第96話 メンバー選抜

「美少女仮面ブラディローズだあぁああ?」


気持ちはわかる。わかるぞ、ロウ=リンド。だが、なぜぼくの襟首を掴む。


「よりにもよってわたしに勝ったことのある剣士が、なんで、そんな・・・」


ロウは泣いている。吸血鬼が悔し泣きをすることがあるのか、という問題については、諸説あるのだが、別に血の涙なんか流さずに普通に悔し泣きはします。

ほれ、このように。


「いや、あくまでも今回の対抗戦に出てくるのは、クローディア大公国姫フィオリナではなくて、美少女仮面ブラディローズだから。」


「それがバカにしてるといぅぅう!!」


「落ち着け!ロウ」


リウが言った。


「落ち着いていられるもんかっ!」

「そうだよなあ、美少女仮面ブラディローズに負けたんだもんなあ。」

「グアあああああああっ」


もともと、ロウ=リンドとフィオリナが戦ったのは、やらせ、である。

もともとロウとの出会いは、魔王宮の第二層。ロウはそこの階層主で、ぼくらはその捕虜(と言う体)だった。「吸血鬼の虜」にされてしまうと、グランダのような田舎では、「浄化」と称する半拷問の後、長い幽閉生活が待っているのだ。

それを避けるため、ロウが自分から、首を差し出してくれたのがことの真相だ。


つまりロウは全力で飛ばしていた訳ではない。ある程度、手加減をしていてくれたことになる。


それは、ぼくもフィオリナも十分にわかっている。

ちゃんと感謝もしている。

だから。


「それでもなんかヤダ。

なんでそんなふざけたヤツと。」


「リウ。」

ぼくはロウをほっといて、リウに話しかけた。

時間は、ない。

ないようである。


実際には、転移やら、飛行やら10日の行程を短縮する方法はいくらでもあったりする。


「メンバーの選出はどうする?」


「まかり間違っても死人が出ないようにしたいんだろ?」


「そう。」


「で、最低7人か・・・・」


「わたしはパスするぞ。」

アモンが淡々と言った。

「『神竜騎士団』の面倒を見てやらねばならん。」


「それを言ったらオレも、だな。クラスの奴らの鍛錬を見てやりたい。」

リウは顔を顰めた。

「ギムリウスは、対抗戦などという皆が見守る場で戦うにはちょっとまずいだろう?」


「おい」


それじゃあ、ぼくとロウ、だけか?


「後は、エミリアとドロシー。」


おい!


いや、ちょっと興味はあるんだ。

もともと、ギムリウスの糸は、ヨウィスの操る鋼糸と性能的に互角だったんだけど、果たして、「布」にした場合の耐久性はどっちが勝るのか、とか。


エミリアのせっかくのリウ仕込みの技も一度も見れていないし。


しかし、相手が悪いだろう。

魔道院の長に、古竜までいる。


ドロシーvs古竜か。

もちろん人化限定だけど、ワンチャンあるような気もする。


これで4人。


「言い出したものの責任でルールス先生とネイア先生も入れてみたらどうだ?」

とアモンが言った。


「ネイアはともかく、ルールスはどうなの?

戦える?」

ロウが最もな疑問を投げかけた。


「腕相撲で勝負とかなったら相当やばいだろうけど、なんらかの形での魔法での勝負だったら、相当にできる人だろ?


コアは別にあるとしても、これだけの迷宮を維持しているのは大したもんだと思う。」


そう。


このランゴバルド冒険者学校の敷地は、実際にはこの世界にはない。

全てが、別の世界。すなわち迷宮の中に閉じ込められている。


迷宮構築の理論自体は、一千年前にウィルニアによって完成しているとはいえ、実際にそれを構築、管理している例をぼくは知らない。


「だいたい、伝説の賢者が現代に生きていたんだ。

会いたくないなんて奴がいるか?」


はい。全員が手を上げました。


会いたくはないです。少なくとも積極的には。


「少なくともルールスは合わせてやるべきだとは思う。その上で、ウィルニアがホンモノかどうかは、彼女自身が判断すればいい。」

アモンは、なかなか人情に通じたことを言う。

「もし、冒険者学校の迷宮維持に何か問題が起こっても、わたしとリウがいればいかようにも対処できる。

ルールスとやつの目にとってはまたとないチャンスだ。」


それはそうかもしれない。

とんでもない魔力を持ったものが、入学して来ることは今後あり得たとしても、実際に迷宮を創造し、維持してきたのものが生徒にいる機会などはまあ、あり得ない話だろう。


「これで、6名。


あと、ひとりだな。誰にする?

ギムリウス?」


「ファイユは、もうちょっとダメです。」


特訓初日に、ギムリウスが上半身と下半身を真っ二つにしてしまった少女だ。以来、怪我を異常に恐れるようになってしまい剣の技は防御一辺倒になってしまっている。

しかも今回は、魔道院との対抗試合だ。魔法が使えなければ話にならない。


「アモン? クロウドは。」


「あいつの魔力は、体力、筋力への強化に特化させている。単純な殴り合いの勝負ならともかく、魔法の勝負ではまずいだろう。」


夜が更けていく。

明日の列車に乗らないと、試合日までにグランダへ到着できない。


それに、ルールス先生を連れ出すとなると、それなりの手順が必要だろう。ぼくの憶測まじりではあるが、ルールス先生はランゴバルド自体の偉い人で、冒険者学校のあれこれなど、彼女のキャリアの一つに過ぎないのだ。

いきなり準備もなしに、ここを離れることなど・・・・


「ああ、そうか。」


ぼくは、心強い。

心強くて移動に便利な仲間を思い出していた。


7人目は・・・・・





「こんにちは!メイリュウさん。

またお宅の焼き方を何日かお借りしたいんですけど。」




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