だからなんだろう。


そのロウさんが、ふと足を止めた。


次の瞬間。


爆発音。

映画か何かでしか聞いたことのない音だったが、お腹にひびく音だった。一瞬だったが閃光もみえた・・・いままで私達のいた丘のあたりだった。


ロウさんはくるっとわたしを背中から前に抱えると。


「飛ぶ。危険はあるかもしれないが、下手に離れ離れにならないほうがいい。」


そのまま、空中に飛び出した。わあお。飛んでる。飛んでるよ。


さっきまで黒竜ラウレスさんに乗せてもらっていたのだが、あれはみんなと一緒だったので旅客機感覚に近い。

途中で、ロウさんがお茶までふるまってくれたので余計にそんな感じだった。


これはホントに「飛んでる」感じ。


「偉大なるご真祖さま!」


チラリととなりを見ると、同じようにルールス先生を抱えたネイア先生だ。

背中にコウモリのような翼がはえていた。ロウさんも一緒なのかな? とも思ったが、さすがに怖くてロウさんの首にしがみついてしまった。うわーい、なんか得した気分だ。


「光の剣、でしょうか?」


並行して飛びながらネイア先生が言う。


「ああ、フィオ・・・いや美少女仮面ブラッディローズだ。」


「まさか! 魔道院がもう仕掛けてきたというのですか! まだ試合開始まで3日もあるのに!」


ぐん、と加速してネイア先生たちをぬいてから、ロウさまは口のなかでぶつぶつとつぶやいていた。

よく聞き取れなかったけど、だいたい次のように聞こえた。



・・・あいつらふたりきりにするとすぐにいちゃつきはじめるからな・・・

もし、ラウレスの到着を気にして、フィオリナが駆けつけてきたりしてて、あいつらがいちゃついてるところをみたら・・・


くっくっく・・・おもしろいじゃないかあ


そうか。

とわたしはなんだか、納得した。異世界だから貞操観念自体が違うんだな。

ならわたしも。


にゃん、と言いながら、ロウさんの頬をなめると、ロウさんはちょっとびっくりしたように、でもいやそうじゃなく笑った。


「あとで、遊んでやるからね。いまはいい子にしてるんだぞ。」


「にゃん!」




エミリアさんもラウレスさんに背負われて、現場にほぼ同時に到着した。


わたしたち7人が目にした光景は・・・・・。


なんか派手なレオタードにマント羽織った女の人が、ルトとドロシーに土下座している光景だった。


なにが。


どうなっているの?




「いいってば、もう!」


「いや、ダメだと思う。

なんていうか、情に絆されるっていうか。ミュラは学校時代からいい先輩で、『不死鳥の冠』にもすごく貢献してくれてて、それで今回、財務卿からグランドマスター就任の打診がきてるのに、『不死鳥の冠』のギルマスを辞めるわけにはいかないって断り続けてて、そんなあの子をおいてわたしは、ルトを追っかけようとしてて、もうなんか申し訳なくって。」


女のひとは顔をあげた。目の辺りに変なマスクをつけていた。

このひとが、ロウさんの言ってた対抗戦の相手方メンバーの「美少女仮面ブラッディローズ」だったらあれだ。



残念なひとだ。



「酔った勢いで一回だけ、と思ったんだけど、よく考えたら女の子同士だから、別に一回とか二回とか区切りがあるわけじゃないから、そのままずるずると朝が来るまで愛し合い。」


ルトくんの顔がひきつっている。

変な女のひとに夜の草原でエロ話をきかされるって、怖い体験だと思う。


「毎晩ってわけじゃないんだけど、それからは、なんか寂しいなあって思う日は、ワインを一本もってお互いの部屋を尋ねるの。

それがサイン。」


「ここ一週間で飲んだワインは?」


「・・・・ななほん。」


「お父上はこのことは?」


「『おまえとハルト殿下とミュラの問題だ。』って言われたから気がついてると思う。」


「母上は?」


「大笑いしてた。」


「まあ・・・なんていうか。」


「うむ、これはわが校の負け、だな。さすがはルト。さすがはランゴバルド冒険者学校!」


さすが、っていうのかなんだか、よくわからない。さすがは異世界。


・・・・え? このひと誰だっけ。


ふわっ

と世界が明るくなった。


丘の麓に居るのは。


ルトくん。ドロシーさん。謎の残念仮面女。

わたしと、ロウさん。ルールス先生とネイア先生。ラウレスくんとエミリアさん。

そして。


いつから、このひとは一緒にいたのだろう。

わたしは。さっきから爆発音で駆けつけたわたしたちは「7人」だと自覚していた。それでもこの人がいるのはわからなかった。


顔立ちは整っている。いわゆる理知的な二枚目、っていうやつだ。身につけてるのは昔の学者が身につけたようなトーガ。

だが、ぜんぜん年がわからない。しわ一つない顔は年寄りのはずはないのだが、かといって若くも見えない。


でもそれでいて、ロウさんやネイアさんに感じるような「非」人間的なものはまったく感じられないのだ。

人間が人間のまま、千年の叡智を蓄えたらどうなるのだろう。それが形になったような。


「ウィル! ウィルニアじゃないか、どうしてここにいる?」

ロウが叫んだ。


ウィルニア。ラウレスさんとの飛行中に聞かされた今回の対抗戦を企画した「魔道院」の学院長。


なんでも「賢者」の異名をとる大魔導師らしい。

ああ・・・・このひとが。


「ウィルニア、だと。」


ルールス先生がネイア先生の手から逃れようとばたばたと暴れた。

それはそれで大変かわいらしい。


「おお、これはローゼバックの末裔かな?

わたしの『真実の目』を大事に使ってくれてありがとう。いや例にはおよばないよ。きちんとメンテナンスをしてくれて有効に活用してくれてれば、開発者として言うことはない。」


「ま、さ、か・・・本当に賢者ウィルニアなのか?」

「だからそう言っている。ローゼバック一族が『真実の目』を自分たちが創り出したことにしたのはそういうわけで別段恨んでもいないよ。ちゃんと報酬はもらったし。」


賢者ウィルニアは、ルトに気軽にハイタッチした。


「相変わらず、見事だ。これで、ランゴバルド冒険者学校の先勝というわけだ。先が思いやられるね、まったく。」


「え? これで対抗戦なの?」


「まあ、ルールやらいろいろと趣向をこらそうと思っているのだけれども。」

ウィルニアはため息をついて、呆然と正座をしている残念仮面を見やった。

「本人が土下座して負けを認めてる以上、ルトの勝ちはゆるぎようもないだろう。


グランダ魔道院対ランゴバルド冒険者学校、第一戦種目『浮気我慢対決』は、ルトくんの勝利です!」




・・・・


いや、バラエティのドッキリ対決かよっ!

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