第82話 人間などとは隔絶した高貴なる存在

犯行現場にいるのは。


犯人その1


探偵


それに犯人その2


護衛役のはずが犯人になったやつ。


以上のメンバープラスαが集まり情報交換したところ、次のようなことがわかった。


問題の五枚の神竜の鱗のうち。

竜の都、東域の王の宝物庫、海底に難破船の中に眠っていたもの、は深淵竜なるバカ蜥蜴が持っている。

ミトラの聖光教会本部が秘蔵されていた一枚は、ロゼル一族の手に。

ランゴバルド博物館のものは、ぼくが持っている。


ニフフは、泣いていた。

もともとが謹厳実直なお爺ちゃんの姿なので、見てられない。


ラウレスがなぜかもらい泣きしている。

ドロシーのボディスーツを切り裂き、その、酷いことをしようとした話をきいて、深く共感してしまったのだ。

いや、共感するなよ、とは思うのだが、ラウレスが感激したのは、ニンゲンのメスに対してそういう行為に及ぼうとしたことそのものらしいのだ。


ニフフが竜鱗をそろえようとした理由は、リアモンドを呼び出すこと自体にあったらしい。


古竜たちの多くはこう信じている。

リアモンドは、魔王宮の中に、その意思に反して囚われの身となっているのであって、彼女の鱗を媒介に外の世界へ彼女を解放することができる。

ニフフもそう考えたらしい。


鱗が1枚しかない状態では無理でも5枚がそろえば。


古竜の都から鱗が盗まれ、ミトラの宝物庫のそれも盗まれた。

鱗が一箇所にそろいつつあると知ったとき、ニフフは居ても立っても居られなくなったのだという。


5枚の鱗をそろえるチャンスは目の前にある!


ランゴバルド博物館の警備では、いずれ鱗は盗まれてしまうだろう。

ならば、いっそ自分が確保しておけば、安全だ。


襲ってきた賊を捕らえて、残りの鱗も手に入れば、リアモンドさまを虜囚の身から解放して差し上げることができる。


以上が、ニフフが語った彼の考えの内容である。

嘘ではないだろう。

目の前で、5枚の神竜の鱗がそろいつつある、という状況がおきなければ、彼はこの先も博物館の管理職を実直に勤め上げただろうし、ある意味、被害者と言えなくも


ぼくは傍らのドロシーを見つめた。

ほとんど素肌の上に、黒蜥蜴のジャケットを被っただけの彼女は少し震えている。

顔色は、白茶けてソバカスが目立っていた。


やっぱりもうちょっとイジメておくべきだったか、ニフフ老。


「すると、『紅玉の瞳』とニフフの目的は必ずしも矛盾はしていない。」


ぼくはドロシーの肩に手を回して「回復」の呪文をかけた。寒気の解消には便宜上役にたつ。


『抱きしめてやるんだよっ』

と想像上のリウが笑っているが大きなお世話である。

ドロシーはマシュー坊ちゃんと家庭を持つのだし、ぼくは、フィオリナといちゃいちゃしながら、ハーレムパーティと罵慣れながら、冒険をするのだ。


「神竜を、呼び出すまでは一緒だ。

それが神竜にとって、自分を解放することになるのなら、願いのひとつも聞いてもらえるかもしれない。」


そんなことには、絶対にならないのだけれどなっ!


「逆に言えば、いまこそが我々にとって最大の危機なのかもしれぬ。」


自分の後継者問題については、それなりに納得したのか、しないのか。

相変わらずの無表情(と言うよりぼくの考えるでは魂の摩耗により、感情を喪失している)『紅玉の瞳』の口調はあくまで平坦だ。

だがいちいちエミリアをぶつのは中断している。


「おそらく、神竜の鱗が5枚そろうのは、上古の昔以来、1度もない。」


5枚だけ、そろうのは、な。


「我々に、神竜の鱗を集めるように命じたものは古竜ぞ。

予定とは違った形ながら、当人が持つ3枚と合わせてすべての神竜の鱗がそろったのだ。


深淵竜ゾールが仕掛けてくるとすれば、ここ、だ。」


それはそうなのだが。


「お主が並々ならぬ魔道士であることは理解した。

だが、ひとの力は、根本的に竜に劣る。


鱗がそろってしまえば、もはややつにとってロゼルの意味はない。」


「もともと、鱗の盗難をすべて、ロゼル一族に押し付ける気だったと思うよ。」


「いや・・・竜の都のものはいかに我々でも無理だろう。」


「それはそうだ。そもそも人間にたどりつける場所ではない。」


ラウレスがしたり顔で言った。


「そこだ!」


「どこです?」


「とある馬鹿な竜が、人の街を焼き払うと大騒ぎしたあげく、なにもできないまま、翼を切り裂かれ、のたのたと逃げ出した。

さらに、人化して冒険者学校の入学試験に試験官として潜り込んで、受験者に二回も叩きのめされて、にげだした。」



「ええっ!」


エミリアが叫んだ。あわてて、口に手を当てたが、『紅玉の瞳』はもう彼女を叩こうとはしなかった。


「あのときの・・・」


「そのあと、同じ女の子にまたもやられかけて、下水に逃げ込んだんだが・・・」


エミリアのラウレスを眺める目の玉がこぼれそうになっている。


「まあ、そんな行き場のない、先も見えない竜が、とある港町で飲んだくれているときに、なにやら頼まれごとをやってくれれば、人間界でしかるべき地位を用意してやると甘言をもって勧誘されたらどうなるか。


そう、たぶん、人間の盗賊にはできない部分の責任を押し付けられて、古竜たちから断罪される。」


ラウレスの目もこぼれそうなくらいに大きく見開かれた。


「と、言うわけで」


ぼくは一同を見回した。


「当たり前なら、一瞬で蹴散らされかねない我々ですが、なんとそのうち二人が人化した古竜なのです!


次元竜二フフどの! そして、黒竜ラウレスどの!」


ラウレスが突然、ぼくの手をがっと握った。きもちわるっ!

目がうるうるしている。


「は、はじめてラウレスって、竜って呼んでくれたっ!」


「というわけで、普通ならいかに深淵竜ゾールといえど、二対一で仕掛けてくるとは思えないのですが・・・」


ぼくは、笑顔でラウレスの両肩をぽんぽんと叩いて笑った。

ラウレスの顔がひきつる。あ、いかん、怖い笑い方をしてしまったようだ。


「おまえら、竜の中でどんだけランクひくいんだ?」


部屋の天井の空間が裂けた。


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